↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/78

女性が何人もいるの?

木曜日になる頃には、アイリーンは会社に戻るという決断が、かなり正しかったと思い始めていた。

また生活にリズムができた。仕事について質問しに来る人がいて、ルーシーはアイリーンが一人で昼食を取ることを許さなくなり、ほとんどの夜、アイリーンは疲れて帰宅した。

疲れたと文句を言いながら、妙に満足そうな顔をしている。

私は騙されなかった。

そんなとき、アンドレアがランチに誘ってきた。

食事の途中で、アンドレアがフォークを置き、アイリーンを見た。

あの顔。

アイリーンもすぐに気づいた。

「何?」

「何でもない。」

「アンドレア。」

「話したほうがいいか、ちょっと迷ってることがあるの。」

アイリーンの手が止まった。

「そういう言い方って、全然安心できないんだけど。」

「分かってる。」

「いいから言って。」

アンドレアは少しためらった。

「ディランのことなの。」

あら。

それなら話は別だ。

私も聞く。

アイリーンの表情がわずかに変わった。

「何かあったの?」

「何かあったってわけじゃない。」

「じゃあ、なんでそんな顔してるの?」

「そんな顔してないわよ。」

「してる。」

アンドレアはため息をついた。

「分かった。ちょっと耳に入ったことがあって。ほかの誰かから偶然聞くより、私から聞いたほうがいいと思ったの。」

アイリーンは黙って待った。

私も待った。

「ディランが最近……人気なの。」

アイリーンが眉をひそめる。

「人気?」

「女性に。」

あら。

アンドレアは笑いをこらえていた。

「かなり人気。」

アイリーンは彼女を見つめた。

「具体的にどういう意味?」

「独身で、見た目も悪くなくて、いい人でしょう? それに何人もの女性が同時に気づいたってこと。」

何人も?

ちょっと待って。

一人だって余計なのに。

何人もなんて、多すぎるでしょう。

「どうしてそんなこと知ってるの?」

「人の噂。」

「誰の?」

「明らかに私たちより暇な人たち。」

アイリーンは思わず笑った。

「誰かと付き合ってるの?」

「たぶん、まだ。」

「たぶん?」

「アイリーン、私だってディランを尾行してるわけじゃないのよ。」

「この話を持ち出したのはあなたでしょう。」

「それはそうね。」

アンドレアは水を一口飲んだ。

「私が聞いたのは、彼に興味を持ってる女性がいるってこと。それだけ。」

アイリーンはうなずき、また食事を始めた。

ずいぶん落ち着いて。

落ち着きすぎている。

私は待った。

何もない。

アンドレアも少し待ってから聞いた。

「大丈夫?」

「うん。」

アンドレアが眉を上げる。

アイリーンはため息をついた。

「……分からない。」

よし。

そのほうがまだ納得できる。

「いつかこうなる可能性はあるって分かってた。ただ、こんなに早く聞くことになるとは思わなかった。」

「それは分かる。」

アイリーンは皿の上のトマトをフォークで動かした。

「気になるって、私ひどい人かな?」

「いいえ。」

「でも、出ていったのは私よ。」

「そうね。」

「戻りたいわけでもない。」

「知ってる。」

「ここを出たことを後悔してるわけでもない。」

「それも知ってる。」

アイリーンはアンドレアを見た。

「じゃあ、どうしてほかの女性のことを考えると嫌なの?」

アンドレアは肩をすくめた。

「二十五年間、夫婦だったからじゃない?」

単純。

腹が立つほど単純だった。

アイリーンは皿に視線を落とした。

「私には嫌がる権利なんてない気がする。」

「感情を持つのに、誰かの許可が必要なの?」

「私が彼のもとを離れたのよ、アンドレア。」

「それで?」

「ディランには、誰かと出会う権利があるでしょう?」

「もちろん。」

アンドレアは椅子にもたれた。

「だからって、その話を聞いて喜ばなきゃいけないわけじゃないでしょう。」

私はアンドレアが好きだ。

前からそう言っていた。

……たぶん。

アイリーンが少し笑った。

「じゃあ、私はどうすればいいの?」

「何もしなくていい。」

「何もしない?」

「感じるものはそのまま感じて、ランチを食べ終える。」

アイリーンが笑った。

「それがアドバイス?」

「そう。それと、お腹が空いてるときに難しい質問をしないで。」

なるほど。

それは筋が通っている。

私でさえ、そう思った。

◇ ◇ ◇

その日の夜、ディランから電話がかかってきた。

アイリーンが仕事の書類を整理していると、スマートフォンの画面に彼の名前が表示された。

彼女は画面を見つめた。

ほんの一秒。

でも私は見逃さなかった。

「やめて。」

「まだ何も言ってない。」

「言おうとしてたでしょう。」

……まあね。

アイリーンは電話に出た。

「もしもし。」

『やあ。今、大丈夫?』

「うん。どうしたの?」

電話は次男のことだった。

週末の予定が少し変わったので、それをアイリーンに知らせておきたかったらしい。そのあと長男が必要としているものや、まだ家に残っているアイリーンの荷物について少し話した。

普通の話。

腹が立つほど普通の話。

やがてディランが聞いた。

『会社はどう?』

「順調よ。戻ってよかった。」

『そうなると思ってた。』

アイリーンが笑った。

「会社にいるのがこんなに恋しかったなんて、忘れてた。」

二人はもう少し話した。

それからアイリーンが尋ねた。

「あなたは? 元気?」

『元気だよ。』

私は即座に疑った。

アイリーンは疑わなかった。

あるいは、疑っていないふりをした。

「よかった。」

二人は別れを告げ、電話を切った。

アイリーンはスマートフォンを置いた。

私はスマートフォンを見る。

それからアイリーンを見た。

「聞いて。」

「聞かない。」

「知りたいでしょう?」

「知りたいからって、聞かなきゃいけないわけじゃない。」

「さりげなく聞けばいいじゃない。」

アイリーンが私を見る。

「あなた、さりげなくなんてできないでしょう。」

それは必要以上に個人的な攻撃だった。

「できるわよ。」

「できない。」

「じゃあ、直接聞けばいい。」

「何も聞かない。」

私はキッチンへ向かう彼女についていった。

「少なくとも、誰かと付き合ってるかどうかくらい聞いてもいいでしょう?」

「なんで?」

私はアイリーンを見つめた。

「本当に説明が必要?」

彼女は冷蔵庫を開けた。

「ディランは独身なのよ、オスクリータ。」

「知ってる。」

「だったら、誰かと出会ってもいいでしょう。」

私はその「いいでしょう」が気に入らなかった。

この状況には、あまりにも理性的すぎる。

アイリーンは野菜を取り出して、カウンターに置いた。

「気にならないの?」と私は聞いた。

彼女の手が一瞬止まった。

「気になる。」

やっと。

「かなり?」

アイリーンが私を見る。

「十分に。」

「それでも、もっと知りたいと思わないの?」

アイリーンはすぐには答えなかった。

スマートフォンはまだカウンターの上にあった。

最近の通話履歴の一番上には、ディランの名前。

彼女はしばらくそれを見た。

私は待った。

電話をかけ直せばいいだけ。

何気ない質問を一つ。

場合によっては、何気ない質問をいくつか。

アイリーンはスマートフォンを手に取った。

そう。

でも画面を消し、伏せて置いた。

「聞かない。」

私は眉をひそめた。

「それで終わり?」

「今夜はね。」

「でも――」

「オスクリータ。」

その言い方は知っている。

はいはい。

アイリーンは夕食の準備に戻った。

私は近くにいながら、この新しくて、正直かなり面倒な情報との付き合い方を理解しようとしていた。

傷つく可能性があることなら、全部知っておくほうが賢いに決まっている。

そうじゃなきゃ、どうやって備えるの?

でも、アイリーンはそう思っていないらしい。

彼女は夕食をテーブルへ運び、座った。

まるでディランがたった今、何人もの女性がどこかで彼を狙っているらしい状況の中で、平然と「元気だよ」なんて言ったことなど何でもないみたいに。

私は黙っていた。

アイリーンに賛成したからじゃない。

ただ――

この「何人もの女性」をどう扱えばいいのか、まだ決められなかっただけだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。