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【書籍化】未来で冷遇妃になるはずなのに、なんだか様子がおかしいのですが…  作者: 狭山ひびき
第二部 ラファエル王太子の最愛

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激怒する過保護組 2

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 ラファエルが去ると、ややして女医も部屋を出て行った。

 ダリエ夫人も、この状況で授業を続けるのは無理だと判断して、ローズに「お大事に」と一声かけて去っていく。

 ローズがミラから濡れタオルを受け取り自分で頬を冷やそうとしたのだが、ミラは頑なに首を横に振って濡れタオルを離さない。


「わたくしがしますから、ローズ様は楽になさっていてください」


 その心配で泣きそうな顔を見る限り、ミラがローズが叩かれたことに責任を感じているのは明白だ。


「ミラ、そんな顔をしなくても、わたしは大丈夫よ? 痛みもあまりないし、お医者様もすぐに腫れも引くって言っていたでしょ?」


 ミラが責任を感じる必要はないと言うけれど、ローズを守ることに使命感を覚えているミラには通じなかった。

 ローズの境遇がそうさせたのか、グリドール国にいたときからミラは過保護だったけれど、マルタン大国に来てからそれに輪をかけて過保護になっている気がする。


 もしかしたらミラは、この国でローズを守れるのは自分ただ一人だと、過剰なまでに責任を感じているのかもしれない。

 グリドール国にいたときもローズの味方はほとんどいなかったが、それでもアリソンがいた。ローズが他者からの悪意にさらされたとき、アリソンが裏から手を回してローズを守ってくれていたことを知っている。


 けれど、ここにはアリソンはいない。母親の分もローズを守らなければと、ミラは考えているのだろうか。


(そんなこと、しなくていいのに)


 ローズは、ミラが一緒に来てくれただけで充分なのだ。ローズのために、ミラの立場が危うくなるようなことはしてほしくない。


「ねえ、ミラ」


 これはこのままにしておくことはできないと、ローズは濡れタオルで頬を押さえてくれているミラの手に自分の手を重ねた。


「さっき、わたしのために怒ってくれたことは、すごく嬉しかったわ。それは本当よ? でもね、もうあんなことはしないでほしの。王女殿下に逆らって、もしミラが不敬罪で捕まったらと思うと、わたし……」


 本当にそうなったらどうしようと想像してしまったからだろうか、ローズは途中で言葉に詰まって口を閉ざす。

 ラファエルがきっと何とかしてくれると信じているけれど、ミラは本当に危ないことをしたのだ。


(マルタン大国の法律はグリドール国と違う。詳しくはわからないけど、グリドール国よりもマルタン大国の方が、王族への不敬罪はかなり重たかったはずよ……)


 言語習得に夢中になっていたけれど、一番に覚えなくてはならないのは法律かもしれない。ローズはミラが不敬罪で最悪死罪になっていたかもしれないと想像してゾッとする。


「お願いよ、ミラ。あなたにもしものことがあったら、わたし、どうしていいかわからないわ……」


 実の家族から家族扱いを受けず育ったローズにとって、ミラは家族なのだ。姉のような存在なのである。

 ローズの必死のお願いに、ミラは難しい顔で顔を俯かせた。


「ローズ様がわたくしのことを大切に思ってくださっていることは知っています。でも、わたくしもローズ様のことが大切なんです。ローズ様が害されて黙っていることはできません」

「ミラ……!」


 どうすればわかってもらえるのだろうと、ローズがきゅっと唇をかみしめたとき、黙って二人のやりとりを見ていたニーナがため息交じりに口を挟んだ。


「ローズ王女殿下。あなたは少し勘違いをなさっているようです」

「ニーナ?」

「ローズ王女殿下がいくら口で言おうとも、ミラは今後も同じことをするでしょう。いくら言葉を重ねたところで無駄なのです。ローズ王女殿下が今のままであるかぎり、おそらく今後も同じことが起こりますよ」

「わたしが……?」


 ローズがびっくりして目を丸くするのと、ミラが顔をしかめるのは同時だった。


「ニーナ! ローズ様に失礼なことを言わないでください!」

「ミラ、あなたもです。そうして大切に宝物のように守りたくなる気持ちはわからなくもないですが、それだけだと何も変わらないんですよ」

「変わらなくて結構です! わたくしが、全身全霊でお守りすればいいことでしょう⁉」


 ミラがニーナに食ってかかるが、ローズにはそれを止めることはできなかった。

 ニーナに言われたことがショックで、固まってしまっていたからだ。


(わたしのせい……?)


 ローズが頼りないから、ミラは過保護になるのだ。ミラがローズを守ろうとするように、ミラを守れるのもまた、主であるローズしかいないのである。


(どうして今までそんな簡単なことにも気づけなかったの……?)


 変わる必要があるのはミラではない。ローズなのだ。

 ブランディーヌに叩かれたとき、ローズがすべきことは茫然とすることではなかった。

 ローズが毅然とした態度でブランディーヌに接することができていれば、ミラはブランディーヌに対して不敬な態度を取ることも、言うこともなかったのである。

 ローズが茫然として何もできないでいたから、代わりにミラが動いたのだ。怒ったのだ。すべてはローズが招いたことだった。


(それなのにわたし、ミラに失礼なことを言ったわ……)


 ローズが頼りないからかばってくれた人に対して、もうしないでほしいなんて、どうしてそんな偉そうなことが言えたのだろう。

 ローズはそっと自分の小さな手を見つめて、ぎゅっと拳を作る。


(今までみたいに、部屋の中で何もしないでいられる立場じゃない)


 ずっと、自由になりたかった。

 冷遇され、閉じ込められ、人の目を恐れて生きてきたローズは、自由の外の世界を歩いてみたかった。けれど、わかっていなかったのだ。自由になるということは、そんなに簡単なことじゃない。


 空を自由に飛び回る小鳥たちが、時に猛禽類の脅威にさらされるように、外に出たからには何かしらの事件は起こる。それを自分で対処できるようになってはじめて「自由」と呼べるのではなかろうか。

 今のローズは、愛玩されていた小鳥が鳥籠から出たいと暴れて、飼い主の肩にとまって散歩をしているようなものだ。――今のままでは、ダメなのだ。


(守ってもらうだけじゃダメ。わたしがミラを守れるようにならないと……!)


 いつまでも、頼りなくて守られているだけの立場ではいられない。


 ――強く、なるのだ。





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