私まで引っ越すなんて聞いてない
引っ越しの日は、私が望んでいたよりずっと早くやって来た。
アイリーンは契約を済ませ、必要なものを箱に詰め、あの言うことを聞かない戸棚のある部屋は、もう「候補」ではなくなっていた。
あそこが、彼女の新しい家になった。
私はまだ、その事実を受け入れている途中だった。
アンドレアは朝早くからやって来た。
まあ、それ自体は誰も驚かない。
箱には部屋ごとのラベルが貼られ、中には「最初に開けるもの」まで書かれている。
私は箱を眺めた。
「この人、ちょっと怖い。」
アイリーンが笑う。
「手伝ってくれてるのよ。」
「両方同時に成立するわ。」
アンドレアはコーヒーとサンドイッチの袋を抱えて入ってきた。
「朝ごはん持ってきたわよ。」
アイリーンが笑う。
「やっぱり。」
「『もう食べた』って言う前に言っておくけど、食べてないの知ってるから。」
アイリーンはコーヒーを受け取った。
「そんなこと言おうとしてないわよ。」
「思ってたでしょ。」
私は歩いていくアンドレアを見送った。
私の声なんて聞こえないくせに、私の仕事を先にやってしまうのは、だんだん腹が立ってきた。
…
少し遅れて、息子たちも箱を抱えてやって来た。
その後ろから、ディランが工具箱を持って入ってくる。
私は工具箱を見た。
……もちろん持ってくるわよね。
妻が自分との家を出る引っ越しを手伝う日だというのに、この部屋のどこかに緩んだネジが一本でもあれば、ディランはきっと放っておけない。
それからの数時間は、思ったより早く過ぎた。
みんなで箱を運び、家具を組み立て、本棚が傾いているかどうかで揉めた。
「傾いてるって。」
次男が言うと、長男は首を振った。
「傾いてない。」
「絶対に傾いてる。」
ディランが少し離れて本棚を確認する。
「まっすぐだ。」
次男は三人を順番に見た。
「こんなに基準の低い人たちに囲まれてるなんて。」
アイリーンが笑った。
ディランも笑った。
私は笑わなかった。
本棚は傾いていた。
ほんの少しだけ。
でも、私はこういうところでは妥協しない。
午後も遅くなる頃には、部屋の様子もずいぶん変わっていた。
まだ箱はあちこちに残り、壁も寂しいままだったけれど、ソファは置かれ、ベッドも使えるようになり、キッチンも翌朝まで生き延びるには十分なものが出されていた。
アンドレアが部屋を見回した。
「今日はここまで。」
アイリーンが眉をひそめる。
「まだたくさん残ってるわよ。」
「明日もちゃんと残ってるから。」
「今夜もう少しできるけど。」
アンドレアは黙って彼女を見た。
アイリーンがため息をつく。
「……分かった。」
よし。
少なくとも、まだアイリーンを止められる人が一人いる。
…
最初に帰ることになったのは息子たちだった。
次男はアイリーンを抱きしめたあと、本棚を指さした。
「来週、あれ直すから。」
「どこもおかしくないわよ。」
「お母さん、お願い。あんな状態で暮らさせるほど薄情じゃないから。」
長男が弟の背中を押した。
「もう行くぞ。」
それから長男も母親を抱きしめた。
「何か必要だったら電話して。」
「するわ。」
「いつもそう言うよね。」
「今回は本当にする。」
「はいはい。」
彼は母親の頬にキスをした。
「どうせこっちから電話するけど。」
アイリーンは笑った。
「知ってる。」
アンドレアも少しして帰った。
ただし、今夜必要になるものがどの箱に入っているかを二度も説明してから。
そして玄関には、アイリーンと一緒に二人だけが残った。
ディランと――
私。
さっきまで部屋が騒がしかったほうがよかった。
ディランはもう一度、部屋を見回した。
「必要なものは、だいたい揃ったと思う。」
アイリーンも周囲を見る。
「私もそう思う。」
「何か忘れたものがあったら電話して。」
「うん。」
「それから、家にあるものをまた買わないように。」
アイリーンが微笑んだ。
「あなたの家にあるもの、でしょう?」
ディランが彼女を見た。
ほんの一瞬、二人とも黙った。
私も、その言い直しは好きじゃなかった。
ディランが視線を落とす。
「……そうだね。」
アイリーンの表情がすぐに柔らかくなった。
「そういうつもりじゃ――」
「大丈夫。」
ディランは小さく笑った。
「分かってるよ。」
言い争いにはならなかった。
大げさな別れの言葉もなかった。
ただ、自分一人のものになった部屋で向き合う二人がいるだけだった。
ディランはアイリーンを見た。
「ここで幸せになれるといいね。」
彼女の目が少し潤んだ。
それでも笑った。
「私もそう願ってる。」
ディランはうなずいた。
少しためらってから、彼女を抱きしめる。
アイリーンも腕を回した。
必死にしがみつくわけでもなく、決心が揺らいだわけでもない。
ただ、私の胸まで苦しくなるには十分な長さだった。
二人が離れると、ディランは彼女の腕にそっと触れた。
「おやすみ、アイリーン。」
「おやすみ、ディラン。」
彼は部屋を出た。
ドアが閉まった。
そして突然――
部屋が静かになった。
本当に静かだった。
アイリーンはしばらく玄関の前に立ったままだった。
私は待った。
彼女は動かなかった。
私も動かなかった。
この瞬間が来ることは知っていた。
だからといって、覚悟ができていたわけじゃない。
やがてアイリーンは息を吐き、部屋を見回した。
「さて。」
リビングへ歩いていく。
「これで、私たちだけね。」
私は彼女を見た。
「私たち?」
アイリーンが笑う。
「そうよ。」
「ちょっと待って。私まで引っ越すなんて聞いてない。」
「私が行くところには、あなたも来るでしょう?」
……考えてなかった。
一言くらい相談してほしかった。
アイリーンは窓を開け、夕方の空気を部屋に入れた。
もう一つの窓も開ける。
それからリビングの真ん中に立ち、ゆっくり周囲を見回した。
まだ残っている箱。
何も飾られていない壁。
まだこの部屋になじんでいない家具。
そしてキッチンには、相変わらず閉まることを拒否している、あの馬鹿みたいな戸棚。
ディランが帰ってから初めて、アイリーンが笑った。
「言わないで。」
「まだ何も言ってない。」
「言おうとしてたでしょう。」
「もちろん。」
彼女は寝室へ向かった。
「パジャマを探さなきゃ。」
よし。
具体的な問題。
こういうのなら私にも対処できる。
一つ目の箱を開ける。
キッチン用品。
次。
本。
その次。
また本。
「本、何冊持ってきたの?」
「今はやめて。」
「二軒目の部屋が無理だった理由が分かってきた。」
アイリーンは無視して、別の箱を開けた。
ない。
「アンドレア、全部ラベルを貼ったって言ってたわよね。」
「アンドレアは嘘つきね。」
アイリーンが部屋の隅を見る。
ベッドの横に、小さな箱が一つ置かれていた。
上には大きな文字で、
寝室――最初の夜
と書かれている。
アイリーンが笑った。
私は箱を見つめた。
「今まで彼女について言ったことの半分は撤回する。」
「半分だけ?」
「調子に乗らないで。」
箱の中にはパジャマ、洗面用品、充電器、それに今夜必要になりそうなものが全部入っていた。
アイリーンが首を振る。
「私、あの人が大好き。」
「効率が良すぎて怖いけどね。」
…
少しして、アイリーンはパジャマに着替え、ベッドに入った。
その瞬間、部屋の意味が変わった。
昼間は、ただ片づけるべき部屋だった。
今は違う。
ここが彼女の寝室だった。
アイリーンは何も考えず、長年眠ってきたのと同じ側に横になった。
そして気づいた。
隣が空いている。
私も気づいた。
彼女はしばらくその場所を見つめ、それから仰向けになった。
「まだ帰れるわよ。」
アイリーンは黙っていた。
「誰も責めない。」
「分かってる。」
「ディランだって責めない。」
「分かってる。」
私は少しためらった。
「たぶん、ノックする前にドアを開けてくれる。」
アイリーンは目を閉じた。
「……分かってる。」
その答えに少し腹が立った。
「じゃあ、どうしてまだここにいるの?」
彼女はすぐには答えなかった。
今度は私も急かさなかった。
しばらくして、アイリーンが目を開けた。
「今夜帰ったら、自分がどうして帰ったのか分からなくなるから。」
私は眉をひそめた。
「どういうこと?」
彼女は隣の空いた場所を見た。
「ここを出たことが間違いだったって気づいて帰るのか……」
少しだけ声が小さくなる。
「それとも、一人でここにいるのが怖くて帰るのか。」
それは、私が欲しかった答えじゃなかった。
私は、ディランが恋しいと言ってほしかった。
実際、恋しかった。
このベッドが落ち着かないと認めてほしかった。
実際、落ち着かなかった。
そして私は、それが全部「帰るべき理由」になってほしかった。
でもアイリーンは、そうさせてくれなかった。
彼女はベッドサイドのランプへ手を伸ばした。
「おやすみ、オスクリータ。」
「本当にここにいるの?」
「今夜はね。」
灯りが消えた。
私はベッドの空いている側を見た。
やっぱり好きじゃなかった。
アイリーンも同じだった。
それが少しだけ救いだった。
今夜、この部屋を好きになる必要なんてない。
この決断が正しかったのか、答えを出す必要もない。
そして私も、二十五年間一緒に暮らした家ではなく、どうしてここにいるのか理解する必要はない。
今夜は――
ただ、ここにいればいい。
それだけで十分なのかもしれない。




