とんでもない紅茶を買ってしまった
アイリーンが一人で迎えた最初の朝は、長男からのメッセージで始まった。
まだベッドにいるうちに、スマートフォンの画面が光った。
生きてる?
アイリーンは笑ってから返信した。
残念ながら、あなたの遺産相続はまだ先よ。
すぐに返事が来た。
よかった。何か必要だったら電話して。
「優しいじゃない。」
「心配してるのよ。」
「あなたに似たのね。」
「私、そんなに心配性じゃないわよ。」
そこは議論するだけ時間の無駄なので、黙っておいた。
シャワーを浴びてコーヒーを淹れた頃、今度はアンドレアから電話がかかってきた。
『最初の夜はどうだった?』
「眠れたわ。」
『そういうことを聞いてるんじゃないの。』
「一番大事なところには答えてるでしょう?」
もちろん、アンドレアがそれで引き下がるはずもない。
『泣いた?』
アイリーンは危うくコーヒーを吹き出しそうになった。
「アンドレア!」
『何よ? 普通に気になるでしょう。』
「泣いてない。」
『本当に?』
「本当に。」
少し間があった。
『それで、今どんな気分?』
アイリーンは部屋を見回した。
まだ開けていない箱はいくつか残っていたけれど、朝の光がリビングに差し込み、昨夜よりも少しだけ、この場所を知らない家のように感じさせなくなっていた。
「変な感じ。」
『嫌な感じ?』
アイリーンは少し考えた。
「ううん。ただ……変な感じ。」
『それでいいのよ。』
アイリーンが笑う。
「許可してくれてありがとう。」
『どういたしまして。何かあったら電話して。』
「するわ。」
『しないでしょうけど。まあ、あとでこっちから連絡する。』
「自分の人生を生きなさいよ。」
『生きてるわよ。残念ながら、あなたもその一部なの。』
アイリーンが笑った。
「私も愛してる。」
電話を切ると、彼女はスマートフォンをカウンターに置いた。
「一人暮らしって感じがしないわね。」
「一人ではいるけど、誰にも見捨てられてないもの。」
それを言われると、私は黙るしかなかった。
一人でいることと、独りぼっちでいること。
その二つは違う。
かなり大事な違いだった。
アイリーンはコーヒーを飲み終え、冷蔵庫を開けた。
中にはほとんど何もない。
「問題発生。」
「分かってる。」
彼女は前の晩に作った買い物リストを手に取った。
「買い物に行かないと。」
「今度はちゃんと食べ物を買ってきてね。」
アイリーンは目を転がし、鍵を取りに行った。
…
一人分の買い物は、思っていたより早く終わった。
小さな牛乳、米、ヨーグルト、果物、野菜、それに数回分の鶏肉。
長年押してきた買い物カートと比べると、ずいぶん寂しく見えたけれど、アイリーンはそれほど気に留めなかった。
紅茶の売り場に着くまでは。
そこで足を止めた。
何年もの間、彼女は同じ紅茶を買っていた。
ディランが好きだった。
アイリーンも嫌いではなかった。
それだけで、ずっと十分だった。
でも今日は、ほかの箱を眺め始めた。
そして紫色の箱を一つ手に取った。
ラベンダー。
私はすぐに警戒した。
「それ、好きかどうか知らないでしょう?」
「知らない。」
「それでも買うの?」
アイリーンは箱を裏返して説明を読んだ。
「試してみたいの。」
「それが理由?」
「そう。」
私は紫色の箱を見た。
「ずいぶん冒険するようになったわね。」
「紅茶よ、オスクリータ。」
「そういう小さなところから始まるのよ。」
アイリーンは笑いながら、箱をカートに入れた。
野菜とヨーグルトの間に消えていく紫色の箱を見つめた。
たったそれだけのことだった。
なのに、どうして少し気になったのか。
そのときの私には、まだ分からなかった。
…
部屋に戻ると、アイリーンは買ってきたものを片づけ、そのまま昼食の準備を始めた。
冷蔵庫から鶏むね肉を二枚取り出し、味付けをしてコンロの横に置く。
それから大きなフライパンに手を伸ばして――
止まった。
しばらく二枚の鶏肉を見ている。
「何?」
アイリーンは一枚を手に取り、冷蔵庫へ戻した。
「まだディランの分まで作ってる。」
私は閉じた冷蔵庫を見た。
「ディランは来ないわよ。」
「分かってる。」
それだけだった。
泣かなかった。
長い話もしなかった。
大きなフライパンを小さなものに替え、そのまま昼食を作り始めた。
鶏肉が一枚になった。
ただ、それだけ。
私はフライパンを見た。
「さっきのほうが好きだった。」
「大きすぎるもの。」
「結婚生活だって大きすぎたけど、二十五年も続けたじゃない。」
アイリーンがゆっくり私を見る。
……まずい。
「早すぎた?」
「かなりね。」
「了解。」
アイリーンは首を振って料理に戻った。
でも、笑いをこらえているのは見えた。
勝ちは勝ちだ。
どんなに小さくても。
昼食は悪くなかった。
鶏肉はおいしかった。
ご飯は少し塩が足りなかった。
アイリーンは窓のそばの小さなテーブルで食べた。
皿が一枚。
グラスが一つ。
テレビもつけなかった。
誰もキッチンに入ってきて「何作ったの?」とは聞かない。
あとで食べるから残しておいて、と頼む人もいない。
アイリーンはただ食べた。
食べ終わると皿とグラスを洗い、また荷ほどきに戻った。
私は何も言わなかった。
何にでも私の意見が必要なわけじゃない。
誰かさんがどう思っているかは知らないけど。
…
夕方になって、アイリーンはスーパーで買ったものを片づけながら、ラベンダーの紅茶を見つけた。
「あ。」
私は箱を見た。
「やめなさい。」
アイリーンが笑う。
「まだ飲んでもいないでしょう?」
「もう十分見た。」
彼女はお湯を沸かした。
箱を開けた瞬間、眉をひそめる。
「香り、強いわね。」
「あなたが選んだのよ。」
「分かってる。」
それでも一杯淹れて、リビングへ持っていった。
私は待った。
アイリーンが一口飲む。
顔が変わった。
私は笑った。
「嫌いね。」
「嫌いじゃない。」
「もう一口飲んでみて。」
アイリーンは私を見てから、もう一口飲んだ。
さらにひどい顔になった。
「……分かった。嫌い。」
「ほらね。」
「おめでとう。」
「ありがとう。とても光栄だわ。」
アイリーンは笑いながら、キッチンのカウンターに置かれた箱を見た。
ティーバッグが二十個。
一度の余計な冒険から生まれた、二十回分の後悔。
「残り、どうするつもり?」
「取っておく。」
「なんで?」
「アンドレアか息子たちが気に入るかもしれないでしょう?」
もちろん。
自分のために何かを選ぶ練習をしている最中でも、誰かのための場所を残すことだけはやめられない。
不思議と、それは嫌じゃなかった。
するとアイリーンは、もう一度戸棚を開けて箱を見た。
「来週は別のを試してみようかな。」
私は眉をひそめた。
「また紅茶?」
「うん。」
「それも嫌いだったら?」
アイリーンは肩をすくめた。
「じゃあ、また別のを試す。」
私は何も言わなかった。
以前のアイリーンなら、お金を払って買ったというだけで、残りの十九個も全部飲んでいただろう。
そして毎回、文句を言ったはずだ。
誰かに強制されたからじゃない。
買ったものを無駄にすることは、自分の選択が間違っていたと認めることになる。
アイリーンは、自分の間違いにあまり優しくない人だった。
でも今夜は違った。
自分で選んだ。
飲んだ。
嫌いだと分かった。
そして紅茶をシンクに流した。
それだけだった。
罪悪感もない。
自分への罰もない。
ラベンダーは本当はそんなにまずくない、と無理に自分を説得することもなかった。
「静かね。」
アイリーンが言った。
「ちょっと理解しようとしてるの。」
「心配したほうがいい?」
「少し待って。」
アイリーンは笑い、キッチンの灯りを消した。
私は彼女と一緒にリビングへ向かった。
ただの紅茶だった。
紫色の箱に入った、とんでもなくまずい紅茶。
でもアイリーンは、自分が試してみたかったから選んだ。
そして選択を間違えた。
それなのに――
何も起こらなかった。
世界は終わらなかった。
誰も彼女に失望しなかった。
何より、アイリーン自身が自分に失望していなかった。
いつから「間違った選択をすること」が前進になったのか、私にはよく分からない。
でも、そういうことらしい。
新しい生活の最初の一日で――
私たちはもう、とんでもない紅茶を買ってしまった。




