第七十五話
「アンリ。まずいことになった」
マスクウェルは息を整えながらそう言ってくる。
「何があったのですか?」
「今回の件を裏で画策していたのは叔父上だ」
アンリはそこで王家の家系図を思い出す。
実際に会ったことはないが国王であるアッカバーンには弟がいたはずだ。
「叔父上ってことは・・・。王弟殿下?」
「そうなる」
そこに足音荒くこの部屋に近づいてくる一団がいた。
マスクウェルとリーシャはアンリを守るように立ちふさがる。
「マスクウェル。久しいな」
「叔父上・・・。何故、このようなことを?」
「何故・・・?何故だと・・・?」
そう言って王弟であるアッサムは心底哀れな者を見るように3人を見る。
「ただ、後に生まれたというだけで何も手に入らない。そんな理不尽なことがあってなるものか」
王国では通常、男児の長子が後を継ぐ。
マスクウェルにも姉がいるが男児の中では長男だった。
「お前も悪いのだぞ?」
そう言ってマスクウェルに口撃を仕掛ける。
「私が何かしましたか?」
「お前が生まれなければ私にもチャンスがあった。優秀でなければ廃嫡に追い込むことだって」
マスクウェルは次期国王に相応しく常に優秀であり続けた。
その状態で廃嫡などありえない。
「それがこの暴挙だと?」
「隣国の影響は確かに免れないだろう。だが、それでも私がこの国の王になれるはずだった」
アッサムはそう言い切る。
王国が敗戦してもそれだけで統治は難しい。
だが、国王として正当な血脈であるアッサムが協力をすれば確かに国民は納得するだろう。
不満はあれど表面的にはうまくいくかもしれない。
だが、それが成立した時、この王国は隣国の奴隷に成り下がる。
欲に囚われたアッサムにはそれが理解できていないように見えた。
「叔父上。貴方のしたことは許されることではない」
「勝てば何でもいいのだよ。この人数差だ。勝てるとは思ってはいまい?」
アッサムの周囲を武装した男達が固めていた。
私兵という奴だろう。
「諦めるとでも?」
マスクウェルはそう言って剣を構える。
「ホークの小娘は厄介そうだが、そちらの娘はそうではあるまい?」
アッサムはそう言ってアンリを見る。
マスクウェルとリーシャだけなら自分の身を守れただろう。
体調の万全でないアンリを守りながら戦うのはかなり不利なはずだ。
「アンリは必ず守る」
マスクウェルはそう宣言する。
だが、アンリは足手まといになることを良しとしていなかった。
確かに体調は万全ではない。
だが、ガスパーに鍛えられたのだ。
自分の身を守る術は身に着けている。
「マスクウェル殿下。自分の身は自分で守ります」
アンリはそう言って棚に置かれたままになっていた自身の剣を手に取った。




