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感情の否認、検出中。それでも進行します

噂が広がるのに、時間はかからなかった。

だいたい、こういうものは早い。

週の終わりには、みんな知っていた。

アイリンとダイレン。

いつの間にか。

静かに始まったものだった。

計画もなく、

確信もなく、

気づけば形になっていた。

もう、なかったことにはできないくらいに。

外から見れば、すごく自然だった。

アイリンは優しくて、少し控えめ。

ダイレンは明るくて、人に好かれるタイプ。

並ぶと、妙にしっくりくる。

……しっくりきすぎるくらいに。

心の中で、オスクリタが観察している。

「はい、おめでとうございます」

少し感心したみたいに言う。

「正式に“公開フェーズ”突入です。非常口はありませんのでご了承ください」

「分かってる」

アイリンが小さく答える。

「素晴らしいわね」

オスクリタは続ける。

「自覚のある悪い選択ほど、見てて面白いものないのよ」

最初の数週間は、驚くほど穏やかだった。

むしろ、不自然なくらいに。

ダイレンはちゃんとそばにいた。

やさしくて、自然で、無理がない。

彼といる時間は、重くならない。

ただ、落ち着いた。

だからこそ——

小さなひびが目立ち始める。

大きなことじゃない。

ドラマみたいな事件でもない。

本当に些細なもの。

他の女の子を見る視線。

意味なんてない一言。

なのに、妙に気になる。

心の中で、オスクリタがのんびり伸びをする。

「おやおや」

楽しそうな声。

「またセンターステージ復帰ですか。もう出番終わったかと思ってた」

「今、その気分じゃない」

アイリンが小さくつぶやく。

「へえ?」

オスクリタは笑う。

「でも今の顔、“全然気にしてません”って感じじゃなかったわよ?」

少し間。

「感情の否認、検出」

アイリンは視線をそらす。

「ちょっと不安なだけ」

オスクリタが吹き出す。

「違うわね」

肩をすくめる。

「それ、“姿勢のいいパニック”よ。非常にあなたらしい」

アイリンは、別のことに集中しようとした。

授業。

会話。

安心できそうなもの。

でも、長くは続かない。

「見て」

オスクリタが気軽に言う。

「また笑ってる。社交的。魅力的。非常に——」

「分かったから」

アイリンが遮る。

オスクリタは首をかしげる。

「ほんとに?」

少し笑う。

「気にしてないフリ、かなり上手よ。“精神的に成熟した彼女”って感じ。感動するわ」

アイリンは何も言わなかった。

言い返しても意味がない。

だから、やり方を変えた。

もっと笑う。

言葉を減らす。

違和感を飲み込む。

それが“大人になる”ことだと思おうとした。

心の中で、オスクリタがゆっくり拍手する。

「素晴らしい戦略」

「このままいけば、キャンパス一理解ある彼女になれるわね」

少し間。

「あと、たぶん一番疲れてる」

「みんなが、歩く皮肉みたいに生きてるわけじゃないの」

アイリンが小さく言う。

オスクリタは胸に手を当てた。

「もちろんよ」

真顔。

「慢性的自己不信という芸術を愛する人もいるもの」

時間は過ぎていった。

そしてアイリンは、自分に証明しようとしていた。

大丈夫だって。

ちゃんと足りているって。

これは複雑にならないって。

その頃、学内の作文コンテストが発表された。

テーマは——

『芸術による自己成長』

オスクリタが眉を上げる。

「へえ。ついに私を書く気になった?」

腕を組む。

「共同作者としてクレジット希望なんだけど」

「主役はあなたじゃない」

アイリンが言う。

オスクリタは薄く笑う。

「何年もあなたの思考に住んでるのよ?」

「貢献度を軽く見ないでほしいわね」

それでも、アイリンは書いた。

そして——何かが変わった。

今回は、不安から言葉を書いていなかった。

もっと静かで、

もっと安定した場所から。

優勝したとき。

それは“運がよかった”感じじゃなかった。

ちゃんと、自分で掴んだ感じだった。

「おやおや」

オスクリタが言う。

「優勝者じゃない」

少し考える。

「スピーチ期待してるわよ。“私の不安へ。長年の協力に感謝します”って」

アイリンは笑った。

「全部あなたのおかげじゃない」

「もちろん」

オスクリタは即答する。

「私はただ、あなたの人格の半分を建設しただけ」

あとで、ダイレンが彼女を抱きしめた。

「できると思ってた」

静かな声。

「誇りに思う」

そして初めて。

アイリンは、その言葉を“必要だから”じゃなく、自然に信じられた。

その夜。

ノートを開いたまま座っていると、世界が少し静かだった。

空っぽじゃない。

ただ——澄んでいる。

オスクリタが隣に現れる。

少しだけ穏やかだった。

前ほど鋭くない。

「ねえ」

アイリンが見る。

「そんなに悪くなかった」

「コンテスト?」

「違う」

オスクリタは言う。

「今のあなたを見るの。……なんか、不思議」

アイリンは笑う。

「じゃあ少し休めば?」

オスクリタは鼻で笑う。

「無理」

「私が消えたら、あなた安心し始めるじゃない」

少し間。

「で、そういう時ほど人間は危ないのよ」

アイリンは小さく笑った。

「そのうち、自分でちゃんと本音言えるようになるかも」

オスクリタは首をかしげる。

「それは新機能ね」

口元が少しだけ上がる。

「まあ、念のため近くにはいるけど」

数日後。

ダイレンが、一緒に歩こうと言った。

急ぐ感じでもなく。

騒がしくもなく。

夕暮れのキャンパスを、ただ歩く。

アイリンはすぐに感じた。

あの感覚。

期待。

緊張。

もっと深い何か。

心の中で、オスクリタは静かに隣にいた。

見ている。

でも、邪魔はしない。

二人は、小さな庭園の前で立ち止まった。

隠れるための雑音もない。

気を逸らすものもない。

「アイリン……」

ダイレンが静かに言う。

彼女は彼を見る。

「なに?」

「どう言えばいいのか、ずっと考えてた」

心臓が速くなる。

オスクリタが小さくつぶやく。

「……これは、ちょっと面白そう」

ダイレンが少し近づく。

慎重に。

やさしく。

「難しく考えたくない」

彼は言う。

「ただ……お前から離れたくないんだ」

その正直さが、一番強く響いた。

アイリンは後ろに下がらなかった。

疑わなかった。

分析もしなかった。

初めて。

ただ、選んだ。

ダイレンが近づいたとき、彼女は止めなかった。

キスはやわらかかった。

少し不器用で。

でも、本物だった。

そして初めて——

オスクリタは邪魔をしなかった。

キスが終わると、ダイレンは額をそっと彼女に寄せた。

「思ってたより、ずっと大事だった」

静かな声。

アイリンは一気に全部を感じる。

嬉しさ。

怖さ。

安心。

心の中で、オスクリタが少し後ろへ下がる。

消えたわけじゃない。

負けたわけでもない。

ただ——静かになった。

「へえ……」

少し考えるように言う。

「これは、新しいわね」

アイリンは笑った。

初めて——

痛くなかったから。

そして、たぶん。

だからこそ、特別だった。


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