四十四話 ラストスパート
サクラのダンジョン攻略がながびきそうなので、そろそろ終わりそうなリョウのダンジョン攻略を優先して書かせてもらいます。
攻略開始から、一時間が経過した今、リョウ一行は、ダンジョンの最終層である地下10階の、一歩手前である地下9階の階段広場前の通路で、壁を背に身を潜めていた。
二人は、同時に唾をごくりと飲み込んだ。
なぜなら、階段広場には番人である巨大なゴーレムが佇んでいたからである。
ゴーレムの全長は、約15メートルに登る。
身体はレンガのようなもので作られていて、右半身を前に出した状態で、微動だにしない。
番人と呼ぶに相応しい、冷酷な風貌だった。
これまで、リョウ達はこのダンジョンにおいて、数々の苦難を乗り越えてきた。
ゴブリン軍団から始まり、フィールドを変化させる魔法を持つ魔物や、悪質なトラップ…………。
だが、このゴーレムの風格は、それらの恐ろしさを遥かに上回っている。
リョウ達は今まで以上に念入りに気を引き締め、武器を強く握りしめた。
「行くぞ」
静かに、そう語りかけた。
二人は跳ぶ。
砂埃を巻き上げ、跳ぶ。
それと同時にゴーレムも目を赤く光らせ、両腕を振り上げて起動した。
「イフリートォッ!」
リョウは、杖を天空に突き上げ、声高々に召喚魔法を詠唱し、上空に巨大なる赤き魔法陣を展開した。
そこから、燃え上がる身体に、燃え上がる戦斧を持った、炎の魔人、イフリートが、上空でローリングをして、地を響かせて華麗に着地する。
リョウは、そのイフリートの背に飛び乗る。ザルゴも同様だ。
燃え上がるイフリートの身体に着地できているのは、リョウが持つ、青の呪符を身体中に貼り付けているからである。
「行けぇっ!」
リョウの叫びに、イフリートは雄叫びで応じ、ゴーレムに向かって走り出した。
対するゴーレムは、イフリートの突進を前に、どっしりと構え、その大木のような……大木より巨大な腕を振りかぶった。
それに、イフリートは跳んだ。
巨大な戦斧を振り上げて、ゴーレムに吸い込まれるかのように飛来した。
両者、激突。
拳と戦斧が織り成す、パワーとパワーのぶつかり合いに、大地はたちまちめくり上がる。
稲妻が迸る、彼等だけの特別な戦場。
彼等の競り合いに邪魔は無い。
ただ、相手のパワーを感じ取り合いながら、それに負けないよう全力を尽くす。
震える腕。
震える空気。
震える大地。
数々の物という物を巻き込みながらにも、ついにその競り合いに結果が告げられた。
引き分けだった。
両者は拳と戦斧の間を中心に起こった、大きな爆発によって弾かれた。
地面を足で滑り、歯をくいしばるイフリート。
だが、その背に乗るリョウは笑っていた。
「でぃああああああああああアッ!」
のけぞったゴーレムは、態勢を立て直した瞬間に、とある衝撃を顔に受けた。
その衝撃は物理的なもので、威力も伊達ではなく、ゴーレムの顔を砕くほど強力であった。
ザルゴの大剣だ。
ザルゴは、あの爆発が起こる刹那に、イフリートの身体から跳躍し、ゴーレムがのけぞっている間に接近し、ゴーレムがザルゴを視覚に捉えた瞬間に、渾身の一撃を放った。
その一撃は、確かに功を奏し、ゴーレムの顔面を見事打ち砕いた。
視覚が朧げなゴーレムは、せめてもの報いとして、仰け反りながらも拳を振りかぶり、上空で身動きが取れないザルゴを打った。
「ザルゴぉっ!」
硬いレンガが猛スピードで直撃した衝撃は凄まじく、ザルゴは吹っ飛んでしまい、背面の壁に背中を叩きつけられた。
そして、地面にうつ伏せのような形で落下したザルゴは、震える左手を地面について上半身を起こし、右目が腫れたためによく見えない視界に、拳を突き出したゴーレムを捉え、ニヤリと笑って吐血した。
「……ックソ、痛ぇ、じゃねぇか」
本来なら、痛いだけでは済まないはずだが、今はリョウの呪符の効果で、痛みもほぼ半減している。
だが、それでも大変な痛手だ。
片目は潰れ、頭からは顎にかけて血が滴り落ち、内臓が揺さぶられ、吐き気や吐血が止まらない。
だが、それでもザルゴは笑っていた。
ランク昇格に、相応しい相手だと。
そう思いながら笑っていた。
よろめきながら、大剣を杖代わりに立ち上がり、叫ぼうとしてまた血を吐く。
「あとは任せろ!」
先にリョウが叫んでいた。
彼は、イフリートをある意味操縦できる為、自分のような事態にはならないだろうと、力なく息を吐いて安堵した。
それが最後の力だったのだろうか。
身体の状態を保てなくなり、フラフラとよろめいて二歩下がり、勢いを乗せて座りこんだ。
朧げな視界を、目を閉じることによって遮断し、彼は色褪せた夢を見る。
過去だ。
過去が見える。
小さな足を前へ前へと突き出し、大きな大きな背中に、頑張って追いつこうとしている、過去の自分。
その大いなる勇姿に、ただひたすら憧れて、彼の背中を追っていた少年時代。
彼が知る大剣使いの背中は……
いつも大きくて、そして、温かかった。
自分は何故、こんな夢を見ているのだろうか。
もしかして、これは走馬灯なのか。
過去。
懐かしい。
いつまでもこのような夢を見ていたい。
彼は、そう思った。
◆
とある小さな村に住む、小さな小さな子共。
彼の名前は、ザルゴ・ルーシャフォール。
なんでもない、ただの平民の家に生まれた、わんぱくで好奇心溢れる男の子だった。
彼はある日、親の目を逃れて、深夜、村の外の森へと向かった。
友達と、肝試しをする約束をしていたのだ。
本当はしてはいけない約束なのだが、彼は好奇心旺盛であるために、してしまったのだ。
夜の森は危険だ。
凶暴な魔獣たちが徘徊し、そこに迷い込んだ旅人がミンチにされて見つかったという事も、過去に何度かあった。
だが、彼はそれに対する恐怖よりも、未知への好奇心が打ち勝ってしまい、深夜の暗い夜道を、鼻歌を歌いながら意気揚々と進んだ。
待ち合わせ場所である、森の入り口に、約束した時間よりも少し早めに着いた。
一本の木に背を凭れ、右足のつま先を、緩やかな一定のリズムで地面へとつつきながら、友達が来るのを待った。
だが、いくら待っても、友達は来ることはなかった。
そこで、先に行ってしまったのか、と思い、帰るという手段を捨てて、森へと入っていってしまった。
しばらく道無き道を進んでいると、彼の目にあるものが止まった。
岩に乱雑に掘られた、小さな穴と……
その穴の入り口に置かれていた、犬のマークが目立つサンダルだ。
そのサンダルを、彼は拾い、見つめる。
記憶に間違いがなければ、友達が今日履いていたサンダルだ。
そして、視線を穴の奥へと移す。
そこは暗闇に包まれていて、先が見えなかった。
ただ、彼は、その先が見えない穴の奥から、何か違和感を感じた。
何か、胸騒ぎがするほどの違和感が。
その違和感の正体を探りに、彼は闇の中を、ゆっくり、ゆっくりと進んでいった。
何故、彼の脳には帰るという選択肢がないのだろう。
その先は、紛れもなく、今の『悪夢の巣窟』の地下1階だった。
先日お湯による火傷を左足に負いました。
そして、僕の左足は、闇の紫色へと変貌しました。(青紫色に腫れた)
怪魔が僕の左足を突き破り出てこようとしています。(水膨れ)
今日、聖水と、純白の女神により、やっと封印できました。(薬と包帯)
皆さんもお湯にはくれぐれも気をつけてください。
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