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この仕事が終わったら

希望は危険だ。

嘘をつくからではない。

一度それを心に入れてしまうと、何でもない土曜の朝でさえ、約束のように見えてしまうからだ。

アイリーンは目覚ましが鳴る前に目を覚ました。

寝室のドアのそばには、閉じられた旅行鞄が置かれている。準備はすべて整っていた。

ディランはまだ眠っていて、二人の間に片腕を伸ばしていた。

アイリーンはしばらく彼を見つめてから、音を立てないようにベッドを抜け出した。

「起きるのが早すぎるわよ」

私が言うと、アイリーンは小声で返した。

「あなたも起きてるじゃない」

「私はここに住んでるの」

「私もよ」

「そうやって理屈で攻撃し続けるなら、一時的な同居になるかもしれないけど」

アイリーンは笑いながら、階下へ向かった。

コーヒーを淹れ、湖の近くの天気を確認し、ホテルの予約メールをもう一度開く。

何かが変わったわけではない。

ただ、そこにあることを確かめたかったのだ。

二泊。

一部屋。

会議なし。

締め切りなし。

誰からも何かを求められない時間。

久しぶりに、二人の人生の中に、二人のための場所ができていた。

二十分ほどして、ディランがキッチンへ入ってきた。

ジーンズに古いセーター。

ネクタイもない。

ブリーフケースもない。

すでに何かに遅れているような顔もしていない。

アイリーンは彼を上から下まで眺めた。

「なんだか変ね」

ディランは自分の服装を見下ろした。

「変?」

「少しリラックスして見える」

「慣れないほうがいい」

「そのつもり」

ディランは彼女のところまで歩いていき、キスをした。

短いキスだった。

けれど、どちらもすぐには離れなかった。

ディランが笑う。

「あと一時間くらいで出よう」

「分かってる」

「おやつは入れた?」

「入れたわ」

「全部?」

アイリーンは目を細めた。

「おやつは多すぎるくらいでちょうどいいの」

「多すぎるっていう状態は確実に存在する」

「途中でお腹が空いたら謝ることになるわよ」

「何か買うよ」

「どこで?」

「ガソリンスタンド」

アイリーンは無言で彼を見つめた。

「それで何が起きても自業自得ね」

私は大きくうなずいた。

「ようやくまともな意見が出たわ」

二人はキッチンのテーブルで朝食を取った。

ディランは道順の話をし、街を出る前にコーヒーを買うかどうかを考えていた。

アイリーンは、家のコーヒーのほうがおいしいと主張した。

トーストを食べながら、二人は笑っていた。

人間というのは、驚くほど楽観的だ。

そのとき、ディランの携帯電話が鳴った。

二人とも、同時にそれを見る。

呼び出し音は数秒で止まった。

ディランは携帯を裏返して置いた。

「よし」

私は言った。

アイリーンはコーヒーをもう一口飲んだ。

どちらも、その電話には触れなかった。

ディランがバターへ手を伸ばす。

また電話が鳴った。

彼の手が止まった。

アイリーンが彼を見る。

ディランは首を振った。

「出ない」

アイリーンが聞き返す。

「出ないの?」

「今日は出ない」

彼は、必要以上に真剣な表情でトーストにバターを塗った。

呼び出し音が止まる。

一分近く、キッチンは静かなままだった。

そして三度目の電話が鳴った。

ディランはゆっくり息を吐いた。

アイリーンはマグカップをテーブルに置いた。

「誰からかだけでも確認したほうがいいんじゃない?」

「いや」

「大事な用かもしれない」

「今日は土曜日だ」

「大事な用は、土曜日だからって遠慮してくれたことがないでしょう」

ディランは彼女を見た。

「仕事はしないって言った」

「言ったわね」

「本気だよ」

電話は再び止まった。

アイリーンは笑った。

でも、その笑みは目まで届いていなかった。

「分かってる」

その直後、ブリーフケースの中から会社用の電話が鳴り始めた。

ディランは目を閉じた。

私はアイリーンを見た。

彼女は完全に動きを止めていた。

驚いてはいない。

私は、そのことが一番嫌だった。

電話が一回鳴る。

二回。

三回。

ディランは椅子を引いた。

「何が起きたのか確認するだけだ」

アイリーンはうなずいた。

ディランは携帯を手に取り、リビングへ移動した。

私たちには、会話のすべては聞こえなかった。

断片だけが届く。

「いや、今日は対応できない」

間が空いた。

「それは昨日までに終わっているはずだ」

また間が空く。

「月曜の朝だ」

沈黙。

そして、ディランの声が変わった。

「何だって?」

アイリーンはリビングの入り口を見つめた。

ディランはさらに奥へ歩いていく。

「チーム全員が?」

長い沈黙。

「いや、まだ誰も帰すな」

彼は額を押さえた。

「だから、帰すなと――」

途中で言葉を止める。

相手の話を聞く。

そして、うつむいた。

「分かった。行く」

電話が切れた。

数秒間、何も動かなかった。

ディランは携帯を握ったまま、リビングに立っている。

アイリーンは、二つの飲みかけのコーヒーが置かれたテーブルに座っていた。

何が起きるのか、私には分かっていた。

アイリーンにも分かっていた。

ディランがキッチンへ戻ってくる。

「ごめん」

アイリーンは、階段の下から見える旅行鞄へ目を向けた。

「行けないのね」

質問ではなかった。

ディランは彼女の向かいに座った。

「契約の一つに問題が起きたんだ。クライアントが条件をいくつも変更して、月曜までに全部修正しなければ契約を失う可能性があると法務が言っている」

アイリーンは黙って聞いていた。

ディランは急ぐように続けた。

「今日は無理だと言った。本当に言ったんだ。でも、もうチームの半分が会社にいて、最終的な変更をどう処理すればいいのか、僕がいないと誰にも分からない」

彼はそこで口を閉じた。

説明だけが、二人の間に残った。

筋は通っていた。

だからこそ、余計につらかった。

「努力したんだ」

ディランが言った。

アイリーンは彼の目を見る。

「分かってる」

本当に分かっていた。

彼が携帯を裏返すところも見た。

断る声も聞いた。

二人が作ってきた生活に逆らおうとする姿も見ていた。

ディランは努力した。

それでも、結末は同じだった。

ディランはテーブル越しに手を伸ばした。

「来週末に行こう」

アイリーンはその手を見たが、取らなかった。

「いいえ」

ディランは眉を寄せた。

「行かないのか?」

「来週末には、また別の仕事があるわ」

「ないよ」

「だったら、別の締め切り」

「アイリーン」

「それか、別の緊急事態」

ディランが口を開く。

しかし、アイリーンはその前に続けた。

「あなたを必要とする誰かがいる。あなたにしか解決できない何かが起きる」

「これは無視できることじゃない」

「分かってる」

「僕には、あの人たちに対する責任がある」

「分かってる」

「僕が行かなかったら――」

「分かってるわ、ディラン」

彼女の声は穏やかだった。

冷たくもない。

怒ってもいない。

ただ、理解していると説明することに疲れていた。

ディランは視線をそらした。

アイリーンはテーブルの上で両手を組んだ。

「人生に待ってと言われるたびに、私は待った」

ディランが彼女を見る。

「息子たちが私たちを必要としたときも待った。あなたの仕事が忙しくなったときも待った。家族や家や会社で何かが起きるたびに、私は待った」

「僕は、そんなことを頼んだつもりは――」

「そうね」

アイリーンは静かに首を振った。

「頼む必要がなかったの」

ディランは黙った。

アイリーンは自分の手元を見る。

「私は、私たちを守っているつもりだった」

彼女は息を吸った。

「我慢することが、あなたを正しく愛することだと思っていた」

「アイリーン……」

「でも、いつの間にか、自分はいつだって最後でいいんだと、自分自身に教えてしまった」

キッチンは完全に静まり返った。

ディランの表情が変わった。

アイリーンに責められたからではない。

彼女は責めていなかった。

責められたほうが、きっと簡単だった。

「そんなふうに感じてほしかったわけじゃない」

ディランが言った。

「分かってる」

「本当だ」

「本当だって分かってる」

「だったら、僕にとって何も大切じゃないみたいに言わないでくれ」

アイリーンの目に涙が浮かんだ。

それでも、彼女は目をそらさなかった。

「だから苦しいの」

ディランは彼女を見つめた。

「あなたがどうでもいいと思っているなら、私は怒れた」

アイリーンの声が震える。

「あなたが私を愛していないなら、少しは納得できたかもしれない」

「愛してる」

「分かってる」

「だったら、直させてくれ」

アイリーンは一度、目を閉じた。

「あなたは、ずっとそう言ってる」

「だって、本当に直すからだ」

「いつ?」

ディランはすぐには答えなかった。

アイリーンは、小さく悲しそうに笑った。

「この仕事が終わったら?」

その言葉は、静かに落ちた。

それでも、キッチンの空気をすべて奪ったように感じた。

ディランは時計を見る。

「行かないと」

アイリーンはうなずいた。

彼は立ち上がったが、玄関へは向かわなかった。

「こんな状態で出ていきたくない」

「私は、あなたに出ていってほしくない」

ディランの表情がこわばる。

アイリーンは彼を見た。

「でも、行くんでしょう」

ディランは視線を落とした。

「……行く」

彼はテーブルを回り、アイリーンのそばで立ち止まった。

一瞬、彼女に触れてもいいのか迷っているように見えた。

アイリーンが立ち上がる。

ディランは彼女を抱きしめた。

アイリーンも、彼を抱きしめ返した。

それが悲しかった。

彼女はまだ、そうしたかったのだ。

ディランは彼女の髪に顔を埋めた。

「ごめん」

「分かってる」

「できるだけ早く帰る」

アイリーンは彼の肩に顔を寄せたまま、うなずいた。

二人が離れると、ディランは彼女の額にキスをした。

そして、ブリーフケースを持ち上げる。

充電ケーブルは、まだ中に入っていた。

私の予想は当たっていた。

少しもうれしくなかった。

ディランは旅行鞄の前で足を止めた。

一瞬だけ、その取っ手に手を置く。

「必ず埋め合わせをする」

アイリーンは彼を見た。

私たちは、どちらも答えなかった。

しばらくして、玄関のドアが閉まった。

家の中は静かになった。

アイリーンは、キッチンのテーブルのそばに立ったままだった。

私は、彼女が泣くのを待った。

泣かなかった。

怒るのを待った。

何も起きなかった。

やがて、彼女は階段のほうへ歩いた。

旅行鞄は、置かれたときと同じ場所に立っている。

アイリーンは、その上に片手を置いた。

「荷物を出さないの?」

私が尋ねる。

「今夜は出さない」

「その服は必要になるでしょう」

「今夜は出さないの、オスクリータ」

彼女の指が、取っ手を強く握った。

そして、囁いた。

「私は、準備できてたのに」

旅の準備ができていた。

少なくとも、私はそういう意味だと思った。

けれど、行くはずだった服のまま旅行鞄のそばに立つ彼女を見て、私は見落としていたことに気づいた。

アイリーンは長い間、人生が自分の番をくれるのを待っていた。

子ども時代も。

結婚してからも。

母親になってからも。

危機も、締め切りも、すべての「あとで」という約束も。

ずっと待ってきた。

でも今回は、準備をしていた。

自分のための場所を空けた。

自分のために、何かを選んだ。

それなのに、人生はまた彼女に脇へどいてくれと頼んだ。

アイリーンは旅行鞄を開けなかった。

片づけもしなかった。

そのまま、ドアのそばに残した。

初めて、問題はもう、ディランが仕事のあとに戻ってくるかどうかではなくなった。

彼が戻ってきたとき、アイリーンがまだ待っているのかどうかだった。



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