第七十話
王国内の秩序は急速に回復しつつあった。
その過程で隣国の件とは関係ない貴族も一部処罰された。
王国の秩序が回復したのは喜ばしいことだが、問題も発生していた。
統治者のいなくなった領地を巡り、派閥争いが発生していたのである。
罰せられなかった貴族の多くは自分の派閥の益になるようにロビー活動を活発化させている。
だが、アッカバーンはそれを良しとせず、多くの領地に代官を派遣し一時的に直轄地とすることで騒動を収めようとした。
多くの文官が派遣され王城内に常駐する文官もその数を減らしており、残った文官たちは碌に休憩も取れぬままデスマーチ状態だった。
それは派遣された代官達も同じことだ。
マスクウェルは父であり国王であるアッカバーンに弱音を吐く。
「国王陛下。このままでは・・・」
「わかっておるが、打てる手はない」
アッカバーンはそう断言する。
文官というのは募集したからといって集められる類の人材ではない。
識字率をクリアできても書類を処理することは難しい。
その上、機密保持の問題もある。
新しい人材をポンポン増やすわけにもいかなかった。
それとアッカバーンには気になることがあった。
「アンリ嬢はどうしておる?」
「リハビリを頑張っておりますが・・・」
「そうか・・・。余裕が出てきたからだろうな。お主の近くにいない傍付きは相応しくないと騒ぐ連中がでてきている」
「それは私も確認しております」
「アンリ嬢は文字の読み書きは可能か?」
アッカバーンはそうマスクウェルに確認を取る。
「簡単な文字なら可能かと・・・」
マスクウェルもアンリがどこまで読み書きを習得しているか実のところ把握してなかった。
「一度、どれぐらい可能なのか確認するように。出来るようなら仕事をまわす」
「わかりました」
アンリは王族の中では完全に身内扱いだ。
機密書類に触れられても全く問題ない。
書類仕事は独特なセンスがいる作業だが比較的簡単な物からはじめて難易度をあげていけばいいだろう。
「ついでにリーシャ嬢にも働いてもらうとするか」
「そうですね・・・」
リーシャは王家の目としての大切な役目がある。
情報処理能力は間違いなくこの国でもトップクラスだった。
その処理能力を王国の安定の為に借りる。
ただのメイドでは不可能だがアンリの部屋で共に作業をしてもらえれば誤魔化すことも可能だろう。
仕事を終えたマスクウェルはいつものようにアンリの部屋に帰る。
その手にはアンリがどの程度、文字を習得しているか調べるための文書を持っていた。




