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【書籍化】未来で冷遇妃になるはずなのに、なんだか様子がおかしいのですが…  作者: 狭山ひびき
第二部 ラファエル王太子の最愛

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消えたブランディーヌ 1

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「ブランディーヌ様が来ないって、え? どういうことですか?」

「姉上は別邸にいなかったんですか?」


 ローズとラファエルがほぼ同時に口を開いて、レオンスが青灰色の瞳を揺らす。


「どういうことなのかは私もよく……。それからラファエル。別邸は使えなくなったんじゃなかったのか?」

「いや? ちょっと待ってください。別邸が使えなくなったって、誰からそんなことを聞いたんですか?」

「側近が伝言を受け取って、城のティーサロンを使うことになったと聞いたんだが」

「伝言? 誰からです?」

「ローズ王女からの伝言だと聞いたけど」

「わたし、そんなこと伝言していないですよ?」


 ローズはラファエルと顔を見合わせる。


(どういうことなのかしら?)


 何か行き違いがあったのだろうか。そこまで考えて、ローズはハッとする。


「大変! だったらブランディーヌ様はずっと別邸で待っていらっしゃるかもしれませんよ!」

「何だって⁉ ラファエル殿下、ローズ王女、急いで行ってくるよ!」


 レオンスがさっと顔色を変えて、慌てて部屋を飛び出していく。

 ラファエルは顎に手を当てて考え込んでから、ローズの手をつかんだ。


「ローズ、俺たちも行こう。ローズの名前で伝言があったというのが気になる」

「そうですね!」


 待たされたブランディーヌは不安になっているだろうし、怒っているかもしれない。ローズたちも行って、ブランディーヌに事情を説明した方がよさそうだ。

 ローズとラファエルが急いで別邸に向かうと、玄関からレオンスが飛び出して来た。


「レオンス殿下?」

「ああ、ラファエル殿下! ちょうどよかった! ここにもブランディーヌがいないんだ! これが……」


 落ちていたと言って、レオンスが少し色あせた空色のハンカチを差し出す。


「これは昔、私があげたハンカチだから……ブランディーヌのもので間違いないはずだ」


 ハンカチの隅にはブランディーヌのイニシャルと、白い鳥が刺繍されていた。


(どうしてハンカチが?)


 ブランディーヌがいなくて、ハンカチだけが落ちていたというのはどういうことだろう。

 ローズがパチパチと目をしばたたいていると、ラファエルは険しい顔になって、くるりと踵を返した。


「ローズの部屋に戻りましょう。行こう、ローズ。ここで立ち話をする内容じゃない」

「は、はい!」

「あ、ああ……」


 動揺しているレオンスが、ハンカチを握りしめたままラファエルを追う。

 部屋に戻ると、ラファエルはローズの部屋の前の兵士を捕まえて、至急セドックを呼んでくるように命じた。それから別の兵士に、城を巡回している衛兵に声をかけて、ブランディーヌが城の中にいないか調べるように告げる。

 ラファエルの雰囲気がピリピリしているから、これはよほどのことが起こったと考えていいだろう。


(なにがあったの?)


 ローズがきゅっと胸の前で手を握りしめる。

 呼ばれて急いで駆けつけてきたセドックに、ラファエルは王宮にブランディーヌが戻っているかを確認に行かせた。

 レオンスがハンカチを握りしめたまま、部屋の中を右往左往している。


「ブランディーヌ王女はいなかったぞ。何があった?」


 短時間で確認を終えて戻って来たセドックが、報告を聞いて青ざめたレオンスに視線を向けて、ぐっと眉を寄せた。

 城の中を探すように命じた兵士は戻って来ていないが、戻りが遅いところを見るとブランディーヌは見つかっていないのだろう。


「姉上がいなくなった。何かがあったのかもしれないが、情報がない状態では捜索隊は動かしにくい。周りに気づかれずに調べられるか? 城の敷地内にいなければ誘拐の線も疑ってくれ」


(誘拐⁉)


 ラファエルが言うには、ブランディーヌの行動範囲はどれだけ歩き回ってもせいぜい城の敷地内で、その外へは行かないという。城壁の内側にブランディーヌがいなければ連れ去られた可能性が濃厚なのだそうだ。

 愕然としたセドックがすぐに表情を引き締めて頷いた。


「手配しよう。ほかには?」

「ローズの名前でレオンス殿下の側近に伝言があったらしい。伝言を持って来た人物を探し出せ。姉上が城の敷地内にいなかった場合、姉上の誘拐に関与している疑いがある。レオンス殿下、側近の名前を訊いてもいいですか?」

「あ、ああ……ダヴィドだ」


 ダヴィドと言う名前には聞き覚えがあった。ローズがレオンスのハンカチを届けようとしたときに部屋にいた側近だ。


(あれ……?)


 ローズは引っかかりを覚えて、頬に手を当てた。


「ローズ様、どうかしたんですか? 気になることでも?」


 三人が話しを進めているときにぽやんとした顔で考え込んだローズにミラが気づいて訊ねて来る。ローズはおっとりと頷いた。


「ええ……。ねえ、ミラ。ダヴィドさんって、ブロンデル語しか話せない方だったわよね?」


 ローズがダヴィドに会ったのは一度きりだが、大陸共通語も話せなかったからミラが通訳に回ってくれたはずだ。

 ローズがミラに何気なく放った一言に、レオンスとラファエルが瞬時に反応した。


「確かにダヴィドはブロンデル語しか話せない」

「それならば、ダヴィドに伝言した人物はブロンデル語が話せる人間ということになるが、この国でブロンデル語が堪能な人間なんてほとんどいないぞ。……そうだろう、ニーナ」

「はい。ほとんどいないと思われます。わたくしも簡単な挨拶くらいしかできません。ダリエ夫人もおそらく読み書きができるくらいではないでしょうか? わたくしが知る限り、ブロンデル語を流暢に操れる侍女はミラくらいしかいないと思われます」

「ミラはずっとわたしと一緒にいましたよ」


 ミラに疑いがかかるかもしれないと慌ててローズが庇おうとすると、ラファエルが「わかっているよ」と苦笑する。


「だがそうなると……、ますます伝言をした人物が怪しくなるな。本当にそれは使用人か?」

「ダヴィドに訊くのが早いだろう」


 レオンスが確認してくると告げて部屋を出ていく。


「レオンス殿下の部屋に近づいた人物を全員調べよう」

「ああ。セドック、任せた」

「了解」


 セドックが調査のため部屋を出ていくと、入れ替わりでレオンスが戻って来た。走ったのだろう、息が乱れている。


「レオンス殿下、何かわかりましたか?」


 ラファエルの問いかけに、レオンスは乱れた息を整えながら、不安と焦燥交じりに答えた。


「ダヴィドがいない!」





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