第八十九話
マスクウェルはアンリの案を実行する為に動き出した。
物書きの採用をする為に早馬を手配し王国全土に布告する。
どれぐらいの応募者が集まるかはわからないがこれで文官の方は打てる手を打ったと思っていいだろう。
試験問題については過去に実施したものをベースに手配すればいい。
問題なのは治水だ。
大事なことではある。
直轄領に通すだけでも複数の貴族の領地を経由する為、説得や根回しが必要だ。
そして、経由する貴族だけが恩恵を受ければそれはそれで貴族間の争いになりかねない。
それを考えたら王国全体に利益が出るようにする必要がある。
それに王国の財政状況を考えると全てを一気に進めることなど不可能だ。
大物貴族達には悪いが自力では実行不可能な貴族を優先することを決めていた。
だが、蔑ろにすれば不満が出てくるだろう。
今後の収支を計算し年度ごとにどこを実行するのか。
それを明確にすることで納得してもらう。
地図を見て大雑把にだが今年度の治水工事実施場所を決める。
「忙しい中、すまないが集まってくれ」
マスクウェルはそう言って文官達を集める。
「王太子殿下。これは?」
机の上に広がっている地図を見て文官達が聞いてくる。
「治水工事をしようと思ってな。大雑把だが計画を立てた。穴があれば埋めてもらいたい」
「なるほど・・・」
そう言って文官達は話し合いを開始する。
十分な議論がなされたところで文官達は報告する。
「計画としてはこれでよろしいかと。ですが、実際の場所を確認し場合によっては設計を変更した方がよろしいでしょう」
「そうだな・・・。その辺は臨機応変に頼む」
「では、関係各所と細部を詰めてまいります」
文官の1人が地図を持ち部屋を出て行った。
「私は貴族達と話してくる」
「わかりました。残りの仕事はこちらでしておきます」
「すまないが、よろしく頼む」
マスクウェルとしても仕事が大量に残っている状態で文官達に押し付けるのは気が引けるが貴族を説得する必要がある。
それはマスクウェルの仕事だ。
それにタイミングの問題もある。
現在は、非常事態が続いたことで多くの在地貴族が王都に集まっている。
王国全土から招集する手間を考えれば集まっている今のうちに話を進めるべきだった。
使用人に貴族の招集を命じる。
全員が集まるまでには1時間ほどかかるだろう。
その間に貴族達を説得する言葉を考える。
これは王国を大きく変える政策だ。
失敗は許されない。
いくつも修羅場をくぐってきていたがそれでも失敗できないとなると緊張する。
マスクウェルはアンリのことを思い浮かべる。
アンリのことを考えると自然と心が落ち着いてくる。
アンリの為にも貴族を絶対説得する。
そう心に決めて貴族達が集まってくるを待っていた。




