19.ばあちゃんは錬金術師?
「ばあちゃーん!」
ボロボロの壊れかけた扉が開きシンリーが中へと入っていく。扉の隙間から一先ず部屋の様子を見る為、顔を出して中を伺うと動物の頭やら角が見えて思わず後退りしてしまった。
「不気味ですけど、大丈夫でしょうか?」
「にゃん〜」
「入りたくない」
「だ、大丈夫ですわよ。きっと----」
皆がヒソヒソと話し合うのが聞こえてきて、不安が更に増してくる。得体の知れない雰囲気にのまれながらも、もう一度恐る恐る隙間から中を覗くと今度は鎌やら鎖が見えて堪ったもんじゃない。俺は部屋に入るのが恐ろしくなり皆へと振り返った。
「みんな、と、とりあえず中に入らないでここで挨拶しないか?」
「そ、そうね。それが良いと思うわ」
「賛成ですぅ。中に入りたくないにゃん」
「ミンハも」
「ご挨拶だけして元の場所へ戻りましょうか。申し訳ありません。皆を巻き込んでしまって----」
「いやフローラは気にしなくていい。俺達も同意したし、シンリーが来るのをとりあえずここで待とう」
「それにしても、こんな所にどうして2人で住んでるのかしら?」
「にゃうーん、私なら住めないにゃん」
「ボロボロ」
ヒソヒソと顔を寄せ合って話していると、扉が大きく音を立てて開かれる。思わず肩が跳ね上がり心臓が一瞬止まってしまった。
「ばあちゃん家にいなかったわ! きっと作業場だと思うから俺についてきてくれ!」
家にいないと聞いて少しだけホッとしながらシンリーの後を仕方なくついていく。どうやら家の裏手側にあるようで、石壁の角を曲がって歩いていくとこれまたボロボロの山小屋が見えてきた。
あ、終わった。こっちの方がコエぇ----
今にも崩れそうな山小屋には扉さえもなく、部屋の中から真っ赤な光が見え昔見た童話の挿絵を思い出す。魔女がでかい釜の上で棒を手にしたまま、変な色の液体をかき混ぜている絵が頭に浮かんできた。
「ばあちゃーん! いるー?」
シンリーが平然と中へ入って行くのを見ながら山小屋の前で足を止める。いやいや、この中に入るのは無理だろ。ばあちゃんとやらがいない事を祈りながら心を落ち着かせる為深く息を吐いた。
深呼吸を繰り返していると、いきなりミンハさんが俺の服を掴んできて隠れるように俺の後ろへ移動する。気づけば肩にいた筈のシロもミンハさんの頭の上で塒を巻いて顔を隠していた。ふと隣を見れば、レーリアやサバンナもフローラの後ろで足をガクガクとさせて肩に手を置いて立っている。
モンスターに怯む事なく飛びかかる皆の姿はどこへ消えたのか---- もはや種類の違いすぎる怖さに皆腰がひけてしまい明らかに様子がおかしい。
「おーい! 皆中へ入ってくれよー! ばあちゃん今手が離せないんだって!」
シンリーが嬉しそうな顔でこちらに手を振っているが、腰が引けてる俺達は足を止めたまま苦笑いをするので精一杯だ。
ハア。ホラーゲーム苦手なんだよなあ。手が離せないって---- 何してんだろ、先に何があるか分からない何て怖すぎる。
「フローラ早く! ばあちゃんに会ってくれ!」
シンリーが駆け寄ってきてフローラの手を勢いよく掴んだ。フローラの表情は先程と変わらず笑顔を張り付けているが、少しだけ目が潤んでいるように見える。シンリーに引っ張られていくフローラ達を見て、俺は勇気を振り絞って足を踏み出した。
ギィギィと煩い短い木の階段はより怖さを演出している。もう耐えられないのかミンハさんが俺の腕にしがみ付き震えだした。やれやれと思いながらも緊張しつつ中を覗くと、小屋の中は物で溢れかえり足の踏み場さえないように見える。怪しげな器具や割れたガラスを目に映しながらも見渡せば、フローラ達の姿が見えたので一歩一歩足の踏み場が少ない中を歩いていく。フローラ達へどうにか辿り着くと、フードを被った老女が釜の前で立っているのを見つけて思わず声にだしてしまった。
「やべえ、本物?!」
慌てて両手で口を隠したがもう遅い。老女は無表情のまま俺を見て溜息を吐き出した。
「何が本物じゃ小僧。文句があるなら帰れ」
「い、いや---- 何かすみません」
「ばあちゃん! フローラは王女なんだって!」
「ジュラ王国、王女フローラと申します。シンリーのお婆様、ご機嫌よう」
「王女かい。また面倒な奴らを連れてきたもんだね。シンリー帰って貰いな」
「ええー! 折角ばあちゃんが喜ぶと思ったのにー」
「喜ぶもクソもあるかい! 王女様をこんな家に連れ込むなんて馬鹿かお前は!」
「いってぇ!」
「王女様とやら、ここはあんたのような人が来るとこじゃないよ、早く出てお行き」
シッシッと言うような手の振りを見て、何だか複雑な気持ちになる。思っていたのと全然違う会話の流れに戸惑いを隠せないまま部屋から出て行こうとすると再びシンリーが口を開いた。
「ばあちゃん、王女達は魔王を倒す為に旅をしてるんだよ? お茶くらい出してやってもいいじゃん」
「魔王だって? 王女様、あんたが魔王を倒すのかい?」
「はい、魔王を倒す為勇者と共に旅をしております」
「勇者? どこに勇者がいるんだい? もしや今回の勇者は女子なのかい?」
「い、いえ---- こちらにいる夕間様が勇者です」
「ほう、ユウマ---- そうかい。あんたが勇者か。シンリー家につれてってお茶を用意してやんな。私も終わり次第向かうよ」
「分かったよ! ほんと、ばあちゃんは素直じゃないなー」
「うるさいね、この減らず口は!」
「いてぇー、2度も叩くなよ! 皆家に行こう! ばあちゃん特製のお茶をだしてやるよ!」
何だか訳が分からないまま小屋を出てボロボロの家の裏口から中へと入る。先程まで感じていた恐怖はいつの間にか消え、灯りがついた部屋に入るとごく普通の部屋だった。
「今お茶の準備するから座っててくれ!」
シンリーの言葉に頷き、狩猟をする人の部屋みたいだなと思いながらさっき目に映った動物の頭を背に椅子へと座る。シロは相変わらずミンハの頭の上で塒を巻いていたが、皆も落ち着いてきたのか何事もなかったかの様な顔で椅子に腰を下ろした。
シンリーは盆にお茶をのせて戻ってくると、得意げな顔でお茶を渡していく。湯気が上がるお茶に口をつけると、甘味があるまろやかなお茶は凄く美味い。得意げな顔をするだけあるなとシンリーの表情を見返していると、扉から老女が入ってきてフードを脱ぎ始めた。
老女の耳は尖り、白っぽい見事な金髪は長くて腰まである。近くで顔を見ると昔は綺麗だったんだろうなと感じさせる程、整った顔立ちをしていた。
------ こんな所にまたエルフ。エルフって長寿だよな? 何歳くらいなんだろ。
「さて。ユウマ、今回で何回目の召喚だい?」
「10回目ですけど----」
「10回目かい---- はあ。本当馬鹿の一つ覚えみたいに召喚してるんだね、ユウマ、辛いだろうけど今回も頼んだよ。あんたにしか頼めないのは申し訳ないけどね」
------ この婆さん、いつも会う人達と何か違うな。
「いえ---- 今回は自分の為にも、皆の為にも頑張るつもりです」
「そうかい。これも何かの縁だ。お礼の代わりにはならないだろうけど、ユウマに何かしないといけないね。何か困っている事はないかい?」
「特にはないです---- けど有難う御座います」
「ユウマ! ばあちゃんはこう見えて凄いんだ! 武器とか見て貰えよ!」
「シンリー、お婆様は何かされている方なんでしょうか?」
「ばあちゃんはエルフの里の中でも1番の錬金術師なんだ! ばあちゃんに作れない物なんてないんだぜ!」
「ったく、あんたは---- 少し黙ってな。私は錬金術師を生業にしているバーバラだ。武器や装備はあるんだろ?」
「ありますけど---- あ、もし見て貰えるならさっき箱に入っていた物があって----鑑定とか出来ますか?」
「出来ないと思うのかい? 舐めて貰いたくないもんだね。ほら、見せてみな」
箱にあった虹色の鉱石とミンハさんにあげる予定のマントを取り出しテーブルへ置く。バーバラさんは虹色の鉱石とマントを手に取ると急に目を見開いた。
「これをどこで見つけたんだい?」
バーバラさんの纏う空気が変わり鋭い眼差しで俺を見てくる。何故そんな目で見られているのか全く分からず、無言のまま目を合わせているとバーバラさんはふと息を小さく吐いた。
「何も責めたりはしないよ。どこにあったか聞いているだけさ。ユウマが答えられないなら王女様に聞こうか?」
「---- 通ってきた洞窟の奥にあるクリスタルの下にありました」
「洞窟---- その子の頭の上に乗っかる蛇を見るに、あんた達大蛇を倒したのかい?」
「えっ、そうですけど----」
「はあ---- 隠されていたのはこれだけじゃないだろ?」
バーバラさんの言葉を聞いて、申し訳なさそうな表情で皆杖や剣を取り出しテーブルの上にのせていく。俺は皆の表情を見て、初めての宝箱に浮かれていた自分を殴りたくなった。フローラが貰っていいのかと心配していたのに、ゲーム感覚で貰っていいよと言った俺の責任だ。
「俺が勝手に箱を開けて中の物をとったんです---- すみません」
俺の言葉を無視するようにバーバラさんはテーブルに置かれた杖を手に取って溜息を漏らす。一つ一つ丁寧にじっくりと見た後、椅子に深く座り目を瞑って何か考えているようだ。
緊迫した空気が流れ出し、皆静かにバーバラさんを見つめている。俺は勝手に箱を開けた事を反省しながら唇を噛んで緊迫した空気に耐えていた。
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