25.街へ入りましょう!
山を抜け平坦な道を歩いていくと、遠くに大きな外壁に囲まれた街が見えてきた。
「今日はあの街に泊まりますぅ! 久しぶりにベッドで寝れるにゃうん」
かなり大きい街で王都のミニチュア版のような作りだ。奥の方にはジュラ城よりも小さいが立派なお城まである。
「あそこはバリスター侯爵の街よね。フローラ様大丈夫ですか? 何にもないと良いですけど----」
「直ぐに宿へ入ってしまえばきっと大丈夫ですわ」
初めて入る街に関心して見ていれば、後ろに立っているフローラとレーリアが小声でヒソヒソと話し始めた。
「どうしたんだ? あの街に何かあるのか?」
気になった俺は振り返って聞くものの、レーリアは難しい顔をしている。
「何かある訳ではないのですが----」
「夕間様、何でもありませんわ。さあ皆、早く街に行きましょう」
レーリアの表情とは打って変わってフローラは笑顔で歩き出す。どうしたんだ? と思いながらも街の入り口まで歩みを進めていけば、フローラが急にフードをかぶり始めた。
王女だとばれたくないのかなと思いながら列に並ぶ。どうやら商人が多いようで馬車が沢山並んでいた。
「沢山馬車が並んでるにゃん! 王様から貰った許可証を出せば早く入れますけど、どうするにゃん?」
「へぇ、そんなのラズロくれたんだ」
「最初に行った街では提出したにゃん! 街や他国に入るには身分を証明しなきゃいけないんですぅ。身分を証明出来るよう渡してくれたにゃん!
「そうなんだ。だから今までカードを作らなかったんだな。皆疲れているならそれ使わせて貰うか?」
「疲れた」
俺達がどうするか話していたら、いきなりレーリアがサバンナの肩を掴んだ。
「今回はやめましょ。3人共ギルドカードはあるわよね? それで街に入るの」
「にゃん? レーリアとフローラ様はお持ちなのにゃん?」
「ええ、もしもの為に一応作ってあるわ」
「いきなりどうしたんだ? やっぱり何かあるんじゃないか?」
「それは----」
「レーリア。夕間様、私の我儘に付き合って貰えますか? ここでは王女とあまり騒がれたくないのです。皆も良いかしら? 疲れているのにごめんなさい」
フローラの言葉にしぶしぶ頷いたが、何故なのか聞くのは躊躇われた。
何だ? この街に何かあるのか? 聞いても答えてくれなさそうだしなあ、取り敢えず様子を見るか。
ミンハさんとシロがじゃれているのを横目に入門まで時間を潰す。前にいる商人達の話に耳を傾けていたら、ここはどうやらジュラ王国内で王都の次に大きい街らしい。
感覚的に1時間程待ってやっと順番が回ってきた。ギルドカードを提出した際、俺とカードを何度も見られて時間はかかったが、特に何も言われず少しだけホッとする。
門を抜けて中に入り歩いていくと、人の他に獣人族やエルフ、ドワーフもいて活気ある街の様子に驚く。
王都みたいだな、まるでお祭りみたいだ。
屋台や露店も並びとても賑わっていて人混みに酔ってしまいそうだ。
「サバンナ、宿は何処だ?」
「こっちですぅ!」
「ミンハ、はぐれたら駄目よ。私の服掴んでて」
「もうやだ」
「早くここから離れましょう」
本通りから1本中に入ったが人の多さは変わらない。サバンナを先頭にして人混みの中を進んでいくと立派な宿屋に辿り着いた。
サバンナが空いているか確認しに行ったらどうやら満室らしい。直ぐ近くにある普通の宿屋へ向かい確認したら空いていたのでそこに泊まる事にした。
俺だけ1人部屋なので、荷物を置いた後皆が集まってくる。2つあるベッドに腰掛けながら皆とこれからどうするか話す。
「凄い人ね。ここは交易が盛んだから致し方ないんだけど少し疲れるわね」
「ご飯はどうしますぅ? 宿で取るにしても下は居酒屋みたいだったにゃん」
「煩いのやだ」
「そうですわね。何処かで買ってきましょうか? それなら部屋で食べれますし」
「にゃん? お店にはいかないにゃん?」
「この街だと静かなレストランはあるんだけど、さっきの宿が取れないとなると行くのは難しいわ」
「何で?」
「お金を持ってる商人か貴族が沢山いると思うのよ。フローラ様の事もあるし疲れるのは嫌でしょう?」
「すみません私のせいですね。滞在も短くていいかしら? 明日買い足す物だけ買いに行って明後日には出発しましょう。一先ずご飯を買いに行きましょうか、レーリアお願い出来ますか?」
「承知しました」
「したら俺も行こうか」
「私も行くにゃん」
「ミィ〜!」
「シロはミンハと部屋にいてくれ」
シロが捨てられた子犬のような目で訴えてきたが俺が首を横に振るとミンハの頭の上で塒を巻いた。
「じゃあミンハ、フローラ様と一緒にいてくれる? お肉買ってきてあげるから」
「甘いのも食べたい」
「ふふ、分かったわ。夕間殿、サバンナ手伝ってくれますか? 暗くなる前に行きましょう」
フローラとミンハさんを俺の部屋に置いたまま宿から出る。先程と変わらず人が沢山行き来する中3人で屋台へと向かう。屋台で注文して出来上がるのを待つ間、フローラの事が気になりレーリアへ聞いてみた。
「なあ、フローラは何で騒がれたくないんだ?」
「それは----」
「私も気になりますぅ。何かあるなら聞いておきたいにゃん!」
「俺もだ。何かあってからだと対処が難しいだろ?」
「そうですね。フローラ様から本当は聞いて頂きたいのですが、何かあった時大変ですからね。ここだけの話ですが----」
レーリアの話をまとめれば、この街の領主であるバリスター侯爵の息子がフローラにぞっこんらしい。夜会でいつも絡まれて大変だとか。
有力貴族の息子である為邪険には扱えないし、街にいるのがバレてしまえば相手をする羽目になる。フローラからすればあまり好ましくない相手のようだ。
「だからギルドカードで入門したのか。名前は何で登録しているんだ?」
「私はリア、フローラ様はローラで登録しています」
「そうだったにゃん?! 名前変えていいにゃん?」
「冒険者は本名で登録しなくて良いですからね。作っておいて正解でした」
「レーリアも貴族だったよな? 侯爵の息子やらと会った事あるのか?」
「ええ、私もあまり好きな相手ではありません。女性からは人気があるようですが----」
フローラとレーリア2人から好かれてないとは一体どんな奴なんだろ。関わるのは極力避けたいな。
出来上がった料理を受け取り、ミンハさんの為に甘いデザートを買うべくケーキ屋へ向かう。レーリア曰く人気のお店だと言うことでサバンナがウキウキし始めたのか鼻歌を歌い出した。
何の曲かは分からないが音痴なのは分かる。酷い鼻歌を聞きながらケーキ屋の看板が目に入ってきた時何だか男の罵声が聞こえてきた。
ケーキ屋の中で騒いでいるようで、人垣から顔を出して覗いてみたら白のフリルシャツを着た男が店員に何やら怒っている。
「何故ないのだ?! 私が来ると分かっていただろう!」
「すみません---- 間違えて売ってしまったようでして。明日でも宜しいでしょうか?」
「何? 間違えて売った挙句明日まで待てと私に言うのか? 私に我慢しろと言うなど何て酷い店なんだ。営業許可を取り上げても良いんだぞ!」
「すみません、それだけは勘弁して下さい。今から作ってお持ち致します」
「ふっ。心が広い私だからそれで許そう。直ぐに持ってくるように、分かったか?!」
「は、はい! 有難う御座います! 直ぐにお届け致します!」
センター分けの髪をかき上げた男は優雅に歩き出し、近くに無理矢理止めたであろう豪華な馬車に乗って去っていく。
何だあいつ---- キザな上に性格悪そ。ああいう奴って絶対面倒くさいよな。
「夕間殿、今のが例の息子です」
「えっ! あいつなの? あれはヤバイだろ」
「私も嫌ですぅ。早く街から出た方がいいにゃん」
「ええ、一先ずケーキを買って直ぐに宿へ戻りましょう」
サバンナとレーリアでケーキを買った後寄り道もせず直ぐに宿屋へ戻る。
帰る途中、さっき見た豪華な馬車を見かけしまいうわっと思いながら早足で歩いた。
---- あんなのに好かれたらたまったもんじゃない。王女も大変だなあ、俺ならムカついて確実に殴るな。
息子の顔を思い出し少しだけムカムカしていたら、レーリアが宿屋の前で急に振り返って口元に人差し指を当てる。
「夕間殿、サバンナ。フローラ様の為にも息子を見た事は内緒でお願いしますね」
フローラの事を考えてか---- まあ聞かない方が気は楽だろう。
「分かったよ」
「にゃん!」
レーリアは満足そうな笑みで再び歩き出す。俺の部屋へ行き皆でご飯を食べた後、直ぐにベッドで横になる。シロがお腹の上に乗ってきたので軽く頭を撫でた。
何もないと良いけどな----
疲れもあったんだろう、目を閉じると直ぐに眠くなる。そのまま朝まで目は覚める事なく熟睡した。
*** 翌朝 ***
「皆おはよう」
朝食を食べる為、シロを連れて一階に降りると皆がもう席に着いていた。フローラは人の目が気になるのかフードを被ったままご飯を食べている。
用意された朝食はあったかいパンに目玉焼き、そして野菜スープ。久しぶりに食べる目玉焼きに嬉しくなるがやはり醤油が欲しいと思う。塩はラズロから貰っていたのでふりかけれるが、やはり日本人としては醤油が欲しい。
いつも持ってくると思いながらもいつ召喚されるか分からない為持ってこれない。作り方を覚えてはきたがまず大豆があるのかも分からないし、作るとしたら時間がかかる。
食って何だかんだ言って大事だよなーと思いながらシロと一緒に朝食を頂く。
「今日は各自分かれて行動しましょうか。食料と物資の買い出しですからミンハと夕間様には分かれて空間収納に入れて貰えると助かりますわ」
「ミンハ物資がいい」
「あら、ミンハたら女の子ね。一緒に買いに行きましょうか。夕間殿は食料でいいですか?」
「ああ、俺は特にないからな。食料は誰が行くんだ?」
「私が行きますぅ。必要な物はもうお願いしたにゃん!」
「じゃあサバンナ行こうか。フローラは物資か?」
「いえ、私は宿にいようと思います」
「そうか。じゃあ昼過ぎまでには戻ってこよう。サバンナ、1度部屋へ戻るか?」
「このまま行けるにゃん」
「じゃあ皆、後でまた会おう。フローラ、俺の部屋使ってて良いぞ。男の名前の方が安心だろう、それとシロを頼む」
「分かりましたわ。でも大丈夫ですわよ?」
「何かあったら心配だからな。鍵渡しておく」
フローラに鍵を渡してサバンナと共に商店街へと向かう。朝にも関わらず人の活気が凄くて中々前へ進まない。
「凄い人ですぅ。じっくり見るのは難しそうだにゃん」
「そうだなあ。手前の店で終わらすか?」
「にゃうんー。1度見てから決めてもいいにゃん?」
「俺はサバンナについていくから好きにしたらいい」
手前から順に見ていくが、どうやら値段が高いらしくサバンナは不服のようだ。奥まで見たいと言うのでサバンナの後ろを歩きながら商品を見ていく。
果物や肉、パンと魚を買っていったが調味料が見つからないらしい。裏路地も歩いて探していると一つの店をサバンナが見つけ出した。どうやら鼻を使って探していたらしく、扉の前でクンクンと匂いを嗅いでいる。
「ここに間違いないにゃん!」
サバンナと共に中へ入ると棚に何やら瓶に入った粉が沢山並んでいた。
「いらっしゃい」
老人が出てきてニコニコとこちらを見ている。サバンナは出てきた老人に欲しい調味料を伝えて場所を教えてもらっていた。
ふと棚の下へ視線を向ける。何だか液体が入った瓶が並んでいたのでしゃがんで中を覗く。
「ここにあるのは酒じゃ。後は珍しい調味料じゃよ」
「へえお酒なんだ。珍しい調味料ってどんな味なんですか?」
「試してみるかい?」
老人が小さいスプーンを持ってきて指で舐めろと言う。まずは赤色の液体を舐めてみたが凄く辛い。
「からっ。唐辛子?」
「これはカラの実じゃ。料理に使うと激辛料理になる」
カラの実かあ。唐辛子じゃないんだな。
今度は黄色の液体を舐めてみる。
「すっぱ! 何これ」
「ほっほっ。酸味が強いじゃろ。これはスンの実。次はこれじゃな」
青い液体に指をつけて恐る恐る舐めてみた。
「これっ!」
「ユの実じゃよ。あまり人気はないがのう」
ユの実? 醤油にそっくりじゃねえか! これは絶対に欲しい。
「爺さんこれいくらだ?」
「それが欲しいのか? 人気もないし安くしてろう」
「本当?! サバンナ、これ買っていいか?」
「それ何ですかぁ? 勇者様が欲しいなら良いですけど、何に使うにゃん?」
「ほっ、勇者様でしたか。それならサービスしなくてはいけませんなあ。それは差し上げましょう」
「なっ。爺さんこれはちゃんと買うよ。そのかわり俺がきてる事は内緒にして欲しいんだ。あんまり騒がられたくないんだよ」
「ほっほっ。分かりました。勇者様は謙虚ですのう」
「いやそうじゃないんだけど---- とにかく頼んだよ」
爺さんにもう1度お願いをしてからお店を出る。醤油にまさか出会えるなど思ってなかった俺は、早く醤油を使って何か食べたいなと思い屋台へサバンナを連れて行く。
鶏肉の串焼きを2本買って醤油を垂らしてからサバンナに1本渡す。
「んにゃん! 凄く美味しいにゃん!」
「だろ? じゃあ俺も!」
口に入れると醤油の味が鶏肉と合わさって凄く美味い。やっぱり日本人には醤油だよ。マジ考えたやつ天才だな。あー、早く帰りてえ。
そういえばラスボス倒してたんだよな。忘れてたわ、エンディングが気になるな。
「勇者様ぁ、思ったより時間が経っているにゃん、早く帰るにゃん」
「そうだな。フローラが心配だしな」
「フローラ様も大変ですぅ。あんなのに好かれてるなんて可哀想にゃん」
「サバンナも嫌なのか?」
「絶対嫌ですぅ。ナルシストっぽいし自分で心が広いとかないにゃん」
「あーそんな事言ってたよな」
2人で息子の事を話していたら見覚えのある立派な馬車が目に映る。馬車は俺達が泊まっている宿の前にいるようで胸騒ぎが止まらない。
「勇者様、あれって----」
「ああ、サバンナ早く宿に行くぞ」
フローラの事が心配になる。俺達は宿に向かって走り出した。
有難う御座います!
次は水曜日更新予定です!




