↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/79

私が正しかったことは記録に残しておきたい

自分が正しかったとわかることほど、気持ちのいいものはそう多くない。

私は大好きだ。

人を見る目。メール。間違った判断。

それから靴。

特に靴。

でも残念ながら、正しかったことが最悪に感じられる瞬間もある。

そんなこと、誰も教えてくれない。

…

最初は、ただの疲れだった。

それなら説明がついた。

アイリンは以前より仕事が増え、新しいプロジェクトも抱えていた。そのうえ、私としてはいまだに少々疑問なのだが、週に二回、韓国語まで勉強している。

疲れて当然だった。

ところが、そのうち私は小さなことに気づき始めた。

ある午後、右脚が妙に重くなった。

翌朝には何ともなかった。

数日後、今度は手がしびれた。

「頸椎のせいよ」

アイリンが言った。

「かもね」

彼女が私を見る。

「同意してるの?」

「違う。『かもね』って言っただけ」

「最近、ずいぶん冷静になったわね」

「ご希望ならパニックもできますけど」

「結構です」

「フルサービスは今でも提供中よ」

アイリンは笑った。

しびれは消えた。

だから、私たちはそのまま日常に戻った。

消えてしまう症状の困ったところは、そこだ。

なかったことにしていい理由を、人間に与えてしまう。

…

火曜日の夜、アイリンはダイニングテーブルで韓国語のオンライン授業を受けていた。

先生が言った言葉を繰り返す。

一度。

そして、もう一度。

「違う」

アイリンが眉をひそめた。

「何が?」

「その発音」

「あなた、韓国語話せないでしょ」

「あなたもね」

「私は勉強してるの」

「私も」

彼女が私を見た。

「いつから?」

「あなたが無責任にも、私たちの人生に新しい言語を追加したときから」

アイリンは笑った。

私は何の資格もない発音指導を続けようとした。

そのとき、アイリンが動きを止め、右手を二度、開いたり閉じたりした。

「何?」

「何でもない」

また、その言葉だ。

――何でもない。

人類が最も愛用している医学的診断。

「手がしびれてるだけ」

「また?」

「一日中タイプしてたから」

アイリンは肩を回し、ゆっくり首を動かした。

「頸椎よ」

かもしれない。

今度は反論しなかった。

ただ、覚えておいた。

…

翌日、ルーシーがノートパソコンを持ってアイリンのオフィスにやってきた。

「この人の翻訳、意味が通じてないって本人に言う前に、あなたの意見が欲しくて」

「珍しく外交的ね」

「私も成長してるの」

二人で文章を確認していると、ルーシーが画面を指した。

「ここ」

「わかった」

アイリンがマウスに手を伸ばした。

そして、外した。

手はマウスの横に落ちた。

二人とも、その手を見た。

アイリンは眉をひそめ、もう一度手を伸ばした。

ルーシーが彼女を見る。

「大丈夫?」

「うん。最近ちょっと手の調子がおかしいだけ」

「一度、診てもらったほうがいいんじゃない?」

「たぶん首のせいよ」

ルーシーは納得していなかった。

私もだ。

数分後、アイリンはファイルを取ろうと立ち上がった。

右脚から力が抜けた。

完全にではない。

でも、十分だった。

アイリンは机に手をついて体を支えた。

ルーシーがすぐに立ち上がる。

「アイリン?」

「大丈夫」

「大丈夫じゃないでしょ」

アイリンは椅子に座り直し、右の太ももをさすった。

「たぶん頸椎よ」

ルーシーが眉をひそめる。

「手のこともそう言ってたよね」

「うん」

「今度は脚?」

アイリンは答えなかった。

ルーシーはノートパソコンを手に取ったが、すぐには出ていかなかった。

「ちゃんと診てもらうって約束して」

「わかった」

ルーシーはアイリンをじっと見た。

アイリンの「わかった」が、「今日中に」という意味にも、「人類が滅亡するまでのいつか」という意味にもなり得ることを知っている人の目だった。

「本当にね」

「わかってる」

ようやくルーシーが出ていった。

ドアが閉まる。

アイリンは自分の右脚を見下ろした。

「本当に頸椎かもしれない」

小さな声で言った。

「かもね」

彼女が私を見る。

「同意してるの?」

「違う。『かもしれない』って言ってるだけ」

少し待ってから、私は続けた。

「でも、別の何かかもしれない」

アイリンの表情が変わった。

そこに現れた。

恐怖。

小さくて、突然で、見慣れたもの。

恐怖をどう育てればいいかなら、私は誰よりも知っている。

十秒もあれば、「もしかしたら」を神経系の病気に変えられる。

病室にも。

花のセンスが最悪な葬式にだってできる。

でも、私はしなかった。

「病院に電話して」

アイリンが私を見る。

「それだけ?」

「ほかに何が欲しいの? 神経変性疾患の一覧?」

「いらない」

「よかった。私、素人診断は引退したから」

アイリンが少し笑いそうになった。

ほんの少し。

それから電話を見た。

「家に帰ったら電話する」

「ダメ」

「オスクリータ――」

「ルーシーは診てもらえって言った。私も電話しろって言ってる。二対一よ」

アイリンが片方の眉を上げた。

「ルーシーはあなたがいることすら知らないけど」

「細かいことはいいの。それでも二対一」

今度は、本当に笑った。

そしてスマホを手に取った。

…

受付の人がいくつか質問をした。

アイリンは、しびれと疲労感、それから右脚の妙な重さについて説明した。

もちろん、頸椎の問題についても話した。

診察は三日後に決まった。

電話を切っても、アイリンはしばらく動かなかった。

「ほら」

「よし」

「満足?」

「してない」

彼女が私を見る。

驚いた顔だった。

私自身もちょっと驚いた。

「イヤリングのことで私が正しいのは好きよ。信用しちゃいけない人とか、問題のある靴とか」

「私の靴は問題ない」

「あれは犯罪よ」

「オスクリータ」

「はいはい」

私は黙った。

自分が正しければ、勝った気分になるはずだった。

でも今回は、

全然うれしくなかった。

アイリンは自分の手を見つめた。

「怖い」

「私も」

彼女が顔を上げた。

「全部大丈夫だって言ってくれないの?」

「言わない」

「全然慰めになってないんだけど」

「希望なら嘘つくけど」

アイリンが少し笑った。

「いらない」

「よかった」

診察まで、あと三日。

私は待つのが嫌いだ。

アイリンも同じだった。

でも今度は、わからないことを勝手な答えで埋めるのはやめた。

まず、確かめる。

そして、本当にそこにあるものが何なのかわかったら――

そのとき二人で向き合えばいい。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。