32.ドワーフの船
「もう駄目ですにゃんー」
サバンナがドサっと音を立てて床に座り込む。頭をゆらして目がクルクルと回ってる様はアニメに出てくるキャラクターのよう。
目ってこんなに回るのかと思いながらも見ていたら、フローラが椅子に座りテーブルへ寝そべりだした。
「フローラ様大丈夫ですか?」
レーリアが心配して声をかけるもフローラは何も答えない。シロも目を回しているのかフローラの頭の上でだらしなく体を伸ばしている。
「ガイってば、何でちゃんと説明しないのかしら! ごめんなさいね、ほらこれ飲んで? 直ぐに部屋を使えるようにしますからね!」
サバンナとフローラへ飲み物を渡したサリーさんがバタバタと階段を上がって行った。
「ミンハさんは大丈夫なのか?」
「平気」
飄々とした様子でテーブルの上にあるお菓子をモグモグと食べ始める。気に入ったのか最後の1つにも手を伸ばし、それに焦ったウルと取り合いになった。
「なあミンハさん。どんな階段だったんだ?」
「んー、ユラユラ?」
---- ユラユラってどんな階段だよ---- 他にも言い方があるだろうに。
ウルは負けたのか、ミンハさんが最後の一つであるフォンを口に入れ美味しそうに食べてるのをジっと見ている。案外食いしん坊だなと思っていたらサリーが上から降りてきた。
「さあ、もう大丈夫ですよ。お部屋へどうぞ」
レーリアはフローラを、俺はサバンナを担いで部屋へと向かう。全員個室があたるようで、サバンナに割り当てられた部屋の扉を開きベッドにそっと下ろす。
「にゃうんー、情けないにゃうん」
「気にするな。ゆっくり寝ろ」
ベッドの横に飲み物が用意されてるのに気づき安心する。サリーさんが用意したのかな? お礼を言っておくか----
扉を静かに閉めて廊下に出るとレーリアが部屋から出てきた。
「フローラは大丈夫か?」
「はい。ベッドに入ったら直ぐに眠りました。あんなに具合を悪くされてはどんな階段だったのか気になりますね」
ロビーに降りてみたら、案内役のドワーフ2人は真っ青な顔で正座させらており真っ赤な顔で説教されている。
「あんたらね、何で説明しないの! 私達だってあんな階段使わないでしょうに! ったくガイも気を遣えないったらありゃしない!」
先程までの優しい表情は何処かに消え、クワッと目を見開き怒る姿はまるで般若のようだ。ガイの奥さんって今言われたらわかる気がする----
「あんな回り続ける階段なんかに案内して、正気とは思えないわ!」
説教が終わるまで待つつもりだったが、長くなりそうなのでレーリアを連れて表に出た。ガイがいる建物の近くまで行き見上げてみると不思議な作りの階段を見つける。
------ 階段使わなくて良かった。
目に映るのはアスレチックのようにロープで吊り下げられた階段。固定されておらず歩けばグラグラとゆれるだろうと容易に想像出来た。
クルクルと小さな円を描き下の景色も覗き見える不安定な階段----
はあ。何であんなものを---- ミンハさんのユラユラってこういう意味か。
「勇者! あれは何だ?」
「あ、ああ。フローラ達が降りてきた階段----」
「ほう、あんな階段もあるのだな。愉快な階段だ」
レーリアと静かに顔を合わせた後、ウルに返事をしないまま街の構図を確認しつつ皆のいる宿へと戻った。
「あ、帰ってきた! 2人は大丈夫? 宴会は夕方には始まるようだから、鐘の音が聞こえたらここに集合して頂戴!」
「あ、はあ----」
本音を言いえば宴会になんて参加したくない。
やだなあ---- 全部において面倒くさすぎる。初めて召喚された時は参加してたけど、たいして良い思い出はないしそれ以降はさっぱりだ。
部屋に篭りたかったが、ウルに服を引っ張られ宿の外に連れ出された。
「勇者。我は船を見たい」
「船? 今からか?」
「まだ時間はあろう。折角来たのだ、我を連れて行け」
はあ---- 外にいたら確実に参加しなきゃいけなくなるじゃん。
「明日行くだろ、我慢しろよ」
「それなら我だけでも行くぞ? 騒がれても良いのだな」
「---- 分かった行くよ」
「最初から連れてけばいいものを、勇者は素直じゃないのだな」
素直って---- はあ仕方ない。
案内役に聞いた洞窟へと向かう羽目になり、ダラダラと街中を歩いていると路地裏の方にある店が目に映った。
何だ?
何となくだが、お店のショウウィンドウに飾られているのは銃を大きくしたような物。路地裏へ入り食い入るように見ていたら、お店の中からサンタのような白い髭のドワーフが出てきた。
「気になるかい?」
「すみません、お店の人ですか?」
「そうだよ、中も見ていくといい」
ウルをチラリと見たらジトっと目を細めて見返してくる。
気になるなあ。明日時間あるかな----
「明日か明後日にまた来ても良いですか?」
「いいとも。いつでも来ておくれ」
ドワーフに別れを告げ、元来た道に戻れば目の前に大きな建物が見えてきた。
扉は閉まっているが、扉の横にある入り口は開放されているのか中に入る事が出来そうだ。ウルは興奮した様子で尻尾をフリフリしながら入り口へと駆け出す。
「おい、あんま勝手に動くなよ!」
ウルの後を追って入ってみれば、中は鍾乳洞のような洞窟で想像していた洞窟とは全く違った。
所々に松明が置かれ、真っ白な洞窟は火の色が映り赤くなっている。結晶になっている部分がキラキラと光り幻想的な光景につい目を奪われてしまう。
凄え。ライトアップじゃなく火だからこそこの光景なんだな。
「勇者! 何処にいる、早く来い!」
「はいはい」
ウルの声がする方へ歩いていくと、ロープの向こうにあるであろう船が徐々に見えてきた。
はあー?!
目の前にあるのはミニサイズの戦艦。木で作られた船だと勝手に思っていたが、良い意味で裏切られたな。
めちゃくちゃ格好良いじゃねえか! どうやって作ったんだ?!
「これは船か?! これが水に浮いて移動するとは信じられん!」
「確かにどうやって動くんだろう。手漕ぎじゃないだろうし---- 石炭かな?」
「手で漕ぐ船もあるのか?! その石炭とやらは何だ?」
興味持ちすぎだろ---- やれやれと思いながらもウルに軽く説明する。石炭が燃えると何故エネルギーに変わるのか上手く伝わらなくて、そういうもんだと話を無理矢理きったがウルは納得していないようだ。
何で? どうして? 子供が繰り返し質問してくるような会話に疲れる。
もう勘弁してくれよー。
ウルの質問攻撃に耐えていたら、外から鐘の音が鳴り響いた。
助かった!
「ウル宴会の時間だ。早く戻ろう」
「むっ。まだ質問に答えてないぞ?」
「---- 美味しいお肉や酒がある筈だ。ドワーフ達に全部飲み食いされても良いのか?」
「それは大問題だ! 勇者よ早く戻ろう!」
宴会を知らせる鐘に救われるとは----
ウルは焦った様子で走っては俺に振り返り、また走っては振り返りと繰り返している。俺が早く歩かないと察したのか、宿にある程度近づくとそのまま駆け出していった。
「いたにゃん! 勇者様ぁ!」
ウルに気づいたサバンナが俺へ手を振って飛び跳ねる。サバンナの横には皆立っていてフローラも元気そうに微笑んできた。
「もう大丈夫なのか?」
「ミィー!」
シロも元気になったのか、いつものように俺の肩に止まり頬へスリスリとし始める。ミンハさんはウルに近づき持ち上げて抱っこしていた。
「もう大丈夫にゃん!」
「サリーさんから頂いた飲み物で元気になりましたわ」
話を聞くとどうやらお手製のドリンクだったようで、昔階段で具合を悪くするドワーフへ振る舞っていた飲み物らしい。ジェットコースターのようなトロッコが出来てからはあまり飲まなくなったようだが、急いで用意してくれたようだ。
「さあ、宴会に行きましょう。きっと張り切っている筈よ」
やっぱ行かなきゃ駄目だよなあ。
ミンハさんを始め、サバンナやレーリアも楽しそうにどんな宴会か話している。皆がウキウキとする中、今更行かないとは言い出しにくい。
「夕間様? 気が進みませんか?」
フローラが俺の様子を伺うように顔を近づけてきた。
「いや、大丈夫---- 折角だし行こうか」
皆の浮き立つ足取りとは反対に重い足取りで歩き出す。フローラは何となく俺の気持ちを察しているのだろう。俺の横で静かに微笑みながら、宴会場までゆっくりと一緒に歩いてくれた。




