24.悲しさは
「何だかスッキリしない終わり方ですね」
「にゃう、良く分からなかったにゃん」
「疲れた」
「そうですわね。一先ず森まで行って野営準備しましょうか」
ピエロのテントから出て、近くの森へと移動する。月明かりが俺達を照らし綺麗な夜空である筈なのに、流れる空気は何処か沈んでいた。
ピエロに同情するつもりはないけど、何だかモヤモヤして気持ちが晴れない。テントの設置終え疲れた体で焚火の近くへ行き腰を下ろす。シロも疲れたのか、俺の膝の上で目を閉じている。
なんとなく真っ赤に燃える火を見ていたら、インコを掴むピエロの小さな手が頭に浮かんできた。
「あのさ----- 」
思わず言葉が出て慌てて口を閉じる。
俺は何が言いたいんだ?
「どうかされましたか?」
隣にいたフローラが俺の顔を覗き込んでくる。皆もテントの設置を終えて焚火の近くまでやってきた。皆の顔を見てみれば何だか浮かない表情を浮かべている。
インコがピエロを助けた理由は分からない。今まで魔物に感情や心があると思っていなかったし、会話なんかした事もなかった。
だけど---- ピエロが助けてくれたインコに抱きついて泣いていた姿を思い出す。
そもそも魔王四天王が魔物なのかさえ分からない。戦いながら敵と会話して、自分の感情が動くなんて事今回が初めてだ。
ゴスロリの時は怒りだったし、ピエロは? 良く分からないけど、悲しくなったんだと思う。
インコに泣くピエロを見て、自分に重ねてしまった。ジジィが死んだ時、俺もジジィから離れられなくなったんだよな。
今までパーティーを組んできて、誰かが死ぬとか考えた事なかった。何処かゲーム感覚で見ていたのかも知れない。
自分の命だけが本物で、周りの仲間の命は軽く考えていた---- 馬鹿だな俺は。敵から気づくなんて、今更だけど皆には死んで欲しくない----
1人が当たり前だったのに、今では皆といるのが当たり前になっている。今までのパーティーメンバーとは何かが違うんだ。俺は皆を助けたいし守りたいと思っている。
今回の召喚は、一体何なんだろうな。新しい事ばかりで、これからどうなるのか想像も出来ないや。
「あのさ---- 皆は死ぬなよな」
静かな森の中で焚火の音だけが耳に入ってくる。俺の言葉によって少しばかり沈黙が訪れたが、それを破ったのはミンハさんだった。
「何で?」
「何で---- か、俺ピエロを見て思ったんだよ。皆の内誰かが死んだら嫌だなって---- 俺をもし庇って死んだらきっと自分を許せない。ピエロみたいに戦いを放棄したりはしないけど、気持ち良く元の世界には多分帰れない」
俺は長く息を吐く。
「皆の事は俺が出来る限り守るつもりだ。だけど無理な時もあるから、その時は俺に構わず逃げて欲しい」
自分の気持ちを伝えるのは苦手だ。今まで他人に伝えるなんて億劫で逃げていたから----
再び静かな時間が流れ、焚火だけが変わらずゆらゆらと赤く燃えている。火の動きから目を離さず見つめていると、俺の手にフローラの手が重なった。
「夕間様---- お気持ちは嬉しいのですが、それは約束出来ません。夕間様に守られたくてご一緒してるわけではないですのよ? それに夕間様に誓いましたわ。忘れましたか? 夕間様のお体に傷を残さない為ですわ」
「フローラ----」
「そうですぅ。勇者様に守られるなんて、私いる意味がないですぅ。一緒に戦うと約束したにゃん!」
「夕間殿、私は夕間殿の剣になると騎士の誓いをしたのです。剣が守られるなどあり得ません」
「ミンハも誓った」
みんな---- でも四天王だってあと2人はいるし、魔王もいる。魔王がどれ程進化しているかも分からないんだ。
「でも、この先何かあって死んだらどうするんだ?!」
「それは夕間様も同じ事---- 夕間様が死んだりしたら私達は自分を許せません。ですから私達は夕間様の為にも死にませんわ」
「そうですね。死なないと約束しましょう。一方的に守られるのではなく、互いに守り合い共に戦えば良いのです」
「にゃう、それなら勇者様も納得してくれますぅ? 皆で生きて魔王を倒すにゃん!」
「ユーマ、勝手」
「こんな事を言うのは心苦しいのですが---- 私達を甘くみたいで頂けますか? 心配は嬉しいのですが、これでも国を背負って来ているのです。共に戦うメンバーとして見て欲しいですわ」
フローラの言葉は、視線と共に俺へ強く突き刺さった。見つめ返す俺の瞳は揺れていて動揺が隠せない。
------ 皆覚悟して来てるんだよな。俺が1番覚悟もしてないし、皆の事なんだかんだ心の底から信頼してなかったのかも。
そうだよな。食堂で誓ったじゃないか---- 肩から息を吐く。
「ごめん、俺が間違えていた。でも死なないで欲しい気持ちは変わらない。皆で生きて、互いに助け合って魔物を倒そう」
「謝らなくても大丈夫ですわ。頑張りましょう?」
「ええ、まだ旅は続きます。是非ともご指導下さいね」
「にゃん! 私もお願いするにゃん!」
「私も」
「分かった、皆頑張ろう。訓練や指導、厳しくしていくからな。覚悟しろよ」
「望むところよ」
「やる気まんまんにゃん!」
「強くなる」
ギュルルゥ〜 ミンハさんやサバンナからお腹の音が急になり始めた。
「にゃにゃん----- お腹すいたにゃん」
「お肉----」
「ふふふ、では食事にしましょうか。ミンハ、空間収納から作り置きのシチューを取ってくれる? ついでにお肉もお願いね」
フローラが作った温かいシチューを食べながら、皆の会話に耳を傾ける。楽しそうに笑う皆の姿はまるで色鮮やかだ。俺はこんなにも色があると思っていなくて、新しく見える色に戸惑いながらも口角が自然と上がる。
皆の姿から目を離し空を見上げると、沢山の星が散りばめられた綺麗な夜空がはっきりと見えた。
*** 翌朝 ***
「では、次の拠点へ向けてルートを確認するにゃん! この地図を見て欲しいにゃん!」
最初の作戦会議で見た地図を、サバンナが勢いよく切り株の上へ広げる。
「いいですかにゃ? 次はここ、リバイン大陸とガンナー大陸に挟まれた場所へ向かうにゃん! ここに向かうにはルートが3つあるにゃん!」
サバンナの長い爪がルートを指していく。地図に書かれている3つの線を辿ってみれば、どうやら海を渡っていくルートもあるようだ。
---- これから行く場所は初めて行く所だな。山と山の間にあるのか?
「ここに行く1つのルートは山、もう一つは海、もう一つは街だにゃん! 海が1番早くつくにゃん!」
「山ねえ。山は歩いて来たから出来れば違う道で行きたいわ」
「そうですわね。どうしましょうか、海だと船に乗るのでしょう?」
「そうにゃん! 海ならこの山と街を抜けてドワーフの船に乗るにゃん! 船はこの辺りに着く筈なので、山と岩肌の険しい道を通って拠点へ行くにゃん!」
------ ドワーフ?! ドワーフは見た事あるけど、ドワーフの船ってどんな形なんだろ。気になるな---- 街は何回か通っている場所だし、船旅は初めてだ。
「船乗ってみたい」
「ミンハは可愛いわね、興味深々って顔に書いてるわよ」
「むっ」
「私も船は初めてですわ。沈まないのですか?」
「このドワーフの船は凄いんですぅ! 噂によるとただの船ではないらしいのにゃん! 本音を言えば船に私も乗ってみたいにゃうん」
「あら、サバンナもそうなの。だったら海ルートで行ってみましょう? 夕間殿も良いですか?」
ミンハさんとサバンナが俺に強く目で訴えてくる。戦いの時よりも本気の目に吹き出しそうになった。
「分かったよ、海ルートで行こうか」
やったあ! とハイタッチしながらはしゃぐ2人を見てまた笑えてくる。
穏やかな時間は久しぶりで、森に流れる空気が髪を揺らす。空は青くはの隙間から漏れる日差しが気持ちいい。
「では早速準備して向かいましょうか、夕間様宜しいですか?」
「ああ、準備して向かうか。皆街に出るまでは魔物に気をつけろよ?」
ミンハさんとサバンナの張り切り具合が凄すぎて、あっという間に出発の準備が整う。
初めて見るドワーフの船。俺も密かに心弾ませながら、次の拠点へ向けて出発した。
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