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貧乏フリーター、闇魔法始めました。  作者: しふる
第1章 闇魔法始めました。
2/5

1-2 ゆっくりマートのアイドルたち

「今日も相変わらず不景気ですなぁ」


 ちらっと駐車場を見渡すが、駐車スペースに対して車は20%しか埋まっておらず、これがいつもの景色であった。

 京のバイト先である、ここ、ゆっくりマートは、お客様がのんびり穏やかに買い物できるようにとの思いから、先代の社長がネーミングを考えたスーパーである。京の家から徒歩10分、途中の信号機に当たったとしても15分程度で到着できる距離にあり、地元で採れる食材を中心とした品揃えとなっている。

 ライバル店の大手スーパーよりも、少しでも値段を安くしようと企業努力を続けているものの、最近は大量仕入れによる値下げ競争についていけず、惨敗を喫している。


「はぁ~涼しい~」


 自動ドアを開けると、外の暑さとは打って変わり、少し身震いするほど涼しかった。今時期のスーパーやコンビニなどの食品を扱う店舗は、まさに真夏の楽園と化すため、特に用もない暇な客人が涼みにくる。

 ゆっくりマートも例外ではなく、中高生とおぼしき若い客が店舗内のあちらこちらでたむろしている。メインの客層である主婦に対し、彼らはジュース1本や雑誌1冊程度しか購入しないため、あまり売り上げへの貢献は期待できない。それでも有り難いことに変わりはないが。


「あっ、雅道院さん。おはようございます。今日は本当に暑いですね」


 軽く会釈する彼女は、沙織川 雪音(さおりがわ ゆきね)。ゆっくりマートでアルバイトをしている京の後輩で、地元の公立高校に通う高校2年生である。

 パッチリとした二重瞼、大きな黒目、シルクのように艶やかとした長い黒髪、腕や腰回りは華奢ではあるのに対し、主張するところはしっかり、いやかなりしっかりと主張している健康的な身体は、女性の身体の見本として保健の教科書に掲載するにはぴったりだ。一見涼しげな顔をしているが、本人は人懐っこい性格であり、一度話してみると誰とでもすぐに打ち解ける。

 そんな彼女はゆっくりマートのアイドルその1であり、彼女目当てで来店する客もいるほどだ。たむろしている中高生の中にも、彼女目当ての客は多いだろう。

 なお、京も彼女の美貌、特に胸には色々な意味でお世話になっているが、そのことは本人にはばれていない。


「おはよう。夏休みって今日からだっけ?(雪音ちゃんおっぱいでっか)」


「はい。今日から8月一杯までです。夏休みの間はみっちり働こうと思ってます。そういえば、シフトは雅道院さんとほとんど被っているので、これからよろしくお願いします」


「うん、こちらこそよろしく(ん? はちがつおっぱい?)」


「お二人ともおはようございま~す。って、夏休み始まってそうそう何イチャついてるんですか」


 ニヤニヤしながら近づいてくる彼女こそ、ゆっくりマートのアイドルその2である天山 春乃(あまやま はるの)。雪音とはクラスメイトであり、学校でも仲が良いとのこと。

 しかし外見は対極的で、清楚系の代表が雪音なら、春乃はギャル系代表。髪はショートボブの亜麻色であり、短めの髪型は表情を隠せず誤魔化しがきかない分、これが似合うということは端正な顔立ちをしている証拠といえる。雪音と比べて少しだけ背が高く、胸の方は雪音ほど自己主張が激しくないにせよ、充分女性らしいプロポーションを保っている。サバサバとした性格で、かつ面倒見が良い性格のためか、女性陣からの信頼が厚く、同僚や同級生からもよく相談を持ちかけられている。

 一方で、人を茶化すようなもの言いを好み、自分が言った事で男性がアタフタしているのを見ると、不敵な笑みを浮かべて満足そうにする。いわゆる猫目と呼ばれる切れ長な瞳は、彼女の小悪魔っぽさを引きたてる強力な武器の一つだ。

 なお、童貞の京にとっては刺激が強く、何度もドギマギさせられているが、そのことは本人にはばれていない、と思っているのは京だけである。


「普通に挨拶してただけだろ」


「――――」


「??? 雪音ちゃん?」


「――――あっ、はい」


「大丈夫?」


「大丈夫です」


(雪音ちゃんってたまに突然ぼーっとするよな)


「あー! 雅道院さん、また雪音を困らせてる~」


「な、何でだよ。何もしてないだろ」


「え~? 自覚ないんだ? ふ~ん……」


「何が言いたいんだよ。ふん、今日は大事な日だからな。さ、仕事だ仕事(くっ、ビッチめ。いちいちエロいんだよ!)」


「大事な日って、誰かに告白でもするんですか~?」


 春乃のニヤニヤした目線を後頭部に感じつつ、無視して更衣室に向かう。






 更衣室にて制服に着替える。制服といっても、ごく普通の赤い作業服の上衣を私服の上から着用するだけ。頬が緩み過ぎてとろけそうなニコちゃんマークが背中にプリントされているのが唯一の特徴か。

 ファスナーを閉め、売場に出る前に事務所へ挨拶に向かう。交渉相手に挨拶をするためだ。交渉相手は京の上司にして、この店舗の最高権力者、肩書を店長という。その店長は、パソコンの画面を食い入るように見ながら難しい顔をしていた。


「おはようございます。どうかしたんですか」


「ん? ああ、おはよう。今月も売り上げがイマイチでね。どうすりゃ良いものかと悩んでたのさ」


「そ、そうなんですか」


 全力で交渉すると決心したところに水を差すような不安材料。しかし、ここで引いてはオタクがすたる。ブンブンと首を振り、目の前に君臨する店長を見つめる。


「首が痛いのかい? 寝違えた?」


「い、いえ、大丈夫です……」


 知ってか知らずか、見当外れな心配をされて、軽くずっこける。


「そうかい、無理はしないでね。ところで今日はずいぶんと品物が届いてね、多くて大変だと思うけど、品出頑張ってね。まあ、雅道院君ならすぐに終わると思うけど」


 いつも通り向けられる信頼の言葉。同様に京も、いつも通りの不安を微塵も感じさせない自信溢れる面持ちで答える。


「わかりました」






 店長への挨拶を追え、たくさん届いたという品物を見に行く。商品が梱包されたダンボール箱が高々と積み上げられていた。

 配送業者からの荷物は、バックヤードと呼ばれる店舗裏にある倉庫に搬送される。品出業務とは、読んで字のごとく商品を売場に出す業務のことである。また、客が商品を手に取りやすいように棚に並んである商品を前方に寄せたり、商品の配置換え、値札(ポップ)の作成、商品の発注なんかもする。


「確かに多いな。だが、今の俺の悩みに比べればこの程度……」


 等身大フィギュアを購入し、自室の狭い6畳間の一角に設置する様を思い浮かべる。ダンボール箱を前に、一人でにへら、とした笑顔を思い浮かべ、せっかくの品がある見た目を全力で台無しにする。


「つぶつぶ……」


 『つぶつぶ』とは『魔法少女つぶら』という深夜アニメのヒロインの一人、登場人物の愛称である。従来の魔法少女に見られるような夢と希望の物語とは一線を画し、シリアスな展開と登場人物の魅力によって人気を博した。また、普段アニメを見ない芸能人にも熱狂的ファンが生まれ、そこからSNS等を通じて一般人にも広まり、ちょっとした社会現象にもなった。


「かならず君を迎えに行くよ。だからもう少しだけ待ってて」


 妄想の中のつぶつぶフィギュアに語りかけ、ヨシ!と気合を入れる。


「さくっと仕事を終わらせて、店長に交渉だ。さあ、始めよう戦いを……!」


 無駄にイケメンボイスを発し、仕事に取り掛かる。




「…………」


 特売品の補充のため、商品を取りにきた春乃に一部始終を見られていたことは知る由もなかった。






「さっき裏に荷物取りに行ったら、雅道院さんがまた自分の世界に入って変な妄想してた」


「ずっとそわそわしてたのは、それが言いたかったんだね」


 時刻は16時。事務所の奥に設置されている扉を開いた先にある休憩場所でのこと。中は小上がりになっており、多少年季が入った木目調のテーブルが2つ、その周りには座布団が敷かれていて、8人までなら同時に休憩できるくらいの広さだ。

 30分という短い休憩時間ではあるが、テーブルを挟んで対面に座り雪音と春乃がガールズトークに華を咲かせていた。


「なんか、ダンボールに向かって『つぶつぶ』とか『君を迎えに行く』とか言ってたんだけど、何のことかわかる?」


「……たぶん、『魔法少女つぶら』っていうアニメのキャラのことだと思う」


「やっぱりそっち系なんだ。ってか最近の雪音ってさ、アニメとかに詳しいよね? 前から好きだったっけ?」


「え? そんなには詳しくないよ。何となく聞いたことがあるだけで」


 雪音の顔が若干赤くなる。春乃はその僅かな変化を見逃さなかった。


「……雅道院さんが見てるから?」


「な、なんでそこに雅道院さんが出てくるの?」


「あ、雅道院さんお疲れ様です」


「えっ!?」


「うっそだよ~」


 んんん~、と声にならない憤りをあらわにする雪音。


「雪音って本当雅道院さん好きだよね」


「別に好きじゃないし。普通だし」


「ん~? そうなんだ。じゃあ私がもらっちゃおうかな~」


「え!?」


「なんかタジタジしてて、年上だけどかわいいんだよね~。反応も童貞っぽいし」


「……その手には乗らないんだから」


「ちぇ~」


 もう慣れた、と言わんばかりに得意気な表情を見せる雪音。これが二人のいつも通りのやりとりであった。売場で購入した、紙パックのアップルティーを一口飲み、雪音が話題を変える。


「そういえば、雅道院さんが言ってた『大事な日』って何のことなのかな?」


「あ~、さっき裏で店長と交渉するとかなんとかって言ってたけど、それじゃない?」


「交渉? なんの交渉だろうね」


「なんだろうね~。雅道院さんだからどうせ変なことだろうけど」


「変って、それは失礼だよ……」


 苦笑いしながらも、実際のところ少し同意をしてしまう雪音。


「あの人ってさ、さっきの独り言もそうだけど、自分の趣味が絡むと周りが見えなくなるじゃん? だけど仕事はできるよね~」


 春乃は褒めているのかけなしているのかわからない評を下す。


「そうだね。てきぱき仕事をこなすし、頼りになるよね。なんか判断力? 決断力? そういうのがあるのかな」


「確かに話してて思うけど、何をするにしても決断が早いよね。迷いがない感じっていうかさ~。だけど自分の趣味が絡むと周りが見えなくなるよね~」


「それはさっきも聞いたよ!」


「なんか将来失敗しそう。趣味が絡むことで、持ち前の決断力の速さが裏目に出なきゃ良いけど」


「え……すごい毒舌だね」


 雪音は親友の強力な口撃に、思わず口をつぐみそうになるが、扉から顔を覗かせる噂の人物を発見し、身体をビクッとさせる。


「ひどい言われようだな……」


 青ざめていく親友に対し、こちらは気にも留めず余裕の反応。


「あ、雅道院さんも休憩時間なんですか~? お疲れ様で~す」


「将来失敗しそうとか、変なフラグ立てるのやめてもらえますか?」


「気を付けて下さいね☆」


「か、かわいく言ってもだめだ! (くっ、あざとい……かわいい……自分でかわいいのがわかっててやってるな、こいつ)」


「ん~? どうしたんですか~?」


「な、なんでもねぇよ。ただ、置き忘れていた飲み物を取りにきただけだから」


 勝ち誇ったような笑みを浮かべる年下ギャルJKに、動揺を悟られないようにそそくさと飲み物を回収し退散する。年上のプライドというやつだ。当の春乃にはバレバレであるが。


「あ、あと、何のことかわかりませんが、交渉頑張ってくださいね~」


「さっきの独り言聞いてたのか。ああ、頑張るよ」


 恥かしい独り言を聞かれていたのにも関わらず、今度は普通に返答する。京はこの辺の感覚が普通の人とはズレている。

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