女性が何人もいるの?
木曜日になる頃には、アイリーンは会社に戻るという決断が、かなり正しかったと思い始めていた。
また生活にリズムができた。仕事について質問しに来る人がいて、ルーシーはアイリーンが一人で昼食を取ることを許さなくなり、ほとんどの夜、アイリーンは疲れて帰宅した。
疲れたと文句を言いながら、妙に満足そうな顔をしている。
私は騙されなかった。
そんなとき、アンドレアがランチに誘ってきた。
食事の途中で、アンドレアがフォークを置き、アイリーンを見た。
あの顔。
アイリーンもすぐに気づいた。
「何?」
「何でもない。」
「アンドレア。」
「話したほうがいいか、ちょっと迷ってることがあるの。」
アイリーンの手が止まった。
「そういう言い方って、全然安心できないんだけど。」
「分かってる。」
「いいから言って。」
アンドレアは少しためらった。
「ディランのことなの。」
あら。
それなら話は別だ。
私も聞く。
アイリーンの表情がわずかに変わった。
「何かあったの?」
「何かあったってわけじゃない。」
「じゃあ、なんでそんな顔してるの?」
「そんな顔してないわよ。」
「してる。」
アンドレアはため息をついた。
「分かった。ちょっと耳に入ったことがあって。ほかの誰かから偶然聞くより、私から聞いたほうがいいと思ったの。」
アイリーンは黙って待った。
私も待った。
「ディランが最近……人気なの。」
アイリーンが眉をひそめる。
「人気?」
「女性に。」
あら。
アンドレアは笑いをこらえていた。
「かなり人気。」
アイリーンは彼女を見つめた。
「具体的にどういう意味?」
「独身で、見た目も悪くなくて、いい人でしょう? それに何人もの女性が同時に気づいたってこと。」
何人も?
ちょっと待って。
一人だって余計なのに。
何人もなんて、多すぎるでしょう。
「どうしてそんなこと知ってるの?」
「人の噂。」
「誰の?」
「明らかに私たちより暇な人たち。」
アイリーンは思わず笑った。
「誰かと付き合ってるの?」
「たぶん、まだ。」
「たぶん?」
「アイリーン、私だってディランを尾行してるわけじゃないのよ。」
「この話を持ち出したのはあなたでしょう。」
「それはそうね。」
アンドレアは水を一口飲んだ。
「私が聞いたのは、彼に興味を持ってる女性がいるってこと。それだけ。」
アイリーンはうなずき、また食事を始めた。
ずいぶん落ち着いて。
落ち着きすぎている。
私は待った。
何もない。
アンドレアも少し待ってから聞いた。
「大丈夫?」
「うん。」
アンドレアが眉を上げる。
アイリーンはため息をついた。
「……分からない。」
よし。
そのほうがまだ納得できる。
「いつかこうなる可能性はあるって分かってた。ただ、こんなに早く聞くことになるとは思わなかった。」
「それは分かる。」
アイリーンは皿の上のトマトをフォークで動かした。
「気になるって、私ひどい人かな?」
「いいえ。」
「でも、出ていったのは私よ。」
「そうね。」
「戻りたいわけでもない。」
「知ってる。」
「ここを出たことを後悔してるわけでもない。」
「それも知ってる。」
アイリーンはアンドレアを見た。
「じゃあ、どうしてほかの女性のことを考えると嫌なの?」
アンドレアは肩をすくめた。
「二十五年間、夫婦だったからじゃない?」
単純。
腹が立つほど単純だった。
アイリーンは皿に視線を落とした。
「私には嫌がる権利なんてない気がする。」
「感情を持つのに、誰かの許可が必要なの?」
「私が彼のもとを離れたのよ、アンドレア。」
「それで?」
「ディランには、誰かと出会う権利があるでしょう?」
「もちろん。」
アンドレアは椅子にもたれた。
「だからって、その話を聞いて喜ばなきゃいけないわけじゃないでしょう。」
私はアンドレアが好きだ。
前からそう言っていた。
……たぶん。
アイリーンが少し笑った。
「じゃあ、私はどうすればいいの?」
「何もしなくていい。」
「何もしない?」
「感じるものはそのまま感じて、ランチを食べ終える。」
アイリーンが笑った。
「それがアドバイス?」
「そう。それと、お腹が空いてるときに難しい質問をしないで。」
なるほど。
それは筋が通っている。
私でさえ、そう思った。
◇ ◇ ◇
その日の夜、ディランから電話がかかってきた。
アイリーンが仕事の書類を整理していると、スマートフォンの画面に彼の名前が表示された。
彼女は画面を見つめた。
ほんの一秒。
でも私は見逃さなかった。
「やめて。」
「まだ何も言ってない。」
「言おうとしてたでしょう。」
……まあね。
アイリーンは電話に出た。
「もしもし。」
『やあ。今、大丈夫?』
「うん。どうしたの?」
電話は次男のことだった。
週末の予定が少し変わったので、それをアイリーンに知らせておきたかったらしい。そのあと長男が必要としているものや、まだ家に残っているアイリーンの荷物について少し話した。
普通の話。
腹が立つほど普通の話。
やがてディランが聞いた。
『会社はどう?』
「順調よ。戻ってよかった。」
『そうなると思ってた。』
アイリーンが笑った。
「会社にいるのがこんなに恋しかったなんて、忘れてた。」
二人はもう少し話した。
それからアイリーンが尋ねた。
「あなたは? 元気?」
『元気だよ。』
私は即座に疑った。
アイリーンは疑わなかった。
あるいは、疑っていないふりをした。
「よかった。」
二人は別れを告げ、電話を切った。
アイリーンはスマートフォンを置いた。
私はスマートフォンを見る。
それからアイリーンを見た。
「聞いて。」
「聞かない。」
「知りたいでしょう?」
「知りたいからって、聞かなきゃいけないわけじゃない。」
「さりげなく聞けばいいじゃない。」
アイリーンが私を見る。
「あなた、さりげなくなんてできないでしょう。」
それは必要以上に個人的な攻撃だった。
「できるわよ。」
「できない。」
「じゃあ、直接聞けばいい。」
「何も聞かない。」
私はキッチンへ向かう彼女についていった。
「少なくとも、誰かと付き合ってるかどうかくらい聞いてもいいでしょう?」
「なんで?」
私はアイリーンを見つめた。
「本当に説明が必要?」
彼女は冷蔵庫を開けた。
「ディランは独身なのよ、オスクリータ。」
「知ってる。」
「だったら、誰かと出会ってもいいでしょう。」
私はその「いいでしょう」が気に入らなかった。
この状況には、あまりにも理性的すぎる。
アイリーンは野菜を取り出して、カウンターに置いた。
「気にならないの?」と私は聞いた。
彼女の手が一瞬止まった。
「気になる。」
やっと。
「かなり?」
アイリーンが私を見る。
「十分に。」
「それでも、もっと知りたいと思わないの?」
アイリーンはすぐには答えなかった。
スマートフォンはまだカウンターの上にあった。
最近の通話履歴の一番上には、ディランの名前。
彼女はしばらくそれを見た。
私は待った。
電話をかけ直せばいいだけ。
何気ない質問を一つ。
場合によっては、何気ない質問をいくつか。
アイリーンはスマートフォンを手に取った。
そう。
でも画面を消し、伏せて置いた。
「聞かない。」
私は眉をひそめた。
「それで終わり?」
「今夜はね。」
「でも――」
「オスクリータ。」
その言い方は知っている。
はいはい。
アイリーンは夕食の準備に戻った。
私は近くにいながら、この新しくて、正直かなり面倒な情報との付き合い方を理解しようとしていた。
傷つく可能性があることなら、全部知っておくほうが賢いに決まっている。
そうじゃなきゃ、どうやって備えるの?
でも、アイリーンはそう思っていないらしい。
彼女は夕食をテーブルへ運び、座った。
まるでディランがたった今、何人もの女性がどこかで彼を狙っているらしい状況の中で、平然と「元気だよ」なんて言ったことなど何でもないみたいに。
私は黙っていた。
アイリーンに賛成したからじゃない。
ただ――
この「何人もの女性」をどう扱えばいいのか、まだ決められなかっただけだ。




