第七十二話
マスクウェルを見送った後に部屋にメイド達が用意されていた書類を運び込む。
この部屋に立ち入れるのはリーシャが認めたメイドだけなので機密保持も完璧だった。
アンリは早速書類を読みはじめる。
リーシャも隣で書類の処理をしている。
アンリは無意識に前世の文字である日本語で走り書きを書く。
王国の文字を読み書きできるようになったとはいえ、長年慣れ親しんだ日本語の方がアンリにとっては扱いやすかった。
独特の表現に苦戦するがそれ以外は順調だ。
書類を処理するペースも慣れてきたら自然と上がっていた。
「アンリ様。そろそろ休憩しましょう」
リーシャがそう声をかけてくる。
アンリが外を見れば日の位置でかなり時間が経っているのがわかった。
「いつの間にこんな時間に・・・」
「集中されていましたからね」
リーシャはそう言いつつ備え付けの茶器でお茶を用意する。
アンリは書類が汚れないようにスペースを開けた。
「それにしても書類の数が多いですね」
アンリはそう言ってまだまだ山になっている書類を眺める。
「私にまで声がかかるぐらいですからね・・・。本当に人手が足りないのでしょう」
リーシャはそう言う。
王国の危機は回避された。
だが、王国の受けたダメージもまた大きい。
受けたダメージから回復するには長い時間がかかるのかもしれない。
「アンリ様。疲れてはいませんか?」
「いえ。私は大丈夫です」
前世では嫌というほど書類と格闘していた。
これぐらいの量なら全然問題がなかった。
「それにしても、はじめて書類仕事をするとは思えませんね」
リーシャは中々鋭いところを突いてくる。
前世のことを話すわけにもいかなかったのでアンリは笑って誤魔化すことにした。
「思ったより才能があったようです」
「そのようですね」
お茶でリラックスした後は再び2人で書類を片付けていく。
処理の終わった書類はメイド達が各部署に届けている。
そのおかげもあってアンリとリーシャは書類を片付けることだけに集中することができた。
だが、各部署からは追加の書類が続々と届く。
その結果、終わらないデスマーチの状態になっていた。
「アンリ様。今日はこの辺にしておきましょう」
「そうですね・・・。終わる量ではありませんし・・・」
終わる量なら無理してでも終わらせたいところだが、山となっている書類を見てアンリは諦めた。
これだけ書類がまわってくるところを見ると各部署は本当に火の車なのだろう。
これが長く続けば再び王国の治世が傾きかねない。
何かしらの対応が必要だろう。




