第七十三話
マスクウェルはこの日もアンリの元に戻ってきた。
「ただいま」
「お帰りなさい」
「初日はどうだった?」
「この国の現状がよくわかった気がします」
このような状態ではマスクウェルが抜けるわけにはいかないだろう。
だが、それでもマスクウェルは時間を捻出しアンリの元に戻ってきてくれる。
アンリはそれだけで嬉しかった。
「アンリ達のおかげで少し余裕ができた。ありがとう」
アンリとリーシャの2人だけではたかが知れている。
それぐらい王国の現状は酷い。
「今はプライベートな時間だ。仕事のことは忘れてゆっくりしよう」
「はい」
アンリはこの日もお茶の準備をする。
2人でお茶を楽しむのが日課となっていた。
今回のお茶は淹れている段階で独特な匂いがする。
嫌な匂いではないがそれでも好みがかなり分かれそうだ。
「マスクウェル殿下。どうぞ」
アンリはマスクウェルの前にお茶を出す。
「ありがとう」
そう言っていつものようにマスクウェルは匂いを確かめる。
「ふむ・・・」
アンリはマスクウェルの表情が一瞬固まったのを確認した。
「嫌いな匂いでしたか?」
「そうだな・・・。少し苦手かもしれない」
「では、別のお茶にしますか?」
「いや。せっかく淹れてくれたんだ。頂くよ」
そう言ってマスクウェルはお茶を口に含む。
「どうですか・・・?」
「味は悪くないな・・・。だが・・・」
「やはり匂いが駄目ですか?」
アンリはマスクウェルに確認する。
「すまないが次からは別ので頼む」
「わかりました」
苦手な物を無理して飲む必要はない。
リラックスする為のお茶なのにそこでストレスを感じては意味がないからだ。
アンリも飲んでみるが味は確かに悪くなかった。
これは自分用にしようと心のメモに書き込んだ。
少し待っていると夕食が運ばれてくる。
メニューも特別に用意してくれているようで消化が良く体力がつく物が中心だった。
そのおかげもあってアンリは順調に回復してきている。
今日は書類仕事で疲れてはいるが料理を食べればまだまだ頑張れそうだ。
夕食後は一緒にお風呂に入りそのままベットに移動する。
ここからは完全に恋人同士の時間だ。
お互いがお互いを求めている。
常に一緒に居られない反動か自然と濃厚な時間となる。
次の日も政務はあるが2人は夜遅くまでお互いを求め続けた。
アンリは疲労を覚えつつもマスクウェルの温もりを確かめる。
多くの貴族女性が望んでも手にいられないマスクウェルの愛を独り占めしている。
政略によっては今後、マスクウェルの奥方は増えるかもしれない。
それでも今は自分だけの物だ。
そこにアンリは安心感を覚えていた。




