第六十二話
治療を続けていたアンリの元にも前線の情報が入ってきた。
その情報を持ってきたのは休憩の為に一時的に席を外していたリーシャだった。
「アンリ。王太子殿下が勝ったそうよ」
「そう・・・。よかった・・・」
アンリは心の底からマスクウェルの無事を喜んでいた。
「今、王都に向かってるって」
「戻ってくる・・・?どうしよう・・・」
アンリは会いたい気持ちも当然ある。
だが、今の体の状態で会うのには躊躇いがあった。
「会うのが怖い・・・?」
リーシャはアンリにそう聞いてくる。
「今の状態じゃ女だってバレちゃう・・・」
アンリは女であることを隠して傍付きとなった。
女嫌いであるマスクウェルにとってそれは致命的な裏切りになるだろう。
「なるほど・・・」
リーシャは意味ありげに言葉を濁す。
何かを企んでいるようなそんな気がする。
「何かあるの?」
「ううん。何でもないわよ?」
リーシャはそう言って笑みを浮かべてくる。
「どちらにせよ薬は抜かないとね」
そう言ってリーシャはアンリに近づいてくる。
「またするの・・・?」
「アンリは嫌・・・?」
「嫌ならやめてくれるの?」
アンリの言葉にリーシャは少し考える。
「んっ~。している時のアンリは可愛いからやっぱりダメ」
そう言って一気に距離を詰めてくる。
治療行為であることは確かなのだがアンリにとっては問題だった。
治療行為を通して与えられる刺激は自分が女になったのだと強く意識させられる。
前世が男であっただけにその戸惑いはいまだに抜けない。
だが、治療行為が進むにつれその戸惑いは意識の外に追いやられていった。
王都への道中、マスクウェルの元に1つの情報が伝えられた。
「アンリが意識を取り戻した・・・?」
「はい。まだ、治療中とのことですが峠は越えたと」
「そうか・・・。よかった・・・」
暗い情報ばかりが耳に入ってきていたが久しぶりに聞く朗報だった。
傍で聞いていたアグニも娘の回復に胸をなでおろしていることだろう。
だが、マスクウェルは少し考えこんでしまった。
自分はアンリを前に抑えきれるだろうか。
アンリを失うと思ったときに自分の気持ちに気がついてしまった。
傍付きとして大事に思っていたのは確かだ。
だが、アンリを女性として好きなのだと。
この気持ちを抑える事など不可能だ。
アンリを目の前にしたら我慢など出来そうにない。
マスクウェルは逃げだとわかっていたが仕事のことを無理矢理考える。
だが、思考はまとまらずすぐにアンリのことを考えてしまう。
今はとにかく早くアンリに会いたかった。




