読者ができた
一週間後、アンドレアがコーヒーを飲みにやってきた。
テーブルにはアイリンのノートパソコンが開いたまま置かれていて、アンドレアはすぐに気づいた。
「仕事?」
「違う」
「韓国語?」
「それも違う」
アンドレアは怪しそうにアイリンを見た。
「じゃあ、土曜日にパソコン開いて何してるの?」
もっともな質問だった。
アイリンは少しためらってから答えた。
「ちょっと書いてるの」
私はすぐに警戒した。
アンドレアが尋ねる。
「何を?」
「まだ自分でもよくわからない」
素晴らしい答えだ。正確で、曖昧で、何より安全。
ところがアイリンは続けた。
「自分の人生について書いてる」
アンドレアが目を丸くした。
「人生?」
「その一部。最近になって気づいたこととか」
すでに私が許可した範囲を超えていたが、どうやら私の法律顧問としての立場には何の権限もないらしい。
そしてアンドレアは、私が絶対に許可していない質問をした。
「読んでもいい?」
絶対にだめ。
ところがアイリンは、真剣に検討する価値のある質問であるかのようにパソコンを見つめた。
「どうしようかな……」
いいぞ。プライバシーと尊厳について、じっくり考えるべきだ。ついでに、法律顧問がまだ一般公開を承認していないことも。
そしてアイリンは、パソコンをアンドレアのほうへ向けた。
裏切り者。
アンドレアが読み始めたので、私は監督するため近くにいた。
最初のうち、彼女の表情はほとんど変わらなかった。やがて何かを読んで笑った。
たぶん私の台詞だろう。
数分後、その笑顔が消えた。
アイリンが気づいた。
「重すぎる?」
「ううん」
「じゃあ、なに?」
「何でもない。最後まで読ませて」
私は即座にアンドレアへの評価を上げた。
やがて読み終えると、彼女は顔を上げた。
「続けて書いたほうがいい」
アイリンは眉を寄せた。
「それだけ?」
「何て言ってほしいの?」
「わからない。面白い? ちゃんと意味が通じる? 個人的すぎる?」
「うん」
「どれが?」
「全部」
アンドレアは笑ったあと、少し真剣な表情になった。
「アイリンとは長い付き合いだから、自分に厳しいことは知ってた。でも、ここまで厳しかったとは思ってなかった」
私はこの話の流れが気に入らなかった。
アイリンはコーヒーに目を落とした。
「私も気づいてなかった」
「だから、書き続けたほうがいい」
「自分にひどいことしてたから?」
「自分でそれに気づいてなかったから」
その言葉には、私もアイリンも黙った。
アンドレアはパソコンに軽く触れた。
「同じことをして、それを普通だと思ってる人って、どれくらいいると思う?」
アイリンはしばらく画面を見つめた。
私はもう、その表情を知っている。
何かが、彼女の中でつながった。
「本当に続けたほうがいいと思う?」
「うん」
私には異議がいくつもあった。アンドレアには出版経験がない。アイリンにもない。そしてこの計画全体に、専門家による適切な監督がまったく存在しない。
それを問題視しているのは、どうやら私だけだった。
…
アンドレアが帰ったあと、アイリンはまたパソコンの前に座った。
私はさっそく指摘した。
「アンドレアは編集者じゃないからね」
「私も編集者じゃないよ」
「だから心配なの」
アイリンは笑って、また文書を開いた。
でも、何かが変わっていた。
その日の午後までは、自分の人生を理解するために書いていた。でも今は、ほかの誰かがそれを読んで、そこに自分にもわかる何かを見つけた。
もしかすると、アイリンがずっと「自分だけの問題」だと思っていたものは、そうではないのかもしれない。
自分は十分ではないと思いながら、それを向上心と呼んでいる人。
疲れているのに、それを責任感だと思っている人。
自分に厳しくすることが、自分を強くすることだと思っている人。
もし、アンドレアにもわかったのなら――。
私は話の行き先に気づいた。
気に入らない。
アイリンがキーボードに手を置いたので、私はすぐに交渉を始めた。
「私の描かれ方について話し合おう」
「いや」
「反論する権利は?」
「ない」
「匿名で出版するとか?」
アイリンが私を見た。
「しない」
交渉材料がなくなってきた。
アイリンは笑って、また書き始めた。
私は何年ものあいだ、他人からどう思われるかをアイリンが気にするよう、かなり熱心に働いてきた。
それなのに今、彼女はその人たちに全部話そうとしている。
事態はかなり手に負えなくなってきた。
そしてどうやら――
私たちには、読者ができた。




