第三十八話
アンリはまだ早い時間に体を揺らされる。
「リーシャさん・・・?」
「おはようございます。アンリ様」
「こんな時間にどうしたんですか?」
「ガスパー様が部屋の前でお待ちです」
「ガスパー様が?すぐに用意します」
「お手伝いします」
アンリはリーシャに手伝ってもらって服を着替える。
急いで部屋を出ると申し訳なさそうな顔をしたガスパーが待ち構えていた。
「淑女の部屋にぶしつけに申し訳ない。だが、皆の手前、特別扱いもできんのでな」
「いえ。教えを乞う立場です。お気になさらず」
「では、寝起きですまないが訓練場に向かうとしよう」
「はい」
訓練場に移動したアンリはガスパーの指示で走り込みを行う。
本日も指導は厳しいがこれが自分の為だとわかっている為、必死で食らいつく。
「そろそろ朝食の時間だな。少し休むとしよう」
ガスパーがそう指示をしたのでアンリは地面に横たわる。
「はぁはぁ・・・」
「令嬢であればそこまで体力があれば十分だが、男児としてはまだまだだな」
「ご期待に沿えず申し訳ありません」
「いや、責めているわけではないんだ。だが、偽装するのなら課題は山積みということだな」
「はい・・・」
ガスパーは女性だと知っているが偽装する理由もわかっている為、どこまで鍛えればいいのか悩んでいるのかもしれない。
「時に、アンリ嬢は何故、騎士になりたかった?」
「そうですね・・・。うちには子供は私しかいませんし、父の跡を継ぐのは当然だと思っていました」
「なるほどな・・・。婿を取るという選択肢もある中、自身が騎士になるか」
ガスパーはそう言って黙り込んでしまった。
沈黙に耐えきれずアンリはガスパーに聞いてしまう。
「ガスパー様。私の考えはおかしいのでしょうか?」
「いや。おかしくはないが変わっているとは思うな」
普通の令嬢なら確かに服飾品や美味しいお菓子に興味がいくのかもしれない。
だが、貧乏であったユーステッド家ではそんな物を手に入れるのは難しかった。
父であるアグニに剣を習うのはタダだ。
内心ではどう思っているのかはわからなかったが剣を教えてくれている父は楽しそうだった。
「そうですね・・・。剣を教えてくれている父が楽しそうで・・・。それも理由の1つかもしれません」
「アグニの奴は剣馬鹿だからな・・・。他がダメダメだが」
「ガスパー様は父をご存じなのですか?」
「かつての部下だ。爵位を得て独立したが騎士としては優秀な奴ではあったよ」
父がガスパーの部下だったと聞き自分の知らない父がいるのだなと今更ながらに気がついた。




