三十八話 球体の秘密を求めて
更新が遅れて大変申し訳ありません。
最近遅れてばかりですみません。
「……っしゃぁー! 終わったぁー」
と、目元にクマができた状態で、椅子をゆりかごのように傾け、頭に両手を回し、達成感を味わうように、その言葉を吐き出すリョウ。
時刻は、まだ暗いが明け方で、彼は昨日の朝から起きっぱなしだ。
狭い宿の一室の中、何故彼がこのような時間まで起きていたかというと、それは言うなれば、研究、開発だ。
その証拠に、彼の机の真ん中には、長方形の赤い札があった。
これは、呪術札。
リョウが、今より強くなる為の札。
「ーーっと、……こいつはかなりデカイぞ、使うのが楽しみだなぁ」
赤い札を両手で持ちながら、今日行うであろう戦闘に夢を膨らます。
「……ふぁぁぁあっ、眠っ、死ぬ……」
と、気づいたら、徹夜をした後の、あの頭がすっからかんになったような感覚に襲われる。
足元も、フラフラで今にも倒れそうだ。
ひとまず札を机に置き、フラフラと、危な気に歩きながら、ベッドに勢いよく倒れ込み、そのまま眠ってしまった。
それからリョウが目を覚ましたのは、地球で言う、午前と午後が入れ替わる時間帯だった。
おもむろに状態を起こし、鏡を見る。
黒髪がボサボサだった。
クマは治ったが完全とはいかない、だが、よく見なければ見えない程度だ。
街行く人達にはバレないだろう。
洗面台に行き、桶に溜めておいた水で顔を洗う。
桶に溜めておけば、いちいち汲みに行くことはないので便利だ。
完全に意識を覚醒させ、リョウはローブを羽織って部屋を出る。
フロントに時間をかけて外出をする確認を取り、食堂へ向かう。
「おっと、サクラ忘れた。あいついっつも起こしにくんのに、今日はどしたんだろう」
道中、頭を掻きながら、そんなことを思い出す。
サクラは、いつも朝早く、リョウを起こしにくるが、それは、前に父親に何度かやっていたことだ。
ちなみに、彼女の父親が死んだ日には、たまたま父親が先に起きて外出をした。
父親が死んでしまった今では、こうして毎朝、リョウを起こしに来ている。
「……うーん、ま、あいつのまず飯食うぐらいなら、起こさない方がいいな」
苦笑しながら言う。
余談だが、彼女に内緒で、彼女に料理を教えているリンダという女性に、「なんちゅうもん食わせんだ!」なんて文句を言いに行ったところ、「まずは自由に料理させることで、料理を作る楽しさを味わってもらうの」と、和やかに微笑んでいた。無論、「いやあれはマズすぎだわ! 昇天しかけたわ!」と、怒鳴った。
と、てくてく歩いてるうちに食堂についた。
ちなみに、リンダが経営している食堂だ。
ここならギルドにほど近いので、便利だ。
「いらっしゃいませ……あら、スバルくん、いらっしゃい」
リョウのリョウという名前は、軽く言いふらしたら惨事になるので、サクラ以外には言っていない。ナビどらごんにもだ。
「ども、うわ、お客いっぱい……」
「この時間帯はだいたい毎日満員よ。腕がなるわ〜」
「ふーん、まぁ、確かに、リンダさんの料理はどれもうまいからな」
「ありがとうスバルくん。席はここでいい?」
「つっても、そこしか空いてないだろ」
「まぁね」
リンダがリョウを席まで案内し、席を引く、カウンター席だが、一人でテーブルは使わないので丁度いい。
「リンダさんって、食材の調達とかどうしてんの?」
「えっとねぇ、野菜は朝市で戦争したり、家で育ててるけど、肉や魚はギルドに頼んでるの」
「へぇ〜、あ、んじゃあ、肉欲しい時言ってよ、ちょっくら狩ってきてやるからさ、依頼料なしで」
「えっ? いいの?」
「だけど、その後、無料でハンバーグ振舞ってよ?」
「もちろんよ! その方がお得だしね!」
実際、ギルドに1000エル、2000エル払って依頼するよりは、リョウが言った交渉の方が、1000エル程度安くつく。
「じゃあ、今日はミートボール定食で」
「はーい」
返事をしながら、リンダは厨房に戻っていった。
リョウは一息つき、懐からあの黒い球体を取り出す。
「……あれ」
と、ここであることに気づいた。
球体が以前より一回り小さくなっていた。
「……マズイな、早くギルドに出さないと」
リョウは、時間が経過するうちに球体が黒くなっていった前例を思い出し、それを元に、このまま放置しておくと、いずれ消えてしまうと推測した。
しばらく待っていると、料理がやっと運ばれてきた。
色鮮やかなミートボールに、舌鼓を打ち、リンダの腕前に流石だと感嘆する。
料金を払い、店を出る。
次の行き先はギルド……といっても、すぐ近くだ。
ここで、球体の鑑定の依頼ついでに、クエストも行うつもりだ。
ドアを開ける。
「近くに新しく、『エムズ・ワールド』っていうダンジョンが現れたらしいな。今、調査に行ってるだとか?」
「はい、筆頭にインダルさんを置いたパーティで、現在攻略してます」
入って目に飛び込んだのは、大剣を背負ったチャラい男が、カウンター台に寄りかかって、受付嬢と話している光景。
「あ、そういや、サクラはダンジョン行ったんだっけ」
リョウは、研究に夢中になりすぎて、すっかり忘れていた。
退院したばかりなのによくやるもんだと感心し、男と受付嬢の話を小耳に挟みつつ、珍アイテム鑑定嬢へと向かう。
「インダル!? まさか! あのインダルか?」
「はい、コードネームヒドラ、冒険者ランク183の凄腕、インダル・ボアホスさんですよ」
「うぇ〜、マジかぁ。オレあの男見たことあるけど、あの覇気には耐えられんわ」
「ですよね。私も初めて見た時、怖くてたまりませんでした」
「へぇ〜、ホロアちゃんが? え〜その時のホロアちゃん見たかったなぁ〜」
「クエスト、受けるんでしょう?」
「ハイ無視ね。分かりません。……ところでさぁ、エムズ・ワールドって名前ダサくない?」
「……うーん、私も、はっきり言ってダサいなぁ、と」
「だよねだよね、その名前つけた人誰よ」
「ガイっていう人ですが」
「じゃあそいつに言ってやれよ、あんたネーミングセンスねぇなってさぁ!」
「……考えときます」
「……まぁ、俺もダサいと思う」
素直な感想を口にしながら、鑑定嬢の鑑定を待つ。
見ると、なにやら鑑定に手こずっている様子だ。
「……くっ、アタシに分からないものがあるとは……」
「……やっぱわかんないんのか?」
「あぁ、ただの宝石かと思ったらそうじゃないみたいだ」と言いながら、ルーペを使って球体の細部まで見ようとする。
「こいつ、おかしい、中でなんかが動いてる。心臓みたいにな」
鑑定嬢は、球体をリョウに返す。
すると、舌を打って、目をそらしながら言った。
「アタシ程の鑑定嬢で分からないんなら、悔しいが、ルッガっていうおっさんに頼むしかねぇ。あのおっさん、ドワーフで、長生きしてんだ。だからなんか知ってっかもしんねぇ」
「ドワーフ? ンママ村か?」
ドワーフの多くは火山の頂上付近に住んでいる。
この大陸の火山は一つしかない。
イワスノウィ・マウンテンという、雪の街イワスノウィの、ほぼ隣に位置する火山だ。
そして、その火山の頂上付近には、ンママ村という、小さな村が存在する。
だが、鑑定嬢は、首根っこを掻きながらリョウの言葉を否定する。
「いいや、違う。あのおっさん、変態だからさ、魔物が大好物なわけよ。だからなんと、あるダンジョンの最深部に住んでる」
「ダ、ダンジョン? 正気か?」
「アタシも聞いたときゃ、びっくらこいたよ。なんでも魔物を飼いならしてるだとか。だから、そんな危険なとこに住めてるってわけさ」
「へ、へぇ。変わってんなぁ」
ちなみに、リョウが召喚しているユニコーンやサラマンダーは、精霊なので、魔物ではない。
その上、契約というものをしている。
召喚獣達を、飼いならしているわけではない。
ので、リョウもさすがにその事には驚いた。
「で、そのダンジョンってのは?」
「『悪夢の巣窟』。結構な難易度のダンジョンだ。あんた、いけるか? ランクは?」
「99だ」
「それならなんとかなっかもだな。……さて、アタシの役目はこれで終わり、あとは受付嬢に頼みな」
「あぁ、ありがとな」
「いいってことよ」
笑顔で手を振る鑑定嬢を後にして、次はクエスト受付嬢のもとへ向かった。
受付嬢とチャラい男は、まだ話をしていた。
リョウはこの男はナンパでもしているのかと、迷惑そうな目で見た。
「仲良くしてるとこすまないが、ちょっといいか?」
「あ、はい、スバルさん……ですね」
言いながら、受付嬢は書類をパラパラとめくりながら言う。
ギルドの受付嬢は凄まじいと、リョウは思う。
なんせ、世界に幾多といる冒険者の名前と顔を、きちんと覚えているからだ。
この世界に転生する前に、よくやった、MHのゲームでは、ギルドカードがあった。
この世界には、そのギルドカードが無いのだ。
つまり受付嬢が、冒険者の名前を全て覚えているのだろう。
いったいどこでどんな訓練をすれば、こんな凄まじい記憶力を持てるのだろうと、リョウは何度も気にかけたことがあった。
「お、にいちゃんクエスト受けんの?」
先程まで受付嬢とおしゃべりしていた、大剣使いのチャラい男が、初対面のリョウに馴れ馴れしく話しかける。
「あぁ、お前は?」
「オレはザルゴ! 今からランク100にするためにさ、なんのクエにすっか迷ってたとこさ」
親指で自分を指差しながら、ニカッとガッツポーズするザルゴ。
「へぇ……俺はスバル」
ザルゴが先に名乗ったからには、リョウも名乗らなければならない。もっとも偽名なのだが。
受付嬢に首を回し、目的を伝える。
「これからダンジョンに行くんだけど、『悪夢の巣窟』ってどの辺?」
「悪夢の巣窟……ですか、それなら……」
「ちょっとちょっとちょっとちょっと!」
受付嬢が、悪夢の巣窟の場所を伝えようとしたところ、それを声で遮って、ザルゴがリョウの肩に手を置く。
「な、いきなり何?」
「スバルっちダンジョン行くの? しかも悪夢の巣窟だって?」
「あ、あぁ。それが?」
「いいじゃん! 決めた! 俺もそこ行く! スバルっちと一緒に!」
「は、はぁ?」
友達に読みづらいと指摘されたので、改行を多めにしてみました。




