14.皆ごめん。
俺は部屋を出て皆がいるであろう食堂へと向かう。朝にしようか一瞬悩んだが、このまま寝てしまったら皆に会うのが怖くなりそうでやめた。
食堂の入り口で中を覗いたらさっきまで俺がいたテーブルに皆が座っているのを見つけた。女神は何処かにいってしまったようだ。俺は深く深呼吸してから皆へと足を動かした。
皆は落ち込むように顔を下へ向けていて、話かけていいものか躊躇う。
こんな時、どう声をかけたらいいんだ----
怖さから足を止めたとたん、サバンナの獣耳をピンっと真っ直ぐに立つ。尻尾を揺らしたのが目に映るとサバンナが俺をチラリと見た。
「ごめん!」
サバンナと目が合い、慌てて頭を下げる。
皆の顔が見れないなんて---- 弱い自分が悔しい。ドキドキと緊張が止まらずひたすら頭を下げていると、皆が次々に椅子から立ち上がった。
怒ってるよな。ギュッと目に力が入り皆からの言葉を想像する。許されなくて良い、俺も酷い事フローラに言ったし。
皆の顔はきっと冷たいだろう。でも---- このまま頭を下げてても何も解決しない。俺は勇気を出してゆっくりと顔を上げた。
俺と対峙する皆の顔に冷たさなんてなかった。想像と全く違い、今にも泣き出しそうな顔をしている。
「夕間殿、私からも謝ります。今までの礼を言わず当たり前の様に戦いへ出発しました。本当に申し訳ありません」
「勇者様ぁ、サバンナも謝りますぅ。ごめんなさいにゃん。今まで世界を救ってくれて有難うございますぅ」
「ユーマごめん。じーちゃから言われてたのにっ」
「夕間様---- 皆には話ました。謝らなくても大丈夫ですよ」
------ みんな。
俺は今まで人と向き合う事から逃げてた。面倒くさいと思う気持ちは簡単に変わらないけど、逃げ続ける臆病な自分はもっと嫌だ。
元気だった筈の皆の顔を変えたのは俺。ちゃんと言わないと---- 何度も自分に大丈夫と言い聞かせる。
言うんだ、言え!
「俺---- 自分の事ばっかりで皆の事考えてなかった---- だけどもう逃げない。何度も召喚されて辛いのは変わらないけど---- 今度は皆の為に戦いたいんだ」
「夕間様----」
「にゃあ、無理しなくても良いにゃん?」
「そうですよ、夕間殿が辛い思いをしたまま戦わずとも私達で頑張ります」
「ミンハ魔王倒す」
「無理とかじゃない。俺は今までの戦いも、今回の戦いも意味があると思いたいんだ。だから皆、一緒に戦ってくれないか? お願いします!」
緊張や怖さから体が震えてしまい、頭を下げたまま目に力を入れていたら肩に優しく手が置かれた。
「では私からもお願いしましょう。夕間殿、私と一緒に魔王を倒して頂けますか? 私は騎士であるレーリア・オルフェット。この剣に誓い勇者である夕間様の剣となりましょう」
レーリアは床に片膝をついた後、剣を差し出して正式な騎士の誓いを俺にしてくれる。
「にゃにゃあ! 勇者様ぁ、私はサバンナ・ジール。獣人族長の娘ですぅ。魔王討伐までの案内は私にお任せ下さいにゃん! 勇者様に付き添い手足となって働きますぅ、宜しく頼みますにゃん!」
サバンナは獣人族の正式な礼なのか、猫のポーズで頭を下げながら尻尾を高く上げた。俺がサバンナのポーズに目を奪われていると服を強く引っ張られる。
「ミンハ・シーベル。オズじーちゃからユーマの話沢山聞いた。ミンハはユーマを守る」
ミンハさんは体よりも大きい杖を床に刺し、俺に力強く頷いた。俺もミンハさんへ向けて頷くと、今度はフローラが胸に手を当て膝を降った正式な礼の姿勢を取る。
「私はフローラ・ジュラ。ジュラ王国王女でございます。治癒師として夕間様のお体に傷を残さないと約束致しましょう。宜しくお願い致します」
1人づつ皆の顔を見ていく。魔王討伐に向かう旅が今始まったように思える。胸の高鳴りを感じた俺は、胸に拳を強く押しあて声を張り上げた。
「俺の名前は空閑夕間。10回目の召喚によりこの世界に来た。今回の魔王討伐はいつもと違う。魔王は変化し魔王軍四天王も現れた。皆俺に力を貸してくれ」
「魔王を倒し世界を救いましょう」
「にゃん!」
「必ずや倒して見せるわ」
「倒す」
「皆、魔王を倒しに行くぞ! 世界を俺達で救うんだ!」
俺達は手を合わせて誓い合う。
新たな門出は宿の食堂。雰囲気なんてどうでも良い、皆と共に魔王をぶっ倒すんだ。
皆と顔を見合わせ声を出してから手を上げる。
それから遅くなってしまった夕食を取り、明日の出発に向けて各々部屋へと戻った。
ベッドに座り一呼吸置いた俺は女神へと呼びかけた。
「おい女神いるんだろ? 出てこいよ」
部屋に光りが集まりだし女神が俺の前に姿を現す。
「勇者---- 先程は申し訳ありません」
「もういい。俺も冷静じゃなかった。聞きたい事があるんだ、質問に答えてくれ」
「分かりました。お答え致しましょう」
「魔王の異変は何でお前のせいなんだ?」
「それは---- 魔王が変わったのは勇者の世界からある物を持ち込んだからです」
「ある物? それは何だ?」
「勇者の世界でいうラノベと言われる本です。魔王はそれをこの世界に持ち込みニヤニヤと読みふけるとおかしな行動を取るようになりました」
------ なっ、ラノベ?!
どういう事だ? ラノベ何て読んでどうするんだよ。
「その---- 魔王が読んでいたラノベの本はどんな内容なんだ?」
「内容までは分かりませんが---- *最強の古龍と合体した魔王は勇者を返り討ちにして世界を混沌へと変える*とか、*異世界に転生したら魔王だった。勇者に倒されない為に俺は四天王を育て平和を謳歌する*と、表紙に書かれているのが見えました」
------ ハア?! あいつラノベからパクったのかよ! アホなのか?
「魔王を送ったのは俺が9回目の召喚をされる前だよな? 何で前回はいつもと変わらなかったんだ?」
「それは---- 私の推測ですが四天王を育てていたからでしょう。魔王は体内で四天王を育てながら魔力をある石に溜め込んでいました。勇者が来た時にはあっさりと負けて眠りに入ったのですが、徐々に石から魔力を引き出し何故か直ぐに復活したのです」
「それで? 復活してどうしたんだ?」
「魔王は復活すると時は満ちたと言って四天王を体内から吐き出しました。生まれたばかりの四天王を連れて地中深く眠る古龍の元へと行き、地上に戻ってきた時には何故か合体していたのです」
---- 本の題名のまんまじゃねえか! 魔王がラノベから知識を得るだなんて聞いた事ねえ。それであのドヤ顔か? 俺の世界から知識を盗んでドヤ顔---- 馬鹿すぎて呆れる。
あいつ、脳みそ足りないのかよ。だからゴスロリか---- 何でゴスロリがいるか不思議だったんだよな、しかもレンタル製品って、レンタルショップでラノベを見つけたのか?
レンタルショップに立ちながら目を輝かせる魔王の姿を想像すると笑えてくる。
「勇者---- 大丈夫ですか?」
「や、魔王って馬鹿だったんだな---- 大丈夫。俺の世界で得た知識なら俺にも考えがある。もう気にすんな」
「でも私のせいで---- 勇者には苦労をかけます。本当に申し訳ありません」
「だからもういいって、それより俺はもう寝るわ。また何かあったら教えてくれよ」
「---- 分かりました。勇者よ、いつでも私を呼んで頂いて構いません。貴方に私の加護を送りましょう、お使い下さい。それでは勇者に幸があらんことを」
女神は俺の額に指を当てて魔力を流すとそのまま光に包まれて消えていった。
何が起きたか分からなかったが、暗く戻った部屋に安心し疲れてそのままベッドへと横たわる。
------ あー今日は色んな事があったな。
それにしてもラノベって、魔王も単純すぎるだろ。勇者の話の方が多いって知らねえのかな----
俺だって無双チート物を読み漁ってきたんだ、読んできた量を考えると絶対に負ける気がしない。
本当なんだろう、小説の様な世界に来たと思っていたのに魔王はその小説から知識を得て変化するんだもんな。
あー馬鹿くせえ、魔王のドヤ顔を思い出すとまた笑えてくる。
ま、魔王に会うのが楽しみになってきた。ドヤ顔で何を言い出すのか今から楽しみだ。
魔王がラノベの本について何を語るのか想像しながら俺は眠りについた。




