第五十五話
アンリが倒れてから1週間が経過した。
リーシャはこの1週間まともに休憩もとらず治療行為を続けていた。
リーシャが懸命に治療行為を続ける中、アンリが意味のある言葉を発する。
「殿・・・。下・・・。マスクウェル殿下・・・」
「アンリ?しっかりして。大丈夫だから」
リーシャはアンリに話しかけながらも治療行為を続ける。
まだ、アンリの心は壊れていない。
それだけを希望に治療行為を続けた。
マスクウェルは自分の心を誤魔化すように仕事に取り組んでいた。
何かをしていなければ心が壊れてしまいそうだった。
リーシャが治療行為を続けているのは知っている。
心配になり何度も部屋の前に行ったがその度に鉄壁の布陣を布くメイド達に追い返された。
部屋の中からは苦しそうなアンリの声が漏れていた。
その声を聞くたびに胸が締め付けられる。
愛しい人に自分が何もしてやることが出来ない。
この1週間で罪を犯した貴族達の情報はかなり集まっていた。
実働で動いていたのはアンリの父であるアグニだった。
娘があんな状況になったのだ。
アグニも自分と同じような状況だったのかもしれない。
集まってきていた情報の中に気になるものもあった。
王家と敵対しているとはいえ、敵対派閥があそこまで動いていたの不自然ではあったのだ。
隣国の影がちらほらしている。
どうも、捕まえた元大貴族の息子である奴隷商がパイプ役となり裏で繋がっていたようだ。
国内のことならまだしも隣国が関わっているとなると判断が難しい。
アンリの件だけでは隣国を罪に問うのは難しいだろう。
「はぁ・・・。私は無力だな・・・」
思わずマスクウェルはそう呟く。
独り言に答えが返ってくるとは思わなかった。
「王太子殿下・・・」
「セイルか・・・。いつからそこにいた?」
「かなり前から・・・。こんな時です。もう少し気をつけてください」
これでマスクウェルに何かあれば国内が大混乱に陥る。
セイルの言も間違っていなかった。
「すまない。気をつける。それで何かあったのか?」
「罪の確定したものから死刑の執行が決まりました」
「とかげの尻尾切りだがな」
今回の件であきらかになったのは王都の貴族だけだ。
だが、これだけ膝元に食い込まれていたのだ。
地方貴族にも隣国の影響を受けている者がいるだろう。
それらを正常化することを考えると頭が痛い問題だ。
だが、次代の国王としてこれは放置できない問題だ。
王都が安定次第、地方にも信頼出来る者を派遣する必要があった。




