18.はじめまして ふしんしゃばんごうにばん
「動くな」
低い男の声と共に、緩めていた首元へ薄く冷たい物がひたりと触れた。反射で使った魔術が作動せず、結果的に男の指示に従う形となった。
背は高く、声の位置からして体格もいい。男。特殊な臭いなし。所属不明。魔術師。
いま分かるだけの情報を、ざっと積み立てていく。
「関係者以外立ち入り禁止です。御用の際は申請を出した上、日の明るい内にお越しください」
ぴりっとした感覚が首に走ったので、どうやら切られたらしい。短気な襲撃者である。
その間も魔術は不発だ。幸いだったのが、つい最近この感覚を知ったことである。相手の魔術を霧散させ、無効化していた遺跡地下の扉。あの術に、よく似ている。
とてつもない偶然が働いたわけでないのなら、この男は王宮魔術師関連だ。古代遺跡にかけられた魔術を、完全でなくとも習得している。あの遺跡を掌握できていた時代に出入りしていた人間だろうと思われる。何せあの魔術を一目で習得できるはずはない。
もしも一朝一夕で使用段階に持ち込んだ猛者がいたのであれば、弟子入りしたい。目下の問題点は、知らない人と四六時中一緒にいるのはしんどい点をどう乗り越えるかだ。
首に圧がかかった。そういえばいま大変だった。
「遺跡より盗み出した品を返還せよ」
「仰る意味が分かりかねます」
心当たりがないなぁ。
私達は遺跡調査中、偶然体に付着した物を分析したに過ぎない。それなのに人を盗人呼ばわりするなんて、なんて失礼な男だ。弟子入りの件はなかったことにしてください。
「最古の宝玉を返還せよ」
本当に心当たりがない。
「最古の……、最古の魔石のことですか?」
「然り」
これは、まずい流れだ。無の証明こそ矛盾の典型例である。
「大きさ、透明度、彩度、石の種類を含めて詳細を希望します」
「返還を拒むならば、その方のみならず一族郎党への被害を心得よ」
人の話を聞かない襲撃者である。
「っ」
首に食い込む刃物の角度が変わった。先ほどより深く抉れた感覚がある。刃物といっても魔術で作り出した刃だ。肌に触れているからこそ、魔力反応が読み取れる。普段ならば魔術式に私の魔力を注入し魔術破壊へ持ち込めるのだが、今は私の魔術が発動しない。
やれることもないので、とりあえず魔力を霧散させていく。さて、どうしたものか。杖を小さく揺らす私を、男が制止することはないこちらに魔術が使えない確信があるのか。
それとも、思考していないのか。
そう思ったのは、男の魔術式がどうにも虚ろだからだ。魔術として発動はしているが、魔力が虚ろに回っている感が否めない。
魔術は意思だ。魔術師の意思により構成され、意志により発動する。それなのに、一番大切な根幹部分の魔力が揺らいで見えるのだ。
冗長に会話を長引かせることも可能かもしれないと、男の様子から判断する。助けが来ないことを確信しているからか。それとも思考していないのか。判断材料がない思考は、そこに帰結してしまう。
それにしたって周囲が静かすぎる。施設内の魔術が落ちているのだ。片手間に落とされるような警備体制はしていない。しかしそれらが破られてしまった。これは大変なことになる。
何せ、二課の趣味と実益を兼ねた渾身の魔具と魔術だ。常日頃から挑戦者求むと、今日という日を心待ちにしていたのである。それが破られたとなれば、皆の心は燃え上がるだろう。
「知らない物は返還不可能です。対象物が容易に持ち運び可能な形状であるなら、そもそも発見困難な状態と推測します。今一度、遺跡内の重点捜索を提案します」
持ち運び可能でありながら、その場にはないと判断が容易な物。つまり魔術で探知できる物体。
これで、あの場にあった巨大な魔石は最古の魔石ではないとの確信が持てた。あらゆる条件に当てはまらない上に、あれを見つけられなかったのなら今すぐ病院へ駆け込んでほしい。
「あれは貴様らが扱えるような代物ではない」
話自体は気になるけれど、いつまでも首に刃物をめり込ませておく趣味はない。首の凶器を掴み、渾身の力で握りしめる。
「だったら自分で探してください!」
振りかぶった杖による物理的な攻撃に対し、相手が反応する過程で刃物も動いた。掌を切り裂いていくが、背に腹は代えられず、首と掌ならば釣りが出る。
首が解放されれば動きようもあった。ほぼ反射に近しい動きで杖を構える間に思っていた追撃は来ず、拍子抜けした私の視界に白が走った。
「アン!」
「うん」
夜の闇に、白が走る。
青空と夕焼けも一緒に走るので、まるで空が躍っているようだ。アンは男と私の間に剣を叩き込みながら、私の全身へざっと視線を走らせた。
「ごめん、一匹逃がした」
「気づいてくれてありがとう! 助かった!」
夜を背に一人で空を纏ったアンは、剣を避けた男へ向け、強烈な回し蹴りを繰り出す。大きく翻った髪の隙間に昼のような光が見えた気がして、こんな状況だというのに一瞬気が逸れた。
蹴りは見事男を捉え、顔面を押さえた男は大きくよろめいた。空中で切り替えた体勢から繰り出したとは思えぬ音が、その顔面から響く。鼻くらいは砕けていそうである。
それにしても大きな男だ。熊と間違えてもおかしくないほど体格に恵まれている。体格通りの大きな掌の隙間から、ばらばらと黒い破片が散らばっていく。おそらくは仮面だろう。
「ミント、怪我は」
「ない!」
夜闇に紛れ、ゆらゆらと同じ影が十ほど揺れている。仲間がいるとは思っていたが、その人数が格言通りでちょっと笑ってしまう。
魔術師、一人見かけたら十人いると思え。
「……一匹しか逃がさなかったはずだけどな」
私に背を向け、男と対峙していたアンが小さく呟く。
「まあそこは、魔術師相手だしね」
ぐるりと回した杖を振りかぶり、先を地面へ叩きつける。そうして、腹の底から声を張り上げた。
「敵襲――――――――――!」
散々霧散させておいた魔力を使った声は光となり、施設中を駆け抜けていく。空間を走り抜け、窓から飛び出した光は、内部から大爆発を起こしたかのようだ。二課ではよく見る光景である。
光が走り抜けた途端、弾かれたように施設中が稼働していく。光、音、そうして人の気配がわっと溢れ出す。覚醒した人の気配は、窓から空から地面から、わらわらと登場する。
あの格言は、何も王宮魔術師だけに適用されるものではない。魔術師とはとかく、どこからともなく湧いて出てくる生き物だ。襲撃に遭った二課は、石をひっくり返された虫のようだと評される。
アンに仮面を蹴り割られた男の姿が、溶けた蝋のようにぐにゃりと傾く。後ろの影十体もよく似た歪を見せる。目を凝らしても魔力の流れがよく見えない。乱れとぶれが激しい。
「……人じゃ、ない?」
人ではなく傀儡術による人形かもしれない。けれど、それにしては妙に人間くさい。魔力の流れ方だけでなく、保有している魔力の質が人間のそれだ。相手に対応した会話も可能な、人形のように歪な人型……。
そこまで思考して、ぞっとした。まさか、これが。
おぞましい想像に、クレスが止めを刺した。
「あの顔に体躯……まさか、ラゴー・ディトか?」
これは、培養された人間だ。
「あれは貴様らが扱える代物ではない」
大男の首が右に倒れる。剥がれ落ちた仮面の下から、瞳と口をぽっかり開けた男の顔が現れた。
「あれは貴様らが扱えるあれは代物では代物しろものシロモノぁアああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「……行きつくところまで行ったな。人が考えうる最悪を煮詰めたら、あいつらに辿り着くぞ」
こんなにも人に近しい虚無を作り出した王宮魔術師の邪悪さに、吐き気がする。こんなものを許容し、よしとした存在が、私達の王なのか。
常軌を逸した大男の様相にぎょっとしていた二課の前で、侵入者達は合図一つなく無造作に杖を振り上げた。その杖が地面を穿った瞬間、凄まじい光と音が膨れ上がる。魔術発動までが、早い。
しかしそれはこちらも同じこと。何せ同じ魔術師だ。魔術における優位性は、結局威力や精度よりも発動の速さが物を言うと、誰より分かっている。
「防衛!」
ゼノンの命令と二課の魔術発動は、全員ほぼ同時だった。
「こ、こんなところでこんな規模の爆発魔術使うやつがあるかよぉ!」
「あなた達は恥ずかしくないんですか! 二課に常識を解かれるとか、末代までの恥ですよ!」
「馬鹿やめろ! その攻撃は俺らに聞く!」
私も、私を抱えたアンごと防御壁を張った。誰しもができるだけ広く厚くと貼った防御壁が、爆音と共に激しく揺さぶられる。地面が抉れ、視界が焼かれ、鼓膜が殴られる。防御壁を張ってなおこの衝撃。どれだけの魔力を接ぎこんだのか。
どう考えても、こんな場所で放っていい魔術ではない。防壁を張っていなければ、この場にいる人間は全員炉に落ちたかの如く溶け消えていただろう。
「お、俺の観察番号762号がー!」
「畑全部張り切れなかったんだから諦めろ! 栄養剤作るの手伝ってやるから!」
「そりゃありがたいけど、お前のほうのも駄目そうじゃね!?」
「え、ああっ! 俺の成長促進魔術使用樹齢千年本樹齢三か月の大樹がー!」
凄まじい光と轟音、次いで衝撃。追撃は、こない。
最初の爆発による衝撃が過ぎ去った後には、静けさが漂い始める。杖を構えたまま鋭く視線を走らせていたゼノンが、嘆息して杖を下す。
「全員、戦闘態勢解除許可」
途端に空気が緩んでいく。あちこちで各自明かりを確保し始め、周囲は昼間のように明るくなる。未だ土埃と焦げ臭さの残る風の中、気の抜けた声がわいわいと騒ぎ始めた。
「お疲れ~」
「あー……寝不足に効くー……」
「前の襲撃より派手だったなー」
「前のってどれだっけ」
「あれだろ。ミントの研究盗みに来たやつ。美人局から始まった一連の」
「あー、あれかぁ。二課相手に美人局はなー……美人術式なら分かるけど」
「美しい式は、いいよな……」
被害が皆無とはいかないが、二課夜勤組総出の魔術防壁は、被害を最小限に抑えたようだ。
「……どうにも、襲撃を受けた後の人々とは思えない雰囲気ですね」
いつの間にやら、ルクトス隊の面々が集まっていた。ロカンを筆頭に剣をしまいながら歩いてくる様子は、戦場慣れした戦士のそれだ。
「遅いぞー。外にいた人数は?」
「把握できていた魔術師は三十二。しかし、捕縛していた者含め跡形もなく消えました」
「こっちも同様だ。原因に予想はついているから問題ない」
猫のような欠伸をするクレスに、ロカンはその端正な顔を盛大に歪ませた。
「力及ばず、申し訳ない。襲撃を許した上、ご婦人に怪我を負わせるなどルクトス隊の名折れ!」
「お気になさらず。頼りないかもしれませんが、私とて軍人の端くれ。負傷は私の未熟ゆえです」
本当に気にしないでほしい。
むしろ、お父さんの隊がご婦人に怪我を負わせると名折れになってしまうような、硬派っぽい方針を掲げているほうが非常に気になる。他のどの隊が掲げていても全く気にならないが、身内の、それもあのお父さんが掲げていると思うと、非常にむず痒くて重症だ。
「護衛を任された以上、あなたの負傷は我々の責。まして、隊長のご息女ともなれば尚のこと! 我ら一同、軍部外周五十周しても許されません!」
百週なら大袈裟だなぁと思えたけれど、ちょっと真実味がある周回数にするのはやめてほしい。
「二課がここぞとばかりに公費を接ぎこみ遊びつくした、阿呆みたいな防衛魔術を軒並み解除した奴らだ。相手取れただけで十分な優秀さが証明されたぞ。誇れ」
クレスはいつでも素直に感想を述べるし、いつでも若干偉そうだ。クレスは我が道を行く二課の中でも他者の感想を全く気にしない類だ。よって、誉め言葉で相手が怒り出そうが特に気にしない。
「現状では、その言葉受け入れ難し。けれど感謝しましょう。男ロカン、必ずやその言葉に相応しき結果を齎しますとも!」
ロカンも特に気にしない質のようだ。クレスの言葉を気にせず素直に受け入れられるロカンは、成程、クレスの護衛に選ばれた理由も頷ける。この二人、相性がいい。ラクーシャ達も同様だ。
選んだのは誰だろう。ゼノンは相性に合わせた差配が上手なので、きっと彼だ。
父が得意とするかは、知らない。私は父の娘で、大切にしてもらってきた自負もあり、注いでもらった愛情を疑ったことは一度もなかった。それでも私は、戦場にいた誰よりも、父のことを知らない。
その事実がここにあるだけだ。
「ミント、怪我は」
周囲に指示を出しながら、ゼノンが足早に近づいてくる。
「それが、聞いてください。首と掌をざっくりです」
私がこれっと示した個所を確認しようとしたゼノンの掌より早く、横から伸びてきた掌が私の顎を掴み、首元を覗き込んだ。
昼に溶け、夜に映える美しい純白の中に、昼の光のような金色の光が見えた。白髪の中に、金の髪が混ざっている。先程のあれは、見間違えではなかったらしい。
「怪我はないって言った」
アンの声が、私をなじる。
「ミントが、嘘をついた」
顔を上げたアンの瞳は、絶望で酷く傷ついて見えた。
「緊急事態だったので命に別状はないを略したけど返答としては不適切でしたすみません!」
「……命に、別状は」
「ない、の、ないです」
どうやら納得してくれたらしい。アンの瞳に映っていた暗い色が消えていくのを確認し、ほっと胸を撫で下ろす。アンが何に傷つき、何を嘆くのか。私は何も知らないのだ。
お父さんのことも、アンのことも。両方私の家族なのに、私は家族のことを何も知らない。それは、親しくないより寂しいことなのかもしれないと、たまに思う。
「そういえば……アンの髪って、金色も混ざっているんですね」
これも、アンが気にしていたらどうしよう。そぉっと聞いてみると、アンは静かに頷いた。
「他にもある」
「他にもある!?」
アンはいつも、私のつまらない脳みそでは想像もつかない言動をする。アンは右側頭部の髪を片手で持ち上げ、少し屈んで見せた。そこには、金以外にも色が点在していた。
「この辺りに緑。この辺りには青」
「ほ、ほんとだ。そういえば少し前に、髪の色を一部染めるの流行ったね」
手紙でもちょくちょく、流行している事柄について触れてきた。一部編み込まれた三つ編みもその一環である。
「染めてない」
「染めてない!?」
アンはかなり特異な体質を持っているらしい。これは……本人が嫌でなければ、今度じっくり研究させてほしい。一体全体どんな不思議な体質なのだろう。
改めてまじまじとアンの髪を見つめる。色彩豊かで楽しい髪だ。
「他の色を教えてくれなかった理由は?」
「ミントの言葉で思い出した」
「成程」
アンは、嘘ではないけれど伝えてくれていない情報が多すぎる。つまり、内緒にしようとしていないのに、勝手に秘密が多い男になっている。
秘密の多い男は、女性からすれば特別感を擽られモテるという話を聞いたことがある。その観点からすれば、確かにアンはモテるだろう。
だがしかし、勝手に秘密が多い男になっている場合はどうしたらいいのだろう。アンはもう少し自分に興味を持ち、尚且つ自分の情報を覚えておいてくれると大変助かる。
もはや古代遺跡並みの謎を持つ男になってしまったではないか。
「ミントは、瞳と髪は、一色がいい?」
「二色以上の考慮をしてなくて比較したことないけど……多彩だとお得感あるし、豪華でいいね」
アンはどこかほっとした顔をしているように見えた。アンなりに、人とは違う体を持つ自分が他者からどう見られるか、思うところがあったのかもしれない。
「おい、ミント」
「はい?」
クレスは、あまり見たことのない表情をしていた。怒っているような困っているような、そんな顔だ。
そんな顔を、たくさん見てきた。大人の事情を、物心ついた子どもに伝えるべきか否かを迷っていたサシャや、多くの大人達からいくらでも。
「線引きをしすぎるお前が忘れるくらい気が合うのなら、放っておいてやりたいんだがな……」
言いにくいが伝えた方がいい事柄を抱えた大人が、こういう顔をするのだと学んだのは、物心つく前だったように思うほどに。
「そいつは既婚者だ。だから、距離感は間違えるな」
「……………………そう、ですね」
当たり前の注意を受けて、思わず赤面する。他の誰かならともかく、仲がよく尊敬する先輩に、不貞に走るような倫理観の持ち主だと思われる行動を取っていた自分が、純粋に恥ずかしかった。
私の困惑と赤面を見てとったクレスは、僅かに意外そうな顔をした後、少し考えた。
「………………そういえば、そいつはお前の父親の隊だったな」
「……えー、と…………はい、まあ、そう、なります、ね……えっと……です、ね」
「……成程な。いや、野暮を言ったかもしれん。許せ」
「すみません!」
事情は全く説明できないが、クレスが悪い所は一つもないことだけは確実だ。
ひらりと掌を振ったクレスが背を向けて去っていく。これは、私の認識が甘かった。アンとの関係を隠す努力だけでなく、他者がアンと私の関係を仮定した際に私に発生する感情に、全く思いが至っていなかった。
「仮眠済はこのまま対処開始。未仮眠勢は、仮眠開始」
ゼノンは、いつも通り簡潔明瞭な指示を出した。
細かく指示を出さずとも汲めるとした部下への信頼であり、言っても『出来ない・聞かない・ここにいない』になることが初めから分かっているので、各々得意分野において自己判断で行動せよという、別方向からの多大なる信用でもあった。
二課の隊長はゼノンをおいて他にいないし、二課は皆、こんな自分達をうまく回してくれる上に予算も分捕ってきてくれるゼノンへ心からの感謝と尊敬と信愛を抱いている。
だからといって自分達の行いを改善する努力をするかというと、別にそうでもないのが二課であった。
「さっきのあれ、培養された人間でしょうか」
「おそらくは、な。殿下から聞いてはいたが、思っていた以上の悍ましさに驚いた……」
取り急ぎ、声を潜めてゼノンへの報告は済ませておく。
「ミントは簡易説明後、仮眠を取った後であろうとなかろうと仮眠」
「え!?」
襲撃者と最も接近していたのは私だ。負傷と言っても大したことはなく、行動には一切支障のない範囲である。そう訴えるも、ゼノンの判断は覆らなかった。
「二課は戦闘慣れしていない上、被害を被った者は少なからず衝撃を受けるものだ。その場合、睡眠による休息が最も手っ取り早い。睡眠は最も効果的な回復方法であり、特効薬だ。そもそも被害者は、負傷の有無にかかわらず休むべきであり、休めない環境ならばそこ方面への対処も必要だ」
「それは分かっていますけど、そもそも眠れません」
確かに睡眠は心身にとって最高の治癒効果が見込まれるが、だからといって首に刃物を突き付けられた後にこの大爆発。寝ようと思っても眠れるわけがない。
寝台の中でもんもんと出来事を検証しているくらいなら、被害確認や襲撃者の報告書を書いていたほうが効率的である。
「……それもそうか」
ゼノンも納得してくれた。アンがどこか不満そうだが、眠れないものは仕様がないと思うのだ。
「取り急ぎは、侵入者が最古の魔石を探していたご報告ですね。でもこれ、本気で心当たりが……?」
「協力する」
ゼノンが得意とする魔術の一つに、他者の意識をすこんと落とす強制快適睡眠がある。基本的に、いつでもどこでも気持ちよく熟睡してしまう恐ろしい魔術だ。
ほんとに恐ろしい魔術であると。
自室にて、すっきり爽快ぐっすりぴかぴかの目覚めとなった私は、寝台で一人しみじみと頷いた。




