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話している。でも、それは同じことじゃない

不思議なことに、何かが壊れているわけではなかった。

子どもたちは元気だったし、請求書もちゃんと払えている。夕食だって大抵の夜は食卓に並ぶ。

家の中は騒がしくて、散らかっていて、生きていた。

外から見れば、何の問題もない家族だった。

...

月曜日の朝、キッチンは小さな災害現場みたいになっていた。

下の子はオートミールの存在そのものに抗議している。

上の子は靴が見つからない。

ダイレンはスマホでメールを確認しながら車の鍵を探していた。

アイリンはお弁当を準備しながら、遠足の同意書にサインしたかどうか思い出そうとしている。

...

「学校の書類、サインした?」

ダイレンが尋ねた。

「あなたじゃなかった?」

「君だと思ってた」

...

二人は見つめ合った。

...

心の中でオスクリタがゆっくりキッチンカウンターに現れる。

「いいわねぇ」

アイリンは見向きもしない。

「何よ」

「結婚生活の上級ステージよ。誰も何にサインしたか覚えてないの」

...

その時、上の子が駆け込んできた。

「靴あった!」

...

「どこに?」

...

「冷蔵庫」

...

誰も理由を聞かなかった。

聞く元気がなかった。

...

朝はそのまま流れていく。

朝食。

ランドセル。

靴。

学校。

仕事。

...

ようやく子どもたちを送り出し、玄関のドアが閉まると部屋は急に静かになった。

アイリンは椅子に腰を下ろした。

ダイレンは時計を見る。

二人ともあと十分もしないうちに仕事が始まる。

...

「今日は会議だったよね?」

ダイレンが聞く。

「三つ」

...

彼は顔をしかめた。

「頑張って」

「そっちもね」

...

ダイレンは彼女の額に軽くキスをして出て行った。

...

オスクリタは閉まったドアを見つめ、それからアイリンに振り返る。

「面白いこと言っていい?」

...

「嫌な予感しかしない」

...

「あなたたち、毎日ずっと話してるわよね」

...

アイリンは首を傾げた。

「話してるじゃない」

...

「そこよ」

オスクリタは大げさに指を突き付けた。

「一日中話してるのに、自分たちの話を全然してない」

...

その言葉は思った以上に長く残った。

...

その週もあっという間に過ぎていった。

仕事。

学校。

洗濯。

買い物。

そしてまた仕事。

...

ある夜、ダイレンは少し遅く帰宅した。

怪しいほど遅いわけではない。

ただ疲れて帰ってきただけだ。

大人になると誰も気にしなくなる種類の遅さだった。

...

アイリンはソファでノートパソコンを開いていた。

ダイレンはネクタイを緩めながら部屋に入る。

...

「夕飯食べた?」

...

「会議が長引いた」

...

「冷蔵庫にあるわよ」

...

「ありがとう」

...

沈黙が続いた。

険悪ではない。

でも温かくもない。

ただ疲れていた。

...

心の中でオスクリタがゆっくりとサングラスを下ろす。

...

「ちょっと待って」

...

アイリンはため息をついた。

「今度は何?」

...

「あなたたち、同僚みたいになってる」

...

その言葉は妙に胸に刺さった。

...

完全に間違っているとも言えなかったからだ。

...

数日後、アイリンが洗濯物を畳んでいるとアンドレアからビデオ通話がかかってきた。

画面が繋がった瞬間、アンドレアは顔をしかめた。

...

「ひどい顔してるわね」

...

「こんにちは、じゃないの?」

...

「真面目な話よ」

アンドレアは画面越しに指を向ける。

「最後にちゃんと寝たのいつ?」

...

アイリンは笑った。

「ちゃんと寝るって定義から説明して」

...

アンドレアはうなずく。

「ああ」

...

「母親ね」

...

しばらく仕事や子どもたちの話をした。

気楽な話題だった。

話しやすい話題だった。

...

そしてアンドレアが少し首を傾げる。

...

「ダイレンとは?」

...

アイリンの手が止まった。

...

「うまくいってるわよ」

...

答えはあまりにも自然に出てきた。

自然すぎるほどに。

...

心の中でオスクリタが片眉を上げる。

...

「うわぁ」

...

「何よ」

...

「その答え、会社の報告書みたい」

...

アンドレアも何かを感じ取ったらしかった。

彼女は昔からそういう人だった。

...

「本当に?」

...

アイリンは畳みかけの洗濯物を見た。

問題はそこだった。

...

何も起きていない。

...

喧嘩もない。

裏切りもない。

意地悪もない。

...

ただ距離だけがあった。

小さな距離が少しずつ積み重なっている。

...

その夜、子どもたちが寝たあと、アイリンはダイレンの隣に座った。

彼はスマホを見ていた。

たぶん仕事だろう。

...

その時、小さく笑った。

...

アイリンは思わず聞く。

「何かあった?」

...

ダイレンは顔を上げた。

...

「ああ、仕事のこと」

...

それだけだった。

...

五秒もない会話だった。

...

でもなぜか胸が痛んだ。

...

昔なら、彼はすぐ話してくれた。

聞かれたからじゃない。

話したかったから。

...

心の中でオスクリタが珍しく静かになる。

...

そして小さく言った。

...

「あなたも気づいたのね」

...

アイリンは目を伏せた。

最近はこういう瞬間が多い。

大きな問題ではない。

危機になるほどでもない。

...

でも距離を作るには十分だった。

...

その夜、ダイレンはすぐ眠ってしまった。

疲れは年々早くなっている気がする。

...

アイリンは天井を見つめたまま眠れなかった。

カーテンの隙間から街の明かりが差し込んでいる。

...

オスクリタは窓際に座っていた。

珍しく冗談を言わない。

...

「ねえ」

...

「何?」

...

「私が怖いのはね」

...

アイリンは目を閉じた。

...

「珍しくあなた?」

...

「違う」

...

オスクリタは静かに首を振る。

...

「二人とも何も間違ってないこと」

...

その沈黙は大きかった。

アイリンには意味が分かってしまったからだ。

...

誰かを責められるなら簡単だった。

でも、愛はまだそこにあるのに、昔みたいに届かなくなっている時はどうすればいいのだろう。

...

隣でダイレンが寝返りを打った。

無意識のまま手を伸ばし、彼女の手を探す。

...

そして見つける。

...

眠っていても。

まだ彼は彼女を探していた。

...

アイリンは繋がった指を見下ろした。

...

オスクリタはその様子を見つめる。

そして大きくため息をついた。

...

「片方がどうしようもない馬鹿だったら楽だったのに」

...

アイリンは思わず笑った。

その日初めてだった。

...

残念なことに。

二人はまだ愛し合っていた。

...

だからこそ、余計に難しかった。



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