聞き覚えがありすぎる
水曜日の夜、長男から電話がかかってきた。
「元気?」
「元気よ」
「本当に?」
アイリンは笑った。
「本当に」
「大学が何日か休みなんだ」
「よかったじゃない。ゆっくり休みなさい」
「その休み、母さんのところで過ごそうかと思ってる」
アイリンは少し黙った。
「私のために来なくてもいいのよ」
「母さんのためじゃないよ」
「私のアパートに来るんでしょ?」
「うん。食べ物とWi-Fiがあるから」
認めざるを得ない。
ちゃんと反論まで準備していた。
アイリンが笑った。
「いつ来るの?」
「明日」
こうして、アイリンのアパートには数日間、住人が一人増えることになった。
金曜日になるころには、あるべきではない場所に靴が転がり、食べ物は恐ろしい勢いで消え、冷蔵庫は四十分おきに中身を確認しなければならない設備と化していた。
私は気に入った。
監視対象が増えたからだ。
その夜、二人で夕食を食べていると、息子が大学の話を始めた。教授の一人から、専攻に関係するあるプログラムに応募してみないかと勧められたらしい。
「いいじゃない。応募するの?」
アイリンが尋ねると、息子は肩をすくめた。
「わからない」
私はその声を知っていた。
残念ながら、アイリンも気づいたらしい。
「どうして?」
「もっと成績のいい人もいるし、経験のある人もいる。応募したって、たぶん選ばれないよ」
……ああ。
これは知っている。
アイリンはフォークを置いた。
「それで?」
息子が彼女を見た。
「それでって?」
「もっと成績のいい人がいるからって、挑戦しちゃいけない理由にはならないでしょ」
息子は皿に目を落とした。
「自分がそれにふさわしいほど優秀なのか、わからないんだ」
アイリンの動きが止まった。
私も止まった。
年齢は違う。
問題も違う。
でも、同じ言葉だった。
私は何年ものあいだ、アイリンから同じような言葉を聞いてきた。
そして厳密に言えば、その考え方に私も多少は貢献している。
アイリンが息子に尋ねた。
「挑戦する前に、自分が十分だって確信してなきゃいけないなんて、誰に言われたの?」
「誰にも」
「じゃあ、応募してみればいい」
「落ちたら?」
「そのときは、落ちたってことよ」
息子が笑った。
「すごく励まされるよ、母さん」
「本気で言ってるの。一つのプログラムに選ばれなかったからって、あなたの価値が決まるわけじゃない。ただ、そのプログラムに選ばれなかったっていうだけ」
私には異議があった。
いくつも。
ところが、それを整理しているうちに息子が笑った。
「いつからそんなに賢くなったの?」
アイリンも笑った。
「つい最近」
二人は笑った。
私は笑わなかった。
あることに気づいてしまったからだ。
アイリンは、息子が必ず成功するとは言わなかった。
誰より優れているとも言わなかった。
ただ、一度選ばれないかもしれないという可能性を、息子自身の価値を決める判決にはしなかった。
興味深い。
アイリンが息子と同じくらいの年齢だったころ、私はこういう状況にもっと違う方法で対処していた。
かなり徹底的に。
…
そのあと、息子はノートパソコンを持って客室へ引っ込んだ。
アイリンはソファに残った。
しばらくして、彼女が私に話しかけた。
「あなたも気づいたでしょ?」
「私は何でも聞いてるからね」
「あの子、私みたいだった」
否定しようかと思った。
でも、あまり意味はなさそうだった。
「ちょっとだけ」
「かなりでしょ」
……はいはい。
アイリンは息子が入っていった部屋のほうを見た。
「私、あの子には絶対、自分にしてきたような話し方はしない」
まあ、それはそうだ。
そんなことをしたら、かなりひどい子育てになる。
「自分が十分な人間だって証明しなきゃいけないと思いながら、あの子に二十年も過ごしてほしくない」
それは筋が通っていた。
腹立たしいほどに。
そしてアイリンが私に尋ねた。
「どうして、あの子のことならこんなに簡単にわかるんだろう?」
私は答えを知っていた。
アイリンが彼を愛しているからだ。
愛する人が不安になっているとき、アイリンが最初にすることは、もっと不安にさせて将来に備えさせることではない。
アイリンはしばらく黙っていた。
やがて、その表情が少し曇った。
「待って。それって……私、本当は自分のことを大切に思ってないってこと?」
……え。
その質問は想定していなかった。
私はすぐに答えた。
「そんなことないでしょ」
「じゃあ、どうして私は何十年も、自分に対して『まだ足りない』って言い続けてきたんだろう?」
私は使えそうな答えを探した。
「高い基準?」
「オスクリタ……」
「向上心?」
アイリンは首を振った。
「私、自分よりほかの人たちにずっと優しくしてきたんだね」
その結論は気に入らなかった。
私は弁明した。
「私はあなたを守ろうとしてたの」
「わかってる」
怒ってはいなかった。
そこが、かえって居心地が悪かった。
「でも、自分を大切にするって、自分にもっと求め続けることだけじゃなくて、自分にも優しくすることなんじゃないかな」
私には返事が用意できなかった。
そして珍しいことに、反論したいのかどうかさえわからなかった。
アイリンはもう少しだけ静かに座っていた。
それから立ち上がり、パソコンを開いた。
私は警戒した。
「何してるの?」
「ちょっと書いておこうと思って」
まずい。
あの文書だ。
アイリンはファイルを開き、こう打った。
私は、愛する人に、自分自身にしてきたような話し方は絶対にしない。
しばらくその一文を見つめたあと、もう一つ書き加えた。
いつから私は、自分に厳しくすることが、自分を大切にすることと同じだと思うようになったんだろう?
私はその問いを二度読んだ。
これはずいぶん個人的な話になってきた。
「その質問をこんなに集めて、いったい何をするつもり?」
アイリンは画面を見つめた。
「書くの」
それは新しかった。
「何を?」
ここ数週間で少しずつ書きためてきたものを、アイリンは眺めた。
「どうして今の私になったのか、ちゃんと理解したい」
私は即座に、この計画にいくつもの問題を発見した。
その大半が、私に関係していた。
そのとき客室から息子の声がした。
「母さん?」
「なに?」
「Wi-Fiのパスワード、なんだっけ?」
アイリンはため息をついて立ち上がった。
私はその中断を歓迎した。
残念ながら、パソコンの文書は開いたままだった。
そして私は、自分までその中に登場することになるのではないかという、非常に嫌な予感がしていた。




