おさがり
小学生の兄弟がテレビゲームをしていた。
戦国時代を舞台にしたアクションゲームだ。戦国武将を操作して、大勢の敵を倒しまくるゲーム。
小六の兄と小三の弟は協力プレイをしていた。敵本陣を目指している。
ゲーム機のコントローラーをにぎりながら、兄が言った。
「俺が武田信虎だとしたら」
「それ、誰?」
「おまえが使っている武田信玄、その父ちゃんだ。武田家十五代当主、武田信虎」
敵本陣が見えてくる。上杉謙信の本陣だ。
「俺が武田信虎だとしたら、今のおまえは武田信玄だ。それでおまえに、伝統ある武田家を受け継いでもらいたい。おまえが十六代当主になるのだ」
兄の言葉に、弟はきょとんとする。意味がわからない。兄が操作している戦国武将は、毛利元就だ。武田信玄の父ちゃんではない。
でも、兄を怒らせるのも何だし、とりあえずうなずいておく。
「そういうわけでだ」
兄がコントローラーのボタンを押して、ゲームを一時停止の状態にする。
そして一旦、その場を離れた。
すぐに戻ってくる。その手には、使い古しの「野球のグローブ」があった。
「これをおまえに譲る。俺が武田信虎だとしたら、おまえは武田信玄だ。武田家の次期当主として、このグローブを受け継いでくれ」
何だかよくわからないけれど、このグローブをくれるらしい。
素直に受け取る弟。
兄はにこにこしながら、ゲームの一時停止状態を解除する。協力プレイを再開した。
実は昨日、新しい「野球のグローブ」を買ってもらったのだ。
で、古いグローブは弟に譲る。そのように父ちゃんと約束していた。
とはいえ、普通に渡した場合、「おさがりじゃん!」と弟が不満に思うかもしれない。
だから、策を用いることにした。
戦国時代のアクションゲームをしながら、「おまえが次期当主だ。これを受け継いでくれ」と言って、古いグローブを譲る。
こうすれば、ただの「おさがり」ではなく、由緒正しき「次期当主の証」っぽい。ありがたみが違ってくるだろう。
(うまくいった♪)
兄は自分の策を、心の中で自画自賛する。
(弟よ、頭はこうやって使うのだ♪)
で、翌日になる。
弟は図書館に行って、マンガでわかる「日本の歴史・戦国時代」を借りてきた。
それで調べる。
武田信玄(十六代当主)について。
あと、武田信虎(十五代当主)について。
さらには、武田信玄の息子、武田勝頼(十七代当主)について。
その結果、
(だめじゃん!)
武田信虎(十五代当主)――武田信玄によって「追放」。
武田勝頼(十七代当主)――戦いに負けて「自害」。武田家「滅亡」。
武田信玄(=自分)は良くても、その前と後が悲惨だ。
(縁起でもない!)
すぐに兄のところへ行くと、
「これ、いらない。返す。次期当主にならなくていい」
使い古しのグローブを返品した。
次回は『一軍合流』というお話です。




