私たちはまた呼吸の仕方を思い出した。
最初の一年は、まるで断片の集まりだった。
後になって思い返そうとしても、はっきりした記憶はほとんど残っていない。夜中のミルク、小さな靴下が洗濯のたびに行方不明になること、三回も温め直したのに結局どこかに置き忘れられたコーヒー。
そんな小さな断片ばかりだった。
長い間、彼らの目標はただ一つだった。
生き延びること。
そして気づかないうちに、二人は少しずつ溺れるのをやめていた。
...
赤ちゃんは以前より長く眠るようになった。
アイリンも、部屋が静かになるたびに飛び起きることが少なくなった。何か悪いことが起きたのではないかと怯えることも減っていった。
家はもう戦場ではなかった。
ただ、ちゃんと人が暮らしている場所になっていた。
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そんな頃、アイリンには避け続けていた話し合いがあった。
仕事のことだった。
しばらくは辞めるしかないと思っていた。
ところが会社は予想外の提案をしてきた。
事情を説明すると、育児をしながら続けられるように、柔軟な在宅勤務の形を用意してくれたのだ。
もちろん完璧ではない。
昼寝の時間と締め切りが正面衝突する日もある。
予定通りに進まないことも多い。
それでも、その提案を受けたときの気持ちは不思議だった。
長い間閉ざされていた部屋の窓が、ようやく開いたような気がした。
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心の中でオスクリタが想像上の眼鏡をかけ直す。
「ちょっと待って」
彼女は大げさに指を差した。
「人間を育てながら仕事も続けるの?」
少し間を置く。
「なかなか攻めるわね」
...
アイリンはソファでメールに返信しながら笑った。
その笑い声に、自分自身が少し驚く。
自分の笑い声を聞くのが久しぶりだった。
まるで長い間水の中にいて、ようやく顔を出したみたいに。
...
仕事は助けになった。
全部を解決してくれたわけではない。
そんなものは存在しない。
それでも、母親であること以外の自分を思い出させてくれた。
待っているプロジェクトがある。
締め切りがある。
翻訳を必要としている物語がある。
そして、おむつや授乳とは関係ない理由で自分の名前を呼んでくれる人たちがいる。
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オスクリタは机にもたれかかった。
「なるほど」
大げさなため息。
「Ctrl+Z女の華麗なる復活ね」
少し首を傾げる。
「最近、ちょっと生き返ってきた感じがするわ」
...
アイリンは隣で眠る赤ちゃんを見た。
そうかもしれない。
完全ではない。
でも、少しずつ自分を取り戻している気はした。
...
ダイレンもそれに気づいていた。
家の中にずっと漂っていた緊張感は消えてはいない。
それでも柔らかくなっていた。
時には、それだけで十分だった。
...
ある日の夕方。
ダイレンが帰宅すると、アイリンは寝室の鏡の前に立っていた。
夕食前にイヤリングをつけている。
特別なものではない。
派手でもない。
ただのイヤリング。
それなのに、ダイレンは足を止めた。
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アイリンはすぐに気づく。
「なに?」
...
ダイレンは少し照れたように瞬きをした。
「いや」
小さく笑う。
「そういう姿を見るの、久しぶりだなって」
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その言葉を聞いて、胸の奥が静かに温かくなった。
褒められたからではない。
気づいたからだ。
自分が誰かのために着飾ったわけではないことに。
ただ自然に。
自分のために。
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オスクリタは両手で顔を覆った。
「だめだ」
...
「彼女が女性らしさと再接続してる」
...
「これは回復か、それとも新たな感情災害の前触れね」
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生活は再びリズムを取り戻していった。
完璧なリズムではない。
途中で何度も崩れる。
不格好なリズムだ。
それでも確かにリズムだった。
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二人は予定以外の話をするようになった。
映画を途中まで観て、そのまま寝落ちしたり。
くだらないことで笑ったり。
キッチンですれ違うときに自然に触れたり。
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小さなことばかりだった。
失って初めて大切さに気づくようなことばかり。
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雨の日の午後。
赤ちゃんが昼寝をしている間、アイリンはソファでダイレンの肩に頭を預けていた。
二人とも何も話さない。
窓を叩く雨音。
ベビーモニターから聞こえる小さな雑音。
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そして久しぶりに、その沈黙は疲労ではなく安らぎに感じられた。
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オスクリタは疑わしそうに二人を見つめる。
「これは非常に問題だわ」
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アイリンは笑った。
「今度は何?」
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「あなたたちよ」
オスクリタは顔をしかめる。
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「安定してるじゃない」
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その言葉は妙に部屋に残った。
安定。
完璧ではない。
夢みたいでもない。
ただ安定している。
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本当に久しぶりに、家が温かく感じられた。
人生が簡単になったからではない。
安心できる場所になったからだ。
そして、たぶんそれで十分だった。
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それからも時間は静かに流れていった。
赤ちゃんは幼児になり、
やがて質問ばかりする元気な子供になった。
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アイリンも強くなった。
誰にも気づかれない形で。
失敗を必要以上に大ごとにしなくなった。
落ち込んでも立ち直るのが早くなった。
人間である自分を許せるようになった。
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オスクリタもそれに気づいていた。
認めようとはしなかったけれど。
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「最近、前ほど大げさに泣かなくなったわね」
ある朝、彼女は言った。
...
「ありがとう?」
...
「雰囲気に影響してたのよ」
...
そんなふうに三年が過ぎた。
簡単ではなかった。
魔法でもなかった。
それでも、ちゃんと生きていた。
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そしてある静かな朝。
アイリンは再び浴室に立っていた。
小さなプラスチックの棒を見つめながら。
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その沈黙には覚えがあった。
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ゆっくり視線を落とす。
目を閉じる。
もう一度見る。
現実が変わっていることを期待しながら。
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心の中でオスクリタが想像上のサングラスを外した。
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「……あ」
...
しばらく沈黙。
...
「……やだ」
...
さらに長い沈黙。
...
「私たち、これを二回やるの!?」




