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アイリン、拍手とかされてる。意味が分からない

講堂は、やわらかな金色の光と落ち着かない空気に包まれていた。

花束。

カメラ。

大きすぎる誇らしげな声。

笑い声や名前を呼ぶ声が、あちこちで反響している。

全部が、生きているみたいだった。

……少し、騒がしすぎるくらいに。

アイリンは卒業生の列に座りながら、何度もガウンのしわを直していた。

心臓が落ち着かない。

式のせいだけじゃない。

たぶん、それだけじゃない。

心の中では、オスクリタが腕を組みながら観客席を眺めていた。

まるで、非常に性格の悪い劇評家。

「感情、多すぎ」

ぼそっと言う。

「公開処刑の可能性も高いわね」

アイリンは小さく息を吐いた。

「今日ちょっと機嫌いいね」

「違う」

オスクリタは即答する。

「緊張してるの」

少し間。

「似てるけど、別物よ」

少し離れた場所で、アンドレアが大きく手を振っていた。

アイリンも笑って手を振り返す。

全部が不思議だった。

悪い意味じゃない。

ただ——現実感が薄い。

数年前なら、この日を想像できなかったかもしれない。

いや、そもそも考えようともしなかった。

あの頃は、一日を無事に終えるだけでも精一杯だったから。

自分の思考に押し潰されずに生きるだけで。

それなのに今——

ここにいる。

本当に。

オスクリタが横目で彼女を見る。

「あっ、だめ」

すぐに言う。

「その顔、“人生振り返りモード”入ってる」

「気をつけて。成長って不安定なのよ」

アイリンは小さく笑った。

名前が一人ずつ呼ばれていく。

拍手が波みたいに広がっては消える。

笑いすぎている人。

泣くのを我慢している人。

そして、盛大に失敗してる人。

そのとき——

「アイリン」

名前が講堂に響く。

その瞬間だけ。

体の中が静かになった。

オスクリタがゆっくり立ち上がる。

「……これは」

小さくつぶやく。

「かなり重要っぽいわね」

アイリンはステージへ向かって歩き出す。

一歩。

また一歩。

ライトが眩しい。

拍手が大きい。

でも——止まらない。

その瞬間。

記憶が一気に押し寄せた。

眠れなかった夜。

不安。

鏡。

囁き声。

見られることへの恐怖。

足りないと思い続けた日々。

それでも——

彼女は歩き続けてきた。

少し震える手で、卒業証書を受け取る。

拍手が続いている。

でも、その中で——

アイリンはすぐにダイレンを見つけた。

当然みたいに。

彼は、本当に誇らしそうだった。

社交辞令じゃない。

応援のためだけでもない。

もっと個人的で、

もっと深い。

彼女の幸せが、本当に自分のことみたいな顔。

胸の奥が、静かにいっぱいになる。

痛くはない。

ただ——満たされる感じ。

心の中で、オスクリタが固まる。

「……あら」

少し間。

「これは新しい」

ステージを降りたあとも、アイリンの手は少し震えていた。

オスクリタは珍しく静かに隣を歩く。

冗談もない。

皮肉もない。

ただ見ている。

「ねえ」

やがて、静かに言った。

「数年前のあなた、“消えても誰も気づかない”って思ってたのよね」

アイリンは小さく息を飲む。

「それが今はどう?」

オスクリタが講堂を指さす。

「存在してるだけで拍手されてる」

アイリンは思わず笑ってしまった。

式が終わると、講堂は一気に騒がしくなる。

花束。

写真。

家族。

感情が、あちこちで爆発していた。

その中で、ダイレンはすぐ彼女を見つけた。

いつもみたいに。

「いた」

やわらかく言う。

アイリンが顔を上げる。

その瞬間——

世界が少し小さくなる。

静かで。

安全で。

やさしい。

「頑張ったな」

彼の声には、あの変わらない確信があった。

アイリンはまだ、それに慣れない。

「ダイレンもね」

彼は笑う。

「いや。今日の主役はお前だろ」

オスクリタが盛大にうめく。

「無理」

顔を覆う。

「感情の純度が高すぎる」

ダイレンは笑いながら、アイリンを抱きしめた。

その瞬間だけ——

周りの音が遠くなる。

不安が消えたわけじゃない。

恐怖がなくなったわけでもない。

でも、少なくとも今は——

それに支配されていなかった。

ダイレンが少し離れて、彼女を見る。

「大丈夫?」

アイリンは少し考える。

反射じゃなく。

防御でもなく。

ちゃんと、自分に聞く。

そして——

「うん」

小さく笑う。

「大丈夫」

今回は、本当に。

心の中で、オスクリタが suspicious に目を細める。

「……なんか落ち着かないわね」

アイリンはまた笑った。

今度は、もっと自然に。

人混みの向こう。

アイリンは一度だけステージを振り返る。

昔の自分なら、怖くて立てなかった場所。

見られることが怖かった頃の自分。

オスクリタも静かにその方向を見る。

それから腕を組んだ。

「まあ」

小さく言う。

「私はまだ、“癒やし”ってやつ信用してないけど」

アイリンは笑う。

「知ってる」

少し静かな間。

でも、今度の沈黙はあたたかかった。

「でも」

オスクリタが渋々続ける。

「前よりは、ちょっとマシそう」

アイリンは吹き出した。

「それ、褒めてる?」

「慣れないで」

即答。

そして——

少女と影は、

騒がしい未来のほうへ歩いていった。

次に何が待っているのかも分からないまま。



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