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うまくいきすぎてる。これは警戒案件かもしれない

その日の夜。

ダイレンの実家は、また少し世界が違って見えた。

騒がしいわけじゃない。

ただ——満ちている。

声。

笑い。

誰かがキッチンを歩く音。

そこには、“最初から家族だった人たち”の空気があった。

そして今は——

そこに、アイリンもいる。

ダイレンの妹が走ってきて、そのまま彼女の腕に抱きついた。

まるでコアラ。

「ねえ、もうお姉ちゃんって呼んでいい?」

アイリンは瞬きをした。

「え……っと」

心の中で、オスクリタが身を乗り出す。

「おめでとう」

真顔。

「史上最速の家族加入イベントよ」

アイリンは少し困ったように笑う。

「……たぶん?」

小さく答えた。

夕食の時間は、不思議なくらい自然だった。

無理に会話を続ける感じがない。

沈黙も変じゃない。

ダイレンの母親は、アイリンの仕事や将来のことを聞いた。

でも、“質問している”というより、本当に知ろうとしている感じだった。

父親は冗談を言うタイプだった。

でも、人を緊張させるような笑い方じゃない。

「アイリンちゃん」

ある時、彼が笑いながら言った。

「会えるの楽しみにしてたんだよ」

少し肩をすくめる。

「ダイレン、君の話ばっかりするから」

心の中で、オスクリタが眉を上げる。

「おや」

腕を組む。

「親公認ルート解放」

少し間。

「進行速度、予想以上ね」

アイリンは小さく笑った。

考えすぎないようにしながら。

でも——感じてしまう。

胸の奥で、何かが少し揺れる。

あの感覚。

もう置いてきたと思っていたもの。

ダイレンの母親が、そっと彼女の手に触れる。

「この子を大事にしてくれてありがとう」

その瞬間。

胸がきゅっと締まった。

苦しいわけじゃない。

ただ——思っていたより深く届いた。

アイリンは小さくうなずく。

「……ありがとうございます」

オスクリタが見えない扇子を振る。

「危険ね」

真剣な声。

「感情過多。マスカラ生存率低下中」

アイリンは小さく息を吐いて笑った。

全部があたたかかった。

居心地がよくて。

やさしくて。

安全だった。

だからこそ——

急に分からなくなった。

自分が、どこに立てばいいのか。

場所じゃない。

気持ちの話。

みんな自然に馴染んでいる。

いつ話すか。

いつ笑うか。

そういう距離感を、最初から知っているみたいに。

でも、自分だけは——

まだ覚えている途中。

オスクリタはすぐには冗談を言わなかった。

ただ、静かに見ている。

そして、小さく。

「……これは新しいわね」

アイリンは息を飲む。

「大丈夫」

「もちろん」

オスクリタは静かに言う。

「最近それ言うの、かなり上手になったわよね」

アイリンは少しだけ笑顔を保ったあと、

視線を皿へ落とした。

夜が深くなって。

少し静かになった頃。

二人は外へ出た。

空気が少し冷たい。

そのぶん、呼吸しやすかった。

ダイレンは隣でリラックスしている。

無理をしていない空気。

「……静かになったな」

彼がやわらかく言う。

アイリンは小さく笑う。

「みんな元気すぎるから」

「それは否定できない」

ダイレンも笑った。

少し沈黙。

でも、苦しくない。

「さっき」

彼がゆっくり言う。

「少し遠くなってた」

アイリンは顔を上げる。

「え?」

「考え込みすぎる時の顔してた」

図星だった。

オスクリタが横でうなずく。

「観察能力、高め」

少し間。

「面倒ね」

アイリンは視線をそらした。

「……みんな自然だから」

小さく言う。

「私はまだ、ちゃんと馴染めてない気がして」

ダイレンは少しだけ彼女を見る。

それから、自然に彼女の手を握った。

「そんなの、一回で分かる必要ないだろ」

声は静かだった。

「ゆっくりでいい」

シンプル。

いつもみたいに。

心の中で、オスクリタが腕を組む。

「あーはいはい」

「安心させるやつね」

ため息。

「一時的には効果あるのよね、これ」

アイリンは何も言わなかった。

ただ、少しだけ強く手を握り返す。

二人で家の中へ戻りながら、

胸の奥で、また何かが落ち着いていく。

完璧じゃない。

全部解決したわけでもない。

でも——今は、それで十分だった。

心の中で、オスクリタがゆっくり息を吐く。

「……なんか」

少し考える。

「うまくいきすぎてない?」

間。

「これは普通に警戒案件なんだけど」

アイリンは、少しだけ笑った。



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