がしんしょうたん
他の学校と練習試合をした。
去年の夏の大会、その成績では自分たちの方が上だ。こっちは一回戦を勝ち、二回戦で負けたが、あっちは一回戦で負けている。
それで、今日は勝てると思って臨んだ試合だったのに、まさかの敗北。
部員たちは落ち込んだ。
そんな彼らに、監督が語る。
中国の故事だ。『臥薪嘗胆』という話。敵に敗れた王の話だ。
――いつか復讐を成し遂げるために、薪の上に寝たり、苦い肝をなめて、過去の屈辱を忘れない。
もともとはそんな意味だが、現代では「一時の苦労に耐えて努力を重ね、目的を達成する」という意味にもなっている。
「今日の試合に負けた悔しさを、これからの練習にぶつけよう! そして、夏の大会で去年よりも勝ち進もう!」
監督が帰ったあとで、部員たちは考える。
「『臥薪嘗胆』か」
「夏の大会まで残り期間は少ないけど、みんなでやってみる?」
とはいえ、さすがに「薪の上に寝る」のはあり得ない。体の回復は重要だ。それを損なっては、満足な練習ができなくなる。
「じゃあ、もう一つの方か」
「たしか、『肝をなめる』だっけ?」
そういうわけで、インターネットで検索してみる。
「『肝』。あと、なめるんだから、『食用』っと」
すると、いくつもの画像が表示された。
フォアグラを使ったフランス料理の数々。フォアグラをテリーヌに入れたり、サラダに混ぜたり、ステーキに添えたり。
さらに、あんきもを使った和食の数々。あんきもにポン酢をかけたり、天ぷらにしたり、お寿司にしたり。
「変だな。どれも美味しそうに見えるんだが・・・・・・」
部員たちは考える。
ひょっとして、監督が『臥薪嘗胆』の意味を、何か勘違いしているのでは。
敵に敗れた王さまの話らしいから、
「こういう美味しいものを食べたいけれど、今は落ちぶれてお金がないから、王さまは肝だけをなめて我慢したとか、それが本当の意味じゃないのか?」
「あり得るな。いつか返り咲き、こういう美味しいものを食べる。そんな気持ちを忘れないために、肝だけを安く買ってきて、それをなめたのかも」
たぶん、そうだ。そうに違いない。
「じゃあ、夏の大会で二勝したら、この中のどれかを、みんなで食べに行くか」
「いいな。『臥薪嘗胆』だ。今日の試合に負けた屈辱に耐えて、夏の大会で結果を出そう。そして、みんなで美味しい肝を食べに行くぞ!」
それから彼らの練習が変わった。
「『臥薪嘗胆』!」
「『臥薪嘗胆』!」
それが部員たちの口ぐせになった。
さらにノックの時、気分が高揚すると、
「フォアグラー!」
「あんきもー!」
思わず叫ぶ。
監督も薄々気づいていた。部員たちが『臥薪嘗胆』について、何か変な誤解をしているっぽい。
しかし、彼らは今、目標に向かって突っ走っている。チームは確実に強くなっているし、この勢いを削いでは駄目だ。
だから、監督も叫び返す。
「フォアグラー! あんきもー!」
しばらくして、夏の大会が始まった。
まずは一回戦に勝利。
さらに二回戦でも勝利する。
ゲームセットの直後、部員たちはマウンドに集まると、
「フォアグラー!」
「あんきもー!」
人さし指を高々と、天に向かって突き上げた。
これが彼らの『臥薪嘗胆』。
そして、実際に食べた「フォアグラ」と「あんきも」は、とても美味しかったのだ。
次回、ちょっと二軍にいただけなのに、こんなことになるなんて・・・。




