第五十九話
敵を突破しマスクウェルはマルスと合流する。
「待たせたな」
「お待ちしておりました」
お互いに敵を相手にしながらの挨拶だ。
「まずはこの場を切り抜ける。行くぞ」
「はっ。お供いたします」
王太子であるマスクウェルの登場に味方の兵士が息を吹き返す。
隣国の兵士たちはその勢いに耐えきれず撤退していった。
「何とかなったな・・・」
「そうですな・・・。ですが・・・」
犠牲になった兵士があまりにも多い。
残った兵士達も傷だらけだ。
アッカバーンとアグニも急いでこちらに向かっているだろうが次に衝突があればどうなるかはわからなかった。
その頃、王宮で治療を受けていたアンリに変化があった。
それに真っ先に気がついたのは治療行為を続けていたリーシャだった。
「アンリ・・・?」
「リーシャ・・・?」
「良かった。意識が戻ったのね」
リーシャはそう言って涙を流す。
「体の調子はどう・・・?」
「体が熱い・・・。何これ・・・」
アンリの体にはまだ媚薬の効果が残っていた。
廃人になってもおかしくない薬だ。
こうして意識を取り戻したのは奇跡に近い。
「どこまで覚えてる?」
リーシャはアンリにそう問いかける。
「私・・・。攫われて・・・」
アンリはそこで怪しげな薬を飲まされたのを思い出す。
「変んな薬を飲まされて・・・」
「アンリが今苦しんでるのはその薬のせいよ」
「そう・・・。王太子殿下は・・・?」
「王太子殿下は出征されたわ」
「出征?」
「アンリが攫われたのも全て隣国の策略だったの」
「そんな・・・。私のせいで・・・」
アンリはそう言って顔を青ざめる。
「アンリ・・・。自分を責めないで。遠からずこうなる運命だったのよ」
アンリの件がきっかけになったのは確かだ。
だが、隣国はいつかは仕掛けてきていた。
それは間違いない。
「アンリは自分の体のことだけを考えて」
アンリの体は熱を持ち力は入らず満足に動かせる状態ではなかった。
アンリに出来ることはマスクウェルの無事を祈ることだけだ。
「大丈夫。アンリの元にちゃんと帰ってくるわ」
リーシャはそう言ってアンリを励ます。
こうして無事にアンリの意識が戻ったのだ。
ならば、マスクウェルは何が何でも戻ってくるだろう。
リーシャはアンリのことが心配で何度も部屋の前に尋ねてきていたのを知っていた。
アンリも何度かうわごとのようにマスクウェルを呼んでいたのを知っている。
2人はお似合いの夫婦になるだろう。
胸にちくりとしたものが走るが時間が経てば自分は大丈夫だ。
リーシャは自分の感情にそっと蓋をした。




