激怒する過保護組 3
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夜になって、ラファエルが部屋にやって来た。
毎日組まれているヒルカ島の話し合いに加えて、ブランディーヌのことで国王アルベリクと面会していたラファエルには、ゆっくり食事を取る暇もなかったようで、昼も夜も今日は一緒に食事ができないと遣いが来ていた。
そしてようやく落ち着いたのが、ローズが就寝をする少し前の時間だったようで、頬のことを気にしているラファエルは、一目だけでも様子を見ようと部屋を訪れてくれたのだ。
「腫れは引いたようだね。赤みもない」
ローズの頬を確かめて、ラファエルがホッと息をつく。
ミラに頼んで二人分のハーブティーを用意してもらうと、ラファエルと並んでソファに腰かけた。
「あの、ブランディーヌ様はどうなったのでしょうか?」
ラファエルはブランディーヌを拘束して部屋に閉じ込めたが、あれからどうなったのだろうか。まさかまだ閉じ込められたままなのだろうかと、ローズは心配になる。
(頬を叩かれたと言っても、たいしたことなかったのに、いつまでも閉じ込められていたら可哀そうだわ……)
ブランディーヌにも事情があったのだろう。できればその事情は知りたいが、必要以上に罰したりしてほしくない。
ローズが叩かれたことについては、昼すぎにアルベリクがわざわざ部屋にやって来て謝罪してくれたのだ。国王自ら謝罪と言う充分すぎる対応を取ってもらったのだから、これ以上の罰は必要ない。
しかしラファエルは、石榴色の瞳に冷たい気配を宿して、薄く笑った。
「心配しなくても、もう二度とローズに近づけなくするから大丈夫だよ」
「ち、近づけなくするって、何をするつもりなんですか?」
嫌な予感がする。
ローズが真剣な顔をすると、ラファエルが微笑を浮かべたまま教えてくれる。
「父上と話し合って、当面は王宮の部屋で謹慎させることにしたんだ。そのあとは、できるだけ王都から遠いところに領地を持っている適当な貴族に嫁がせることになったよ」
「え……。ど、どうしてそんなことに……!」
ローズの頬を叩いただけで、その処罰は重すぎるのではなかろうか。
(謹慎はまだしも、強制的に嫁がされるなんて……!)
王女である以上、結婚相手は国王や王太子が決めるというのはわかる。国にとって有益だと認められた相手に嫁ぐのは、王族に生まれた義務のようなもので、結果的に好きな人と結婚できるローズが例外なだけだ。
けれど、それでも結婚は祝福されるべきものだし、嫁いだ後は幸せになるべきだとローズは思っている。恋愛小説の読みすぎと揶揄されようと、幸せになれない結婚なんてつらすぎるだけだ。
(でも、ラファエル様の言ったやり方だったら、結婚自体が罰みたいだわ!)
罰として嫁がされるブランディーヌも、それを受け入れる側の相手にも、その認識はずっとついて回る。それでも愛し愛されて幸せになれるかもしれないけれど、祝福ではなく罰で嫁がされるのはやっぱり何かが違うのだ。
少なくともローズは、みんなに祝福されて結婚したい。ブランディーヌも、きっとそうだと思う。
それなのにラファエルは、「幽閉にならなかっただけ甘い処置だ」と言い出した。
「ローズが軽傷だったことと、ミラの罪を完全に不問にする条件で、ブランディーヌの処罰も減刑されたんだ」
「減刑って……」
ラファエルはそう言うけれど、ローズはやっぱり重すぎると感じる。
(やっぱりこのままじゃダメ……!)
ローズには決定を覆すだけの力はないけれど、このまま知らない顔はできない。
「ブランディーヌ様にも、きっと理由があるはずなんです」
「理由があったとしても許されることじゃないし、姉のことだ、あったとしてもどうせたいした理由じゃないよ。昔から感情的で自分勝手だからね」
「そうだとしても、わたしはその理由が知りたいです! その理由を知ったうえで、もう一度、ブランディーヌ様への罰を再検討していただけないですか?」
「どうしてローズが姉上をかばうの? 君は被害者なんだよ?」
「理由も確認せず、強制的に処罰するのはおかしいと思うからです」
ラファエルと国王の決定に異を唱えているローズは、とても失礼なことをしている自覚はある。この国のトップである二人の決めたことに意見するのは、間違いなく不敬なことだろう。ローズの中にラファエルならば聞いてくれると甘えがあることも否めないけれど、ローズは黙っていられなかった。
「これは、わたしとブランディーヌ様の問題だと思うんです。わたしはブランディーヌ様に理由を聞きたいです。当事者のわたしがそれを望むのは、おかしいですか?」
「……つまり、姉上に会いたいってこと?」
「はい」
「却下」
ラファエルは即答した。一瞬も考えてくれなかった。
「君がまた傷つけられたら大変だ」
「わたしは大丈夫ですから、お願いします!」
それでもローズが頼み込むと、ラファエルが渋い顔をする。
部屋の隅でその様子を見つめていたミラもハラハラした顔をしていた。口を挟みたいけれど、ラファエルの手前黙っていようと頑張ってくれているようだ。
(出しゃばりかもしれないけど、このままなのは嫌だわ)
ローズが会いに行くことで、ブランディーヌをさらに怒らせてしまうかもしれない。それでもローズは、強くなると決めたから、自分の目で、耳で、理由を確かめたかった。
「王宮のことは王妃――母上の管轄だ。姉上の謹慎の件も、決めたのは俺と父上だが、管理は母上に任されている。どうしても君が姉上に会いたいというのならば、母上から許可を得る必要があるが、無理だと思うよ」
「どうしてですか?」
「姉上の処罰は決定したことだからだよ。その上でローズが会いに行く必要性がない。母上は王宮の秩序を一番に重んじる人だ。……ローズが姉上に会いに行くことで、それが壊される可能性がある以上、きっと母上は認めない」
「そんな……」
「ローズが気に病まなくていい。この件については忘れるんだ。ミラもほら、心配しているし。ね?」
(……でも)
ローズは口を引き結んで視線を落とす。
ラファエルがそんなローズの頭を撫でて、静かに立ち上がった。
「寝る前に長居をしたね。もう帰るから、ローズも早く休んだ方がいい。そしてこの件はもう忘れるんだ」
ラファエルが去っていくと、ミラが笑顔で寝るように薦めて来る。
ローズは暗い表情で立ち上がった。
ミラに促されてベッドへ向かおうとすると、ニーナがミラを呼び止める。
「ミラ、ティーセットを片付けてくださいますか? ローズ様の寝支度はわたくしが」
ミラが不可解そうな顔をしつつも、ティーセットを出しっぱなしにはしておけないので、あとのことをニーナに頼んで部屋を出ていった。
ローズの寝支度を手伝うのはいつもミラだったので、ローズも不思議に思っていると、ニーナがミラが出て行ったのを確認してそっと声を落としてささやく。
「王妃様にはわたくしがお話ししておきます。王妃様から呼び出しがあったという形にすれば、ラファエル殿下も口出しはできません」
ローズがハッと顔をあげると、ニーナが小さく微笑んだ。
「ブランディーヌ様に向き合おうとなさるその姿勢は、とても素敵だと思いますよ。少なくとも、わたくしは。さあ、ミラが帰ってくる前にお休みください」
「ありがとう、ニーナ」
「礼を言われることではありません。あの二人は、少々過保護がすぎますからね。それでは、おやすみなさい」
ローズがベッドにもぐりこむと、ニーナが部屋の灯りを落として控室に下がる。
(ご命令に背いてごめんなさい)
ラファエルは忘れろと言ったけれど、ローズはどうしてもこのままにはしておけないのだ。
ローズは心の中でラファエルに謝罪して、ゆっくりと目を閉じた。
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