第六十話
マスクウェルとマルスは厳しい戦いに身を置いていた。
「王太子殿下・・・。どうやらここまでのようです」
マルスは辛そうにそう進言する。
中央の兵が今にも瓦解しそうになっていた。
何とかしたいが予備兵力ももう底をついている。
マスクウェル達に打てる手はもう存在していなかった。
「アッカバーンとアグニ卿は間に合わなかったか・・・」
「そうですね。私が時間を稼ぐので王太子殿下はお逃げください」
「いや。しかし・・・」
マルスという忠臣を失っては本当にどうしようもなくなってしまう。
だが、2人揃って離脱するのは不可能な状態だ。
マスクウェルは王太子としてここで死ぬわけにはいかない。
考える時間はほとんど残されていない。
それでも決断をしなければならなかった。
「マルス卿・・・。すまない・・・」
マスクウェルがそう告げた時だった。
隣国の陣で騒ぎが起きる。
「何が起きた・・・?」
マスクウェルは相手の陣地を確認する。
そこには王国の騎士団の旗が揺れていた。
「まさか・・・。アッカバーンか・・・」
「そのようですな・・・。主を囮にして機会を窺っていたとみえる」
「話は後だ。残存戦力を全て投入し援護する」
「失敗すれば全滅ですが?」
「その時はその時だ」
「では、参るとしましょう」
マスクウェルとマルスは全軍に突撃を命じる。
これが最後の戦いになるだろう。
敗れれば全滅だ。
だが、全滅する気などさらさらない。
マスクウェルもマルスも指揮官としては失格だが最前線で剣を振るう。
全身敵の血で血まみれだ。
どれぐらい時間が経ったのか鬨の声が上がる。
相手は陣形を維持できずバラバラに撤退していく。
「どうやら勝ちましたな」
「そのようだ」
戦場では何が起こるかわからない。
注意しつつ吉報を待つ。
敵陣の方からやってきたのは首を抱えたアグニとアッカバーンだった。
「王太子殿下。ご無事で?」
「あぁ。無事だ。だが、お互い酷い姿だな」
「王太子殿下。遅れて申し訳ありません。ですが、大将首です」
そう言ってアグニはマスクウェルに首を差し出す。
「いや。その功績はアグニ卿のものだ」
「ありがとうございます」
「王太子殿下。これから忙しくなりますぞ」
マルスはそう言ってくる。
「確かにその通りだな。残存戦力を確認し戦力を立て直す」
「王太子殿下。それは我々が。少しお休みください」
「わかった。だが、お前達も休めよ」
マスクウェルは信頼できる配下に後のことを任せ少し休むことにした。
これで隣国が諦めてくれるといいのだが・・・。
そんなことを考えながら眠りについた。




