入れ替わり
プロ野球の日本一決定戦も大詰めだ。
三勝三敗で第七戦を迎えた。今日の試合に勝った方が、日本一に輝く。
そんな試合の直前、両チームの監督は同じことを考えていた。
ここまでの六試合、こっちは「相手チームのレベルについていく」のに、精一杯だった。三つ勝てたのは、はっきり言って運のおかげ。
なのに、相手チームにはまだ余力がありそうだ。
結果は三勝三敗でも、こっちは満身創痍。今日の試合に勝つのは、難しいと思う。
そんなことを、どちらの監督も考えていた。
そして、運命の試合が始まる。
審判が「プレイボール!」を告げた直後だ。
ここで奇妙なことが起こる。
二人の監督は頭がくらっとした。
突然、目の前の光景が微妙に変わる。
(あれ?)
そう思いながら、周囲をきょろきょろしていると、
「監督、どうしました?」
コーチが話しかけてくる。
とっさに言葉が出なかった。
というのも、話しかけてきたのは、相手チームのコーチだ。
で、周囲にいるのは、相手チームの選手たち。
頭の中を「?」が埋め尽くす。
どうやら自分が今いるのは、相手チームのベンチらしい。
戸惑っていると、コーチが不思議そうな視線を向けてくる。
その視線に対して、監督は曖昧な笑みを返した。
とりあえず、ベンチの外へと身を乗り出してみる。
反対側のベンチを見た。さっきまで自分がいた場所。
思わず言葉を失った。
反対側のベンチに、「自分」がいる!
あっちもちょうど、ベンチの外へと身を乗り出したところだった。
反対側のベンチにいる自分と、目が合う。
(どういうことだ?)
わけがわからない。
呆然としていると、またもやコーチが聞いてくる。
「監督、何か気になることでもありましたか?」
正直に話したところで、すぐに信じてもらえるとは思えない。
なので、ごまかす。
「い、いや、何でもない。緊張のしすぎだと思う」
それでコーチは納得したようだ。
監督は大きく息を吐いた。ベンチに腰を下ろして、今の状況について考える。
どうやら、相手チームの監督と「体が入れ替わってしまった」みたいだ。
常識的にはあり得ない。
だが、実際にそうなっている。本当にわけがわからない。
(どうしよう?)
今の状況を、隣にいるコーチに説明するか?
しかし、信じてもらえる保証はない。
しかも、すでに試合は始まっている。「プレイボール」が告げられてしまった。
(こうなったら)
監督は反対側のベンチに向かって、ボクシングのファイティングポーズをしてみる。胸の前で両方の拳を構えてみた。
こっちの意図が正しく伝わるか、正直不安だった。
が、あっちの監督も同じポーズを返してくる。どうやら、うまく伝わったらしい。
とりあえず、自分たちの体が入れ替わったことは伏せたまま、この試合を続けるのだ。
もしかしたら、試合中に「元の体に戻ることができる」かもしれないし・・・・・・。
(どっちが勝っても、恨みっこなしで)
目で語りかける。
少しして、相手がうなずいてきた。
そうと決まれば、ここから先は全力で采配するだけだ。
そのあと、つい内心でほくそ笑む。
戦力的に有利なのは、こっちのチームだ。何だか得した気分。
(この試合、勝てるぞ!)
そんな自信から、今日は強気な采配をする。
それに選手たちも応えてくれた。うん、やはり、こっちのチームの選手たちは優秀だ。
おかげで、采配がズバズバと当たる。神懸かったような采配。
なのだが、相手チームもなかなかしぶとい。
あっちの監督も采配をズバズバ当ててくる。あと、やはり選手たち。本当に優秀だ。
今は敵味方の関係ではあるものの、
(やるな)
これはこれで嬉しい。
一進一退の攻防が続く。
三勝三敗で迎えた第七戦だ。この激闘を制した方が日本一になる。
試合が終盤に入った。
が、膠着状態だ。同点のまま、回を消化していく。試合を決める一点が入らない。
監督はふと思った。
(もしも、ここで相手チームが、あの若手選手を代打に出してきたら・・・・・・)
そうなったら、あっちが勝つ。そんな考えが、頭をよぎった。
あっちのチームはもともと、自分が率いていたチーム。だからこそ、わかる。こういう場面で、あの若手選手は不思議と打つのだ。データの数字だけを追っていては、気づきにくい情報。
(これは、まずいかもな)
しかし、相手チームの監督は動かない。たぶん気づいていないのだろう。
(もったいないな。こっちとしては助かるけれど)
なおも、試合は進んでいく。
そして、九回裏まで終わった。まだ同点だ。延長戦に突入する。
その直後、監督は頭がくらっとした。
突然、目の前の光景が変わる。
(ここは・・・・・・)
試合開始直後と同じように、周囲をきょろきょろしていると、
「監督、どうしました?」
コーチが話しかけてくる。味方のコーチだ。今シーズンを一緒に戦ってきたコーチ。
それで理解した。
(体が元に戻っている!)
思わず笑みがこぼれてきた。
(そうだ。自分はやはり、このチームで日本一になりたい!)
監督はすぐさま、ベンチの外へと身を乗り出した。反対側のベンチを見る。
すると、あっちの監督も同じ行動をとっていた。ベンチの外に身を乗り出している。
目が合うなり、相手が笑いかけてきた。
そして、ボクシングのファイティングポーズをしてくる。胸の前で両方の拳をを構えていた。
こっちも同じポーズを返す。
(どっちが勝っても、恨みっこなしで)
目で語りかけると、相手がうなずいてきた。
そうと決まれば、全力で采配するだけだ。
目指せ、日本一!
次回は「小学生の男の子」が出てきます。




