まだビーチチェアをもらっていない
アイリンが物語を公開し始めてから、三か月が経っていた。
そのころ、私には二つの重大な不満があった。
一つ目は、読者たちが物語の登場人物に自分を重ね始めたこと。つまり、私の職業的な評判が、どこかの家庭で少しずつ悪くなっている可能性がある。
二つ目は、アイリンが毎日欠かさず唱題を続けていることだった。
実際、唱題はすっかり彼女の日常の一部になっていて、私は最近、アイリンの頭の中で働く時間より、想像上のビーチで過ごす時間のほうが長くなりつつあった。
相変わらずビーチチェアは支給されていない。でも、日焼けだけは見事なものだった。
もちろん、そのビーチは私の想像の中にしかない。私は相変わらずアイリンの中にいて、彼女が仕事をしているときも、夕食を作っているときも、読者からのメッセージに返事をしているときも、ずっと一緒だった。
ただ、彼女が唱題を始めると、私の反論の声はだんだん遠くなり、代わりに波の音が聞こえてくるような気がするのだ。
非常に困る。
そんな環境では、まともに警戒態勢を維持できない。
しかも最近は、警戒すべきことが山ほどあった。
物語には定期的に読んでくれる人が増えていた。励ましのコメントを残す人もいれば、次の更新を楽しみにしている人もいる。そして、自分の人生と重なる場面について語り合う読者まで現れ始めていた。
ある読者など、自分の心の中にいる批判的な声を「私の小さなオスクリタ」と呼ぶようになったと書いていた。
私は即座に抗議した。
「ちょっと待って。それ、商標権の侵害じゃない?」
アイリンは笑った。
「名前の権利なんて持ってないでしょ」
「人格の権利なら持ってる」
「返事を書こうか?」
「もちろん。名前は責任を持って使うように伝えて」
アイリンは代わりにハートの絵文字を送った。
まったく、素人ばかりだ。
そんなある木曜日の午後、一通のメールが届いた。
アイリンはコーヒーを飲みながら開いた。私はまた読者からのメッセージだと思っていた。
ところが、違った。
送り主は、小さな出版社で編集者をしている女性だった。以前からアイリンの物語を読んでいて、完成した原稿があるかどうか知りたいという。
アイリンはコーヒーを飲む手を止めた。
私はメールを詳しく調べた。
「興味深いね」
アイリンはもう一度読んだ。
編集者は、物語の率直さや、自分を批判する心の声を描いている点を高く評価していた。そして、この作品は投稿サイトの外でも多くの読者に届く可能性があると考え、出版について話し合う意思があるか尋ねていた。
しばらくアイリンは動かなかった。
やがて、小さな声で言った。
「編集者だって……」
「本人がそう名乗っているだけだけどね」
アイリンが私を見た。
「どういうこと?」
「本当に存在する人か確認しないと。メールなんて誰でも送れるんだから」
「もちろん調べるよ」
「出版社もね。公式サイトはある? お金を要求してこない? 本当に本を出版した実績はある?」
アイリンは微笑んだ。
「それはもっともな質問ね」
私は感動のあまり倒れそうになった。
ついに、私の意見が認められた。
アイリンはそれから一時間ほど出版社について調べた。小さな会社ではあったが、実際に出版された本が何冊もあり、公式サイトもあり、会社について確認できる情報も見つかった。
そして、もう一度メールを開いた。
「原稿を全部読みたいんだって」
「うん、気づいてる。そこが一番怖いところよ」
「どうして?」
「気に入られるかもしれないでしょ」
アイリンは少し私を見つめ、それから笑い出した。
「私の本を気に入ってくれるのが怖いの?」
「当たり前でしょ! そのあとどうなるか考えた? インタビュー、写真撮影、私生活についての質問。そのうち誰かがテレビドラマにしたいなんて言い出すかもしれない」
アイリンは眉を上げた。
「テレビドラマ?」
「起こり得る災難を説明してるの。集中して」
アイリンはコーヒーカップを置いた。
「まだメールに返事もしてないんだけど」
「だから、まだ間に合うのよ」
ところがアイリンはパソコンを閉じず、返信を書き始めた。
関心を持ってくれたことへの感謝を伝え、原稿について話し合う意思があること、そして出版までの流れについて詳しく知りたいことを書いた。
丁寧で、落ち着いていて、まったくパニックになっていない。
私は、ワンピースが似合うかどうか決めるのに三日も悩んでいたころのアイリンが、少し懐かしくなってきた。
彼女は返信を一度読み直し、一か所だけ言葉を直して送信した。
それから椅子にもたれた。
「びっくりしたなあ」
「びっくり? 知らない人に物語を読ませる危険について、私は第一話から警告してたけど」
アイリンは笑った。
「そうだったね」
正しさを認められたのだから、満足するはずだった。
でも、そうではなかった。
問題そのものが変わってしまったからだ。
私は何年ものあいだ、人に自分を見せたら何が起こるかわからないとアイリンに警告してきた。
ところが今、誰かが彼女の作品に注目しても、アイリンは隠れなかった。
書いたことを謝りもしなかった。
自分には才能がないと言い訳することもなかった。
ただ、メールに返事をしたのだ。
私がその事実を受け止めようとしているあいだに、アイリンはスマートフォンを手に取り、アンドレアに電話をかけた。
「ねえ、ちょっと信じられないことがあったの!」
アンドレアの喜びの叫び声があまりに大きくて、アイリンは思わずスマートフォンを耳から離した。
もちろん、私にも聞こえた。
「素晴らしい。これで二人になった」
私はつぶやいた。
…
その夜、アイリンはパソコンの前に座り、完成した原稿を開いた。
最初のページを読み、それから最後までスクロールした。
私はその原稿を、アイリンと同じくらいよく知っていた。彼女の不安も、言い争いも、危険を避けさせることが彼女を守る方法だと信じて、私が何度も挑戦を止めようとしたことも。
そして今、見知らぬ誰かがそのすべてを読みたがっている。
私は尋ねた。
「送るつもり?」
「全部確認して、条件について話し合ってからね」
私は慎重に考えた。
「一つ、知っておいてほしいことがあるんだけど」
「なに?」
「もしテレビドラマになっても、私は邪悪な黒い雲として描かれるのを拒否するから」
アイリンは吹き出した。
「誰もテレビドラマの話なんてしてないでしょ!」
「まだね。条件は早めに決めておくべきなの」
アイリンは笑いながら首を振った。
それから原稿を閉じ、夕食の支度を始めた。
一方、私にはもっと重要な問題があった。
アイリンの物語が出版社の目に留まり始めたのなら、彼女の頭の中にいる影にも、まったく別の言い分があると世間が知ったらどうなるのだろう。
私はもう何週間も、自分の物語を書こうと考えていた。
始まりは決まっている。
でも、アイリンにどうやって書いてもらうかが問題だった。
残念ながら、私には手がない。
キーボードもない。
そして、いまだにビーチチェアすらない。
五十年近く人間一人を管理してきたわりに、私は驚くほど基本的な設備に恵まれていなかった。




