どうやら、本当に旅立つらしい。
まず最初に、訂正しなければならないことがある。
数年前、私は自信満々に言った。
「あの子たちは家を出ていくんじゃない。ただ練習しているだけ。」
……
どうやら私は、大学というものを少し甘く見ていたらしい。
…
出願の準備は、誰の心の準備よりもずっと早く始まった。
食卓には願書が並び、ソファには大学案内が積まれ、ノートパソコンには締め切りの日付がいくつも表示される。
パスワードを忘れたり、必要な書類が見つからなかったり、そのたびに家のあちこちで小さな騒ぎが起きていた。
家の中では未来の話ばかりになった。
そして誰も気づかなかった。
その未来の話が、少しずつ「今」を変え始めていたことに。
…
アイリンはできるだけ冷静でいようとした。
感情的になる余裕がない時ほど、彼女は現実的になる。
ダイレンは大学を調べ、学費を比較し、大学近くの部屋を探し始めた。
私は二人を眺めながら腕を組む。
「始まったわね。」
アイリンがパソコンから顔を上げる。
「何が?」
「ダイレンの表計算。」
「それで落ち着くのよ。」
「違うわ。」
私は首を振った。
「あれは、パニックをセルごとに整理してるだけ。」
…
合格通知が届いたのは、火曜日の午後だった。
特別な日ではない。
空が曇っていたわけでもない。
劇的な音楽が流れたわけでもない。
いつもと同じ午後。
いつもと同じキッチン。
そして長男がパソコンの画面を見つめたまま、二度まばたきをした。
…
ゆっくり顔を上げる。
「受かった。」
…
一瞬だけ、誰も動かなかった。
次の瞬間には、全員が動いていた。
最初に抱きしめたのはアイリン。
そのすぐあとにダイレン。
真ん中に巻き込まれた弟が叫ぶ。
「ちょっと!苦しい!」
もちろん誰も聞いていなかった。
…
アイリンは泣いた。
あとで否定していたけれど。
私は見ていた。
ちゃんと泣いていた。
…
第一志望だった。
本人がずっと目指していた学部だった。
みんな心から喜んだ。
もちろん、それは本当に嬉しい知らせだった。
問題は――
嬉しい知らせというものは、大抵、段ボール箱を連れてくることだ。
…
数日後、最初の箱が部屋へ運び込まれた。
そのあともう一つ。
さらにもう一つ。
気づけば部屋の半分が、静かに子ども時代を片付け始めていた。
本棚から本が減り、
クローゼットの服も少なくなり、
壁のポスターも外されていく。
アイリンは気づかないふりをしていた。
もちろん全部気づいていた。
…
ある午後。
洗濯物を持って部屋へ入ると、長男は床に座り、三つの山を作っていた。
持っていく物。
置いていく物。
そして――
「絶対に必要。」
……と本人だけが信じている物。
…
アイリンは古いぬいぐるみを持ち上げた。
「まだ持ってたの?」
息子は顔を上げる。
「もちろん。」
「何年も触ってないでしょう?」
「それは関係ないよ。」
…
興味深い。
どうやら大人になるというのは、使うから物を残すのではなく、思い出があるから残すようになることらしい。
本当に人間という生き物は不思議だ。
…
引っ越しの日が近づくにつれ、家の中はさらに慌ただしくなった。
買い物。
契約書。
生活用品。
住所変更。
そして一日に何度も繰り返される言葉。
「ちゃんと持った?」
「忘れてない?」
誰も考える暇がなかった。
その方が少しだけ楽だった。
…
そして当日がやってきた。
…
車には信じられない量の荷物が積み込まれていた。
トランクは段ボールでいっぱい。
後部座席にもバッグ。
足元まで荷物。
ダイレンは十五分近くかけて、デスクライトをどうにか積もうとしていた。
どうやったのかは分からない。
でも積んだ。
本人はかなり誇らしそうだった。
…
大学近くの部屋は、小さいけれど明るかった。
窓も大きい。
家具も悪くない。
アイリンの不安を少しだけ軽くしてくれるくらいには。
ほんの少しだけ。
…
それから数時間。
全員が忙しく動き回った。
荷物を運び、
棚を組み立て、
家具を動かし、
説明をして、
そして、その説明のほとんどは聞き流された。
特にダイレンのものは。
…
「困ったことがあったら電話するんだぞ。」
工具箱を渡しながらダイレンが言う。
「うん。」
「本当に。」
「分かってる。」
「遠慮するな。」
「分かってるって。」
「何でも相談しろ。」
息子は笑った。
「お父さん。」
ダイレンもうなずく。
「分かってる。でももう一回言っておく。」
…
アイリンは思わず笑う。
息子は少し疲れた顔をしていた。
ダイレンだけが、本当にこれで大丈夫なのか最後まで納得していなかった。
…
やがて運ぶ荷物もなくなった。
組み立てる家具もない。
片付ける理由もなくなった。
気づけば四人とも部屋の真ん中に立っていた。
…
困った。
もう残っていることは、一つしかない。
帰ることだった。
…
別れは意外なほど静かだった。
長い言葉はなかった。
感動的な演説もない。
長男は最初にアイリンを抱きしめ、
次にダイレン、
そして弟を抱きしめた。
少し照れくさそうに笑う。
「大丈夫だから。」
…
困ったことに、
その言葉は本当だった。
…
帰り道。
車の中は静かだった。
誰も泣いていない。
誰も怒っていない。
ただ、それぞれが新しい現実に慣れようとしていた。
ダイレンはラジオをつけた。
三分後には消した。
どうやら今日は、明るい音楽を聴く気分ではなかったらしい。
…
家へ戻る。
玄関を開けても何も変わっていない。
靴もある。
椅子には上着も掛かっている。
流しにはコップも残っている。
何一つ変わっていない。
ただ一つだけ。
声が一つ減っていた。
…
アイリンは自然に廊下へ向かった。
途中で立ち止まる。
それでも、そのまま部屋まで歩いていった。
…
部屋は朝と同じだった。
ベッドもある。
机もある。
本棚もある。
何もなくなったわけじゃない。
ただ、
少し静かになっただけだった。
…
アイリンはしばらく入口に立っていた。
それから小さく笑う。
誇らしくて、
少し寂しくて、
どちらを先に感じればいいのか分からない時の笑顔だった。
人間は、ああいう表情をよくする。
…
その夜。
夕食のあと、アイリンとダイレンはソファに座っていた。
次男は友達と出かけている。
偶然にしては、ずいぶん都合がいい。
しばらく二人とも黙っていた。
やがてダイレンが廊下を見つめる。
「不思議だね。」
アイリンもうなずく。
「うん。」
少し沈黙が続く。
それからダイレンが静かに笑った。
「俺たち、ちゃんと育てたね。」
…
アイリンは長男の部屋を見つめ、それからダイレンを見る。
「そうね。」
…
その日初めて。
二人の声に寂しさはなかった。
そこにあったのは、
ただ誇らしさだった。
…
私は腕を組んでため息をつく。
人生って、本当に意地が悪い。
こういう時は決まって、人間を少しだけ泣かせる。
…
それでも認めるしかなかった。
二人は長い時間をかけて、あの子が自分の人生を歩けるよう育ててきた。
そして今、
彼は本当に歩き始めた。
それは素晴らしいことだった。
……
本当に、不公平なくらい。
…
最後に訂正しておく。
あの頃、私は言った。
「まだ練習しているだけ。」
違った。
どうやら――
今度こそ、本番だった。




