ブランディーヌの心 5
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レオンスとブランディーヌが話す場所として用意されたのは、城と王宮から少し離れたところにある王家の別邸だった。
離れたところにあると言っても、城門の内側に建てられている。
この別邸は、百五十年ほど前に建てられたものだそうだ。
当時の国王はとても好色な人で、王宮に入りきらないだけの側妃や愛妾を抱えていたため、王宮に入りきらない側妃や愛妾の一部を住まわせるためにこの別邸を建てたのだという。
「城からも王宮からも離れているから、人目につきにくいだろう。ここならゆっくり話せるんじゃないか?」
ラファエルがそう言って、当日は別邸の鍵をあけておくと約束してくれた。
レオンスとブランディーヌは二つ返事で了承し、レオンスが指定した二日後の午後、密かに元婚約者同士の話し合いの席が設けられることになった。
「嬉しそうだね、ローズ」
レオンスとブランディーヌの邪魔はできないので、ローズは城の部屋で待機だが、窓際に座ってにこにこしながらここからでは見えない別邸のあたりを眺めていると、ラファエルが苦笑しつつローズの背後に立つ。
「まさかレオンス殿下があの姉上のことを想っていたなんて驚いたけど、今後どう転ぶにしても、これで二人とも一区切りはつけられるのかな」
「区切りをつけるんじゃなくて、できれば何かがはじまってほしいです」
「ローズ、現実は恋愛小説のようにはいかないものなんだよ」
少なくとも国交問題が改善しなければどうすることもできないと言って、ラファエルが背後からローズを抱きしめるように腕を回す。
「それにしても、レオンス殿下は姉上のどこがいいんだろう」
「ブランディーヌ様はお可愛らしい方ですよ?」
「どこが? まさかローズ、マカロンで懐柔されたんじゃないだろうね」
「そ、そんなことはありませんよ!」
さすがにマカロンをもらっただけで人に懐いたりはしない――はずだ。いや、どうだろう。何かをもらったらその時点で「いい人」と認識してしまうかもしれない。なぜならラファエルとはじめて会ったときも、アート・ギャラリーのパンフレットを買ってもらって「いい人」と思った気がする。まあ、結果的にラファエルはいい人だったけれど。
(うぅ、だから迂闊って言われるのね。気をつけないと……)
ローズはラファエルと結婚するのだから、隙が多いままではいけないのである。
むん、と拳を握りしめて決意していると、ラファエルが妙な顔をした。
「ローズ、その顔になんだか不安になって来たんだけど、何を考えているの?」
「ブランディーヌ様のように隙のない女性になろうと――」
「やめてくれ! 頼むから! あれは手本にしたらダメだ!」
「?」
全力で止められて、ローズは「ん?」と首をひねる。
「だいたい隙がないというが、隙がなかったらローズに手をあげて謹慎させられるようなことにはならない。あれは隙がないのではなくて、気が強くて感情的で身勝手なだけだ。ローズは何も手本にしなくていい。今のままで充分だから、余計なことは考えないでくれ」
(でも、今のままだったら迂闊なのよね?)
何が正解かわからず、むぅっと唸っていると、ラファエルがローズを抱きしめる腕に力を籠める。
「頼むよローズ。俺はあの姉が苦手なんだ。ローズに悪影響があると思うと、姉上を地中深くに埋めるか、海の底に沈めてやりたくなる」
「だ、だめですよ!」
なんてことを言うのだろう。
ローズが青くなると、ラファエルが小さく笑って「もちろん、本当にできるとは思っていない」という。
「だが、さっさとブロンデル国との問題が片づいて、姉上がレオンス殿下に回収されればいいのにとは思っている」
言い方はどうかと思うが、それはつまり、ラファエルもレオンスとブランディーヌの恋路を応援してくれているということだろうか。
(なんだかんだ言って、ラファエル様はやっぱり優しいわ)
ローズはふにゃりと笑った。
ラファエルは、現実は恋愛小説のようにうまくいかないと言ったけれど、上手くいくことだってある。少なくともローズは、ラファエルと出会い、こうして側にいられることは、恋愛小説のように――いや、それ以上に素敵なことだと思っていた。
(今頃どんなお話をしているのかしら?)
お互いの気持ちを確かめて、優しい抱擁を交わしたりしているのだろうか。想像するだけでドキドキする。
二人の邪魔をしてはいけないという気持ちと、どうなったのか早く知りたいという気持ちがせめぎ合って、ローズがそわそわしはじめたときだった。
「ローズ様、お客様が……」
ローズとラファエルに気を遣って壁際に控えていたミラが、戸惑った顔で声をかけてきた。
「お客様?」
「はい、それが……」
ミラがそっと扉を開く。
ローズとラファエルは振り返って、そしてお互いに目を丸くした。
「レオンス殿下?」
扉のところには困惑顔のレオンスが立っていた。
レオンスはローズとラファエルを交互に見て、そして――
「いつまでたってもブランディーヌが来ないんだが、二人とも何か知らないかな?」
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