第四十話
「ある時、王都で人攫いが横行してな。事態を重く見た王家は勅命で捜査をしていた」
「人攫いですか?」
「王都での人攫いなど醜聞だ。だが、捜査は一向に進まず、被害は増える一方だった」
確かに王都でそんなことが起きれば恥さらしもいいところだ。
「ガスパー様も関わっていたのですか?」
「実働部隊の責任者だった」
「では、当然父もその実働部隊の中に・・・」
「そうだ。だが、被害はとうとう貴族の中にも出てしまった」
「それは・・・」
王家からすれば必死に捜査はしている。
だが、貴族の中に被害者が出れば多くの貴族がそれを責めるだろう。
「多くの貴族令嬢が攫われ私も責任を取らされることになった」
実働部隊の責任者が責任を取るということは捜査に支障が出そうだ。
「私は謹慎を言い渡され自由に動けなくなったがそれはそれで仕方ない。だが、地道に捜査を続けている者もいた。その中の1人がアグニだ」
「父が・・・」
「捜査をしている時に偶然、1人の令嬢が攫われるところに遭遇したそうだ」
「それで父はどうしたのですか?」
「わざと泳がせ真犯人を突き止めた」
「大手柄ですね」
「だが、問題はその真犯人だったのだ」
「どういうことです?」
「真犯人はこの事件を王家から任されていた大貴族だったのだ」
「それは・・・」
事件を任されていた大貴族ということはばれそうになっても揉消すことも簡単だっただろう。
「後でわかったことだが、私の部下も何人も鼻薬を嗅がされていた」
ガスパーはそう言って悔やんでいるのが表情から読み取れた。
「そこからアグニの奴は慎重に動いてな。本当に信頼のできる者を厳選し貴族の屋敷に押し入った」
「押し入っても簡単ではなかったのでは?」
「あぁ。私兵が何人もいて激しい斬りあいになった。だが、日ごろの訓練の賜物だろう。押し入った者はだれ一人かけることなく大物貴族を追い詰めた」
「流石はガスパー様の部下ですね」
「組織の1人としては褒められたことではないよ。独断専行だからな」
「それは確かにその通りですね」
騎士には強い権限が与えられている。
とはいえ、それは無制限に行使できるものではない。
「私が連絡を受け駆けつけた時には全てが終わっていた」
「どうなったのですか?」
「大物貴族は首を斬られ骸を晒していた」
「斬ったのは父ですか?」
「そうだ・・・。事件を解決した英雄ではある。だが、それと同時に多くの恨みを買った」
「恨みですか?」
「大物貴族と言えど1人で全てを仕切っていたわけではないということだ」
「なるほど・・・。他にも関わっていた家があったのですね」
貴族とは自分の利益になれば民の痛みなど考えない者も多い。
貴族令嬢にまで手が及んだのは敵対派閥の力を削ごうとしたということなのかもしれない。




