ローズの出した答え 3
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ブランディーヌが保護されてから三日で話し合いを終えて、レオンスはブロンデル国へ帰国することになった。
アルベリク国王とラファエルと決めた内容をブロンデル国へ持ち帰り、報告と調整を行うそうだ。
賠償等を記した書類を作成するのは、レオンスがブロンデル国王と調整をつけたあとになる。レオンスが王太子であっても、独断で書類を作成し押印する権利はないからだ。
「早く調整して頂戴ね。また八年も待たせたら許さないわよ」
城の玄関まで見送りに来たブランディーヌが、ツンと顎をそらして言う。
ラファエルが苦々しい表情になったが、レオンスは余裕そうにくすりと微笑んだ。
「わかっているよ。ブランディーヌが淋しがって泣いちゃう前に調整をつけるさ」
「な――」
「来年の早いうちには、正式な婚約の書類を整えて戻って来るね」
顔を真っ赤に染めたブランディーヌに、レオンスが片目をつむってからひらりと手を振った。
「じゃあ、我儘はほどほどにして、ちゃんといい子で待っているんだよ」
「余計なお世話よ!」
ブランディーヌが赤い顔で怒り出すが、レオンスに気にした様子はなく、ただ笑って馬車に乗り込んだ。
ローズが馬車に向かって手を振ると、レオンスが馬車の窓から手を振り返してくれる。
馬車が走り出すと、ラファエルがやれやれと息をついた。
「来年の早いうちってことは、あと半年くらいでまとめるつもりなのかな。そう簡単な問題ではないと思うんだが……レオンス殿下ならやりそうだね」
「愛の力ですね!」
「あ、愛……」
「ローズ……、恋愛小説が大好きな君には恥ずかしくない言葉かもしれないけど、そういうことは少なくとも城の玄関では言うものではないかもね。ほら、姉上がおかしなことになったよ」
「あ……」
見れば、ブランディーヌがさっきよりも顔を赤くして、挙動不審に視線を左右に動かしている。
ローズとラファエルの視線に気が付いたブランディーヌは、ぱっと顔を背けて踵を返した。
「わたくし、忙しいから失礼するわ!」
そう言って、逃げるように歩き出したブランディーヌだったが、思い出したように途中で足を止めて振り返る。
「言い忘れていたわ。今夜、王宮で王妃様主催の夕食会を開くの。招待状を送るわね。……ああ、夕食会は男子禁制だから、ラファエルはついて来ても部屋に入れないわよ」
「はあ⁉ 聞いていないですよ!」
ローズが「わかりました」と返事をする前に、ラファエルが眉を吊り上げて叫んだ。
「今、言ったじゃない。それじゃあローズ王女、また夜に」
「はい、わかりました」
「勝手なことを――姉上⁉」
ラファエルの文句など聞こえないふりをして、ブランディーヌは再び歩き出す。
ラファエルが忌々しそうに舌打ちした。
「おいセドック――」
「殿下は今日、大臣と会食だろ? 無理やり予定をバッティングさせて邪魔しようにも、殿下の予定があかないから無理だな」
「……くそ! 狙ったとしか思えない」
「当日連絡を入れる時点で、十中八九狙ったんだろ」
セドックが苦笑して、ラファエルの肩をポンと叩いた。
「それに、そんな顔をしているとローズ王女が不安がるぞ」
ラファエルはちらりとローズを見て、はー、と息をついた。
「ああ、そうだな。ローズ、夕食会には行っても大丈夫だよ。……心配だけど」
王妃主催の夕食会に行ってはダメなのだろうかとおろおろしていたローズは、ラファエルの許可にホッとする。
「気に入らないことこの上ないが、母上が夕食会に呼ぶってことは、ローズを認めたってことだろうからね。それ自体は喜ばしい……と思わなくてはいけない、と思っている」
「往生際が悪いな。ほら、殿下。あと小一時間で会議だ。後回しになっていたプリンセス・ローズ号の入札について決めるんじゃなかったのか?」
「そうだったな……」
あれだけの豪華客船を遊ばせておくのはもったいないので、ラファエルは観光会社に船を貸し出すことにしたというが、希望者が殺到したせいで入札という形を取ることにしたという。
「連れてきた従業員をそのまま雇えとか、レンタル料に加えて収益の二割を収めろとか、いろいろ条件を付けたのに、驚くほど集まったな」
「そりゃぁまあ、最新の技術で作られた蒸気船だからな。使われている技術の特許の半分以上がグリドール国のものだから、うちの国で作ろうとすると莫大な金がかかるのもあって、豪華客船の製造なんてどこの会社も手を出そうとしていなかったし。それが低予算で貸し出されるとなれば、手をあげないはずがない。収益金の二割を収めたとしても、充分すぎるほどの利益が出るだろうからな」
先に行って資料の最終確認をしておくと言ってセドックが去っていくと、ラファエルがエスコートするようにローズの手を取った。
「それじゃあ、ローズ。部屋まで送るよ。早く帰らないと、ミラがここまでやって来そうだからね」
ラファエルの冗談に、ローズはくすりと笑う。
ミラはまだブランディーヌを警戒していて、今日もレオンスの見送りに彼女が来ると聞いて不安そうにしていたのだ。ローズが大丈夫だと言っても、一度刻み込まれた不信感はそう簡単には消えないようである。
「今日の夕食会、本当に気を付けるんだよ。王宮には毒花しかいないからね」
「王宮には、毒を持ったお花ばかりが飾られているんですか⁉」
知らなかった。
(お部屋とか廊下に飾られている花には、不用意に触らないようにしないと!)
ローズがきゅっと表情を引き締めると、ラファエルが何故か片手で目の上を覆って「はー」と天を仰いだ。
「不安だ……」
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