消えたブランディーヌ 3
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ラファエルの読み通り、正午が近くなって、ダヴィドであろうブランディーヌを攫った相手から接触があった。
だろう、と推測でしかないのは、手紙を持って来たのがダヴィド本人ではなく、五十歳前後のマルタン大国の女性だったからだ。
女性は三十代くらいの男に金をもらって頼まれたから、城の門番に手紙を届けに来たと言った。今回の件には、まったく無関係の女性だった。
手紙には、ブランディーヌを無事に返してほしければ、ヒルカ島をヒルカ国の元王女であるシャルダンとその息子に返還し、独立権を認めろと書かれていた。
「ラファエル様、レオンス殿下は……」
「父上のところに行っている。レオンス殿下が関与したことではないけれど、王太子である以上、責任が問われるからね」
「そんな……」
「今回の件がダヴィドの単独なのか、それとも大臣から指示があったのかはわからないけど、あまりにも杜撰な計画だ。この城にレオンス殿下がいることも考慮されていない。本気でやり合おうと思えば、こちらとしてはレオンス殿下の身柄を拘束することもできるのにね」
「そんなことをしたらブランディーヌ様が……!」
「もちろん、そんな馬鹿なことはしない。相手の愚かさにあわせてやる必要はないからね。ただ、そんなことも思いつかない愚者だってことだ」
この件がどう転ぼうとも、ブロンデル国は難しい立場に追いやられるだろうとラファエルが言う。
ゆえにレオンスは、できるだけ自国が不利な状況にならないようにアルベリク国王と交渉する必要がある。ブランディーヌが心配なのは間違いないだろうが、どれだけ心配でも王太子である彼にはそれよりも優先しなければならないことがあるのだ。
「あの、陛下は……」
「姉上に万が一のことがあれば、それなりの覚悟をとレオンス殿下に言っていた。それ以上のことは俺は聞いていないが、あちらの出方次第によっては、最悪戦争になることもあるだろう」
「そんなのダメです!」
「わかっている。俺も父上も戦争は避けたい。レオンス殿下もそうだ。だからこそ、この件は早く片付ける必要がある。長引かせれば長引かせるほどこじれるからな」
ラファエルが疲れた顔でローズを抱き寄せる。
「さっきは杜撰だと言ったけれど、相手はもしかしなくても開戦を望んでいるのかもしれないな。そうならば、やり方としては間違っていない。こちらに要求を突きつけ、飲まなかったことを理由にブランディーヌを殺害すれば、それだけで戦争をはじめる理由としては充分だ。こちらが報復にレオンス殿下を殺害すればなおのこと、戦争は避けられない」
「……戦争は、いやです。たくさんの人が傷ついて、命を落としてしまいます」
「ああ。俺も嫌だよ」
こつん、とラファエルが身をかがめて、ローズの額に自分の額をつける。
「うちの国もブロンデル国も、軍事力は大陸でも大きい方なんだ。そんなものがぶつかったりしたら、戦争は長引くだろうし、被害も甚大になる。それぞれの同盟国まで参戦して来たら、大陸全土を巻き込んだ大戦になる恐れだってある。それは絶対に避けたい。……三十年前のヒルカ国の内乱のときと違って、今度はどちらの国を亡ぼすまで止まらないかもしれないからね」
ラファエルはそこで言葉を切って、額をつけたままローズの頭をポンと撫でた。
「今、セドックが動いている。ダヴィドはこの国の人間ではないからな。ブランディーヌを攫った後でどこかに身を潜ませるにしてもほかに協力者がいるはずだ。捕らえたメイドは知らなかったから、まだほかにもいるのは間違いない。協力者を探し当てて、最悪なことが起こる前にブランディーヌを救出する」
「はい……!」
ラファエルが「救出する」と言い切ったのだ。きっと大丈夫。
(ブランディーヌ様、もう少しだけ待っていてください! ラファエル様とレオンス殿下が、必ずなんとかしてくれるはずですから……!)










