二度目の別れは、もっと早くやってくる
人はよく言う。
家族も、そのうち落ち着くものだと。
それはたぶん本当だ。
でも誰も教えてくれない。
その「落ち着いた毎日」は、永遠には続かないということを。
人間は少し慣れた頃になると、また次の季節へ進んでしまう。
…
家には、新しい日常ができていた。
長男は大学生活にもすっかり慣れ、週末になると時々帰ってきた。
大きなバッグを抱え、その中には大量の洗濯物。
そして帰る頃には、きれいに畳まれた服と、アイリンが持たせた食べ物がぎっしり詰め込まれている。
どうやら自立というのは、
洗濯までは含まれないらしい。
人間という生き物は、本当に都合がいい。
…
長男が帰ってくる週末は、家の空気まで少し賑やかになる。
次男は「うるさいな」と文句を言いながらも、結局は兄と一緒にゲームをしたり、出かけたりしていた。
ダイレンは大学の授業や教授の話、ルームメイトとの出来事まで興味津々で聞いている。
アイリンは毎回、同じ質問をした。
「ちゃんと食べてる?」
返事も毎回同じだった。
「まあ、それなりに。」
アイリンは一度も信じなかった。
…
日曜日の夕方になると、また長男は大学へ戻っていく。
そのたびに家は静かになった。
寂しいというより、
それが新しい日常になっていた。
一人が帰ってきて、
また出かけていく。
三人で過ごす時間と、四人で過ごす時間。
家族は、その繰り返しに少しずつ慣れていった。
…
私は腕を組みながら、その様子を眺めていた。
「分かった。」
洗濯物を畳んでいたアイリンが顔を上げる。
「何が?」
「これは安定じゃない。」
「違うの?」
私は首を横に振った。
「ただの幕間よ。」
…
月日が流れた。
気がつけば、次男も高校卒業を迎えていた。
ある日の夕食後、食卓の上に大学のパンフレットが並び始める。
その数週間後には願書。
オープンキャンパスの日程。
締め切りの一覧。
数年前とまったく同じ光景だった。
…
私はパンフレットを見つめたまま固まった。
「ちょっと待って。」
アイリンが笑う。
「今度は何?」
「またやるの?」
一冊手に取りながら頷く。
「そうみたい。」
私は人生で一番長いため息をついた。
「あの時気づくべきだった。」
「何に?」
「あれは練習じゃなかったのよ。」
アイリンが首をかしげる。
「じゃあ?」
「ただのチュートリアルだった。」
…
今回は少し違っていた。
楽になったわけではない。
ただ、
もう何が待っているのか知っていた。
段ボール箱も。
空っぽになる部屋も。
誇らしさと寂しさが同じ場所に座ることも。
知っているからといって、別れが簡単になるわけではない。
少しだけ驚かなくなるだけだ。
…
ある晩、夕食のあと。
次男が何冊もの大学案内を食卓に広げた。
「たぶん、決めた。」
ダイレンはすぐに身を乗り出す。
「見せて。」
親子二人で学部やカリキュラムを見比べ始めた。
アイリンはその隣に座り、ほとんど口を挟まずに二人の話を聞いていた。
時々うなずき、
時々笑う。
それだけだった。
…
夜も更け、パンフレットを片付け終えたあと。
ダイレンはキッチンで一人立っているアイリンを見つけた。
「何考えてる?」
アイリンは振り返らず、小さく笑う。
「昨日のことみたい。」
ダイレンも微笑んだ。
「俺も同じこと考えてた。」
彼女はゆっくり首を振る。
「違う。」
「え?」
「昨日なんかじゃない。」
少し間を置いて続けた。
「昨日より、もっと早かった。」
…
二人とも、それ以上何も言わなかった。
振り返るたびに、
時間は前より速く流れているように思えた。
…
私は静かに腕を組む。
子どもを育てるって、本当に困ったものだ。
何年もかけて、自分の力で歩けるように育てる。
そして最初の別れにようやく慣れ始めた頃には、
二度目の別れが、
もうすぐそこまで来ている。
…
私たちが準備できているかどうかなんて、
そんなことは関係ない。
時間は、ちゃんと次の季節を連れてくるのだから。




