第三十六話
マッサージを終え、着替えているところにノックの音がする。
「何事ですか?」
「リーシャ様。そろそろ限界です」
そう告げたのはリーシャの指示でマスクウェルの動きを邪魔していたメイドの1人だった。
「もう少し時間を稼いでください」
「はい。ですが、そう時間は稼げませんよ」
「わかっています」
「あの・・・。何が起きているんです?」
アンリはリーシャに尋ねる。
「アンリ様をマッサージする為に王太子殿下の動きを妨害していました」
「妨害?」
「マッサージ中に来られては女性だとばれてしまいますからね」
「なるほど・・・。確かに王太子殿下なら訪ねてきそうですけど・・・」
「話は後にして着付けをしてしまいましょう」
アンリはリーシャに手伝ってもらって服を身に着ける。
着替えが終わると同時にノックの音がする。
「アンリ。話しをしたいのだが、入ってもいいだろうか?」
そう声をかけてきたのはマスクウェルだった。
「王太子殿下。どうぞ」
アンリがそう告げると同時に扉が開く。
リーシャは1歩下がりマスクウェルに頭を下げる。
「アンリ。怪我はないか?」
開口一番そう聞いてくる。
「はい。怪我はどこにもありません。疲労があるぐらいです」
「そうか・・・。ガスパーも初日だから手加減してくれたのだな」
「そのようです」
本当は女性だから手加減してくれているだけで口に出すわけにはいかなかった。
頭を下げているリーシャが目に入ったのかマスクウェルはリーシャに声をかける。
「リーシャか。アンリの世話か?」
「はい。お疲れでしょうからマッサージをしておりました」
「そうか・・・。だが、もう少し自分の立場という奴を気にした方が良いぞ」
「自分の立場ですか?」
「この国でも有力貴族の令嬢なのだ。私の傍付きとはいえ、男と一緒に居ればいらぬ誤解を生むぞ?」
「その可能性はございますね。ですが、アンリ様とならそれも良いかもしれませんね」
「本気か?」
「はい。王太子殿下がお認めになるほど優秀な殿方ですから」
「なるほどな・・・。確かにそれも悪くないかもしれないな」
リーシャは冗談で言ったつもりだったがマスクウェルは本気で受け取ったらしい。
「王太子殿下はそれでいいのですか?」
「それでいいとは?」
「その・・・。私がアンリ様と一緒になることです」
「アンリは実家の爵位の件もあって立場が弱い。今は私が守ってやれているがいつまでも守れるとは限らぬ。ローゼンブルク侯爵家が後ろ盾になるならそれはそれでいいだろう」
「わかりました。父には手紙を出しておきます」
リーシャはそう言うに留めた。




