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26.とりあえず逃げる!

 見覚えある立派な馬車を見て宿へ向かって走り出す。


 宿の入り口に近づくと中から侯爵家の息子だと思われる声が聞こえてきた。


「亭主。いい加減どの部屋なのか教えて頂きたい」


「アイロス様。先程もお応え致しましたがうちは普通の宿ですよ。フローラ王女がうちに泊まってるだなんて---- 」


「嘘をつくな! 宿帳を持ってこい、私が直接確認しよう」


「でも、本当にいな----」


「私の言うことが聞けないのか?!」


「いえ----- 只今お持ち致します」


「ふっ最初から出せばいいものを、早く持ってこい!」


 あいつ何でフローラがこの宿にいるって知ってるんだ? まるでストーカーみたいだな---- 中に入ったら息子と顔を合わせる事になるし、出来れば関わりたくない。


「なあ、フローラ達は何て名前で泊まっているんだ?」


「リラと書いてる筈ですぅ」


「俺の部屋は夕間のままか?」


「それは分からないにゃん---- もしかしたらユーマかも知れないにゃん」


 ユーマのままだと怪しまれる可能性もあるな。どうにかして部屋に行かないと---- ふと入り口横にある窓が目に入ってくる。


「サバンナ裏へ回るぞ」


「にゃん?」


「ここからは入らない方がいいだろ。屋根に上がって窓から中へ入ろう」


 宿の裏へ回りサバンナの持っていた荷物を空間収納の中に全てしまう。足に風を纏わせて屋根目掛けてジャンプした。


「勇者様、あの部屋だと思いますぅ。確認してみますにゃん!」


 サバンナは尻尾を器用に使って屋根からぶら下がるもんだから、雨樋が折れてしまわないかハラハラしてしまう。


「皆いるにゃん!」


 サバンナがぶら下がったまま窓をノックし始めた。どうやら中から開けて貰うようだ。


「サバンナ、ぶら下がってどうしたの?」


「シィー。とりあえず中へ入れて下さいぃ、勇者様も上にいるにゃん」


「えっ、夕間殿も? 落ちないようにね」


「大丈夫にゃん---- とぅ!」


 サバンナが中に入ったのを見て俺も雨樋を使い部屋の中へ入るとシロが俺めがけて飛んでくる。俺の肩に乗って顔をすり寄せてきた。


「ミィ〜!」


「一体どうなされたのですか?」


「---- いや何か下が騒がしくて」


「それにしても、屋根からなんて危険ですわ」


「それよりもフローラ、俺の部屋って何て名前でとったんだ?」


「どうして聞かれるのです?」


「フローラ様。夕間殿はきっと心配になっただけですよ。夕間殿、ご安心下さい。偽名を使わせて頂きました」


「そうか。偽名なら良いんだ---- 買い出しは済んだのか?」


「ええ、ミンハの空間収納に入れて貰ったわ」


「ならもう街から出ないか?」


「もう出発ですか? 皆疲れているのでは?」


「ベッド----」


「ミンハもこう言ってますし---- 明日にしませんか?」


「あー、それはそうなんだけど----」


 レーリアには内緒って言われたし何て言えば良いんだ? 言い訳が思い浮かばねえ。


「フローラ様! 先程私のせいでお店の人に勇者様だとバレたんですぅ」


「そ、そうなんだ。だから騒がれる前に出たいんだよ! 俺の我儘なんだけど良いかな?」


「私が悪いんですぅ」


「サバンナだけじゃない、俺も気が緩んでいたんだ。皆ごめん、どうかな?」


「夕間殿のお願いですし、フローラ様出発しましょう? ミンハも良いわね?」


「むーっ」


「ふふ、夜はミンハの好きなお肉にするから、ね?」


「お肉---- 分かった」


「ミンハが良いなら私も大丈夫ですわ」


「じゃあ出発の準備をしてくれ、フローラ俺の部屋の鍵を貰えるか? レーリア、ちょっと手伝ってくれ」

 フローラから鍵を貰い隣の部屋へ移動する。廊下に出て耳を階下に集中させたが息子の声は聞こえない。俺は部屋に入って直ぐレーリアと向き合い小声で話した。


「おい、息子がこの宿に来てるぞ」


「えっ---- アイロス様ですか?」


「あー、亭主もそんな名前で呼んでたな。昨日見た馬車が宿の前に止まってたんだよ。フローラがここにいると亭主に詰め寄ってた。今下で宿帳を見てる筈だ」


「そんな---- どうして----」


「レーリア、一先ず逃げよう。このまま見つかったら面倒くさくなるんだろ?」


「でもどうやって宿から出れば----」


「レーリアも顔見知りなんだよな? 俺がフローラを抱えて窓から出るからレーリアもついて来い。ミンハとサバンナに残って貰って後から合流しよう」


「上手くいくかしら。でもそれしか方法はありませんね」


「ああ、準備が終わり次第直ぐに動くぞ」


「分かりま----」


 トントン。


 ドアのノック音が聞こえ体がビクつく。


「鍵は閉めたよな?」


「え、ええ」


 ヒソヒソと話していると再びノック音が部屋に響き渡った。音を立てないよう扉に耳を貼り付けてみれば男性の話声が聞こえてくる。


 ジャラっと鍵の音が聞こえたので、レーリアにベッドの下へ潜るよう手で指示をした。


 胸をバクバクさせながら扉に向けて声を出す。


「誰ですか?」


「ほら男性がお泊りなんですよ」


「ふっ念の為さ」


「すみません! 間違えましたゆっくりお休み下さい」


 足音から隣に向かって行くのが分かる。


 あいつ、全部回るつもりなのか? やばい奴だなサバンナは上手くやれるだろうか----


 扉に耳を強く押しつけてレーリアへ合図するがベッドの下から出てこない。耳を離さずに部屋の中へ視線を戻したら窓が開いているのに気づく。


 おいおい、窓から隣へ移ったのか?


 トントン。


 フローラ達の部屋をノックする音が聞こえてくる。


 大丈夫だろうか---- 俺も部屋に行くべきか? 


「夕間殿、連れて参りました」


 横からレーリアの声が聞こえてきて顔を動かせばフローラとレーリアが立っていた。フローラはフードを深く被ったまま顔を下に向けている。


「フローラを連れてきたのか。よしこのまま外へ出るぞ」


「夕間様----」


「話は後だ。レーリア、サバンナ達とはどこで待ち合わせだ?」


「ルート通りです。途中遺跡があるようなので、そこで待ち合わせしました」


「遺跡だな。フローラをおんぶして行くからシロはフローラに乗ってくれ、レーリアはついてこい」


 フローラへ背中を見せてしゃがんだが、フローラは躊躇しているのか中々背中に重みが来ない。時間もないので俺はフローラの方を向いてそのまま肩に抱き上げた。


「きゃあっ」


「我慢してくれ、レーリア、シロを頼む」


 フローラを肩に乗せたまま窓辺から高くジャンプし雨樋を使って屋根へ上がる。音を立てないよう屋根の上を慎重に歩いていると、後ろから何かが崩れたような音が聞こえた。


「ミィ〜」


 やばっ。シロが何かしたのか? 音なんか気にせず屋根の上を走りだす。


「フローラ、後ろは大丈夫そうか?」


「えっと----」


「夕間殿、すみません気づかれたかもしれません」


「ミィ〜」


「仕方ない。このまま屋根をつたっていくのは危険だ。人混みに紛れよう。レーリアの髪色は目立つか?」


「私もですが夕間殿の黒髪も目立ちます。被る物が必要ですね」


「何処かで手に入れるしかないな」


「露店で買いましょう、私が案内します」


 屋根から飛び降り、シロがいると目立つのでフローラの被るフードの中へ無理矢理突っ込む。


 フローラを見失わないよう手を掴んでレーリアの後ろを追いかける。露店でフードを購入し裏路地へ行って着用した瞬間、表通りを歩く騎士の姿が目に映った。その後も誰かを探しているような足取りで何人もの騎士が通り過ぎていく。


「私達を探しているのかも知れませんね」


 はあ---- 騎士まで使うとはすげえ奴だな。そこまでしてフローラと会いたいのか? 正直キモい。


 俺はイミテーションスキルを発動させ、自身の分身を作り出しフードを被った姿そのままの自分と対峙する。


 まさか戦闘以外で使う日が来るとは---- 頼まれた訳でもなく自分で発動させたのについ呆れてしまった。


「レーリアここから2手に分かれよう。レーリアは俺の分身と行ってくれ、俺はフローラを連れて街から出る」


「街を出たら夕間殿の分身について行けば良いんですね?」


「ああ、視界を通して見れるからな」


「分かりました。夕間殿、フローラ様を宜しくお願いします。フローラ様、また後でお会いしましょう」


「フローラ行くぞ」


 頷くだけのフローラを引っ張って再び歩きだす。人の往来が激しく中々前へ進まないが、目立つ事もないので焦らずにゆっくりと門へ近づく。


「フローラ王女がここに来てるんだって」


「えっ? 王女様?」


「そうそう、アイロス様が騎士を使って探してるみたい」


「だからさっきから騎士が走り回っているのね」


 街の女性達が話す噂を耳に入れながら今の状況を確認する。


 やっぱ気づいたか---- 騎士にフローラ探させて何考えてんだ? あいつだけの騎士じゃないだろうに。


「フローラ大丈夫か?」


「はい。夕間様、ゆっくり休ませてあげられず申し訳ありません」


「別に気にしないでくれ。そんな事よりもフローラが心配だ」


「夕間---- 様」


「フローラごめん、正門は諦めよう」


 門の前に立つ侯爵家の息子を見つけてしまい、ゾッとしながら裏路地へと戻る。家と家の隙間を歩いて行き、街を囲む大きな石壁へ向かった。


 上から行くのは最終手段だな。


 石壁に沿って穴がないか探していたら壁の石が歪んでいる場所を見つける。


 歪んでる場所へ掌を向けて思いっきり掌底を壁へ当てた。パラパラと石屑が落ちて行くのを見て、正拳突きをする為息を吐いて構える。


「フローラ下がってろ」


 息を深く吸い込み一点へ集中させて拳を前へ突き出した。


 拳を当てた場所を中心にガラガラと石壁が崩れていく。穴が空いたので顔を入れて周りを見たが誰もいない。


 よし、ここから出れるぞ。穴を広げる為石を手で退かしていった。


「夕間様、大丈夫なのでしょうか-----」


「今は仕方ない、上から出たら目立つからな。シロ、向こうへ行って見張っててくれ」


「ミィ〜!!」


 シロが勢いよくフードから飛び出してきて穴へ向かって飛んでいく。更に穴を広げていきシロに合図してからフローラの背中を押して石壁の向こうへ押し出す。


 俺も穴に足を入れてどうにか通り抜けた瞬間、騎士が突如姿を現し声を張り上げた。


「お前ら! 何をしてる! 不審な人物が2人早く来てくれ!」


 やばっ。バレるじゃねえか!


「シロ飛んでついてこい!」


 フローラを肩に抱き上げて地面を強く蹴ってアジリティラッシュスキルを発動させる。スピードを上げてとりあえず森が見える方向へ走り出した。





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