三十七話 出発
更新が遅れて、大変申し訳ありません。
サクラが入院してから、三日と半日が経過した今、サクラの容体は全快し、医師から退院の許可を得ていた。重傷を負ったはずだったが、今の、魔法が取り入れられた医療技術にかかれば、二日程度で完治することができる。
ので、退院手続きをした後、リョウに迎えられ、今は耳が遠いフロントの宿に、部屋をとって休んでいた。もうここは、リョウ一行のお馴染みの場所となっていた。
退院したばかりなのだが、ダンジョンへの出発は、今日の夕方あたりだ。のんびりしてもいられないので、少しでも身体を慣らしておこうと、サクラは部屋で剣を抜き、ユニコーンに電気の溜めかたを教わりつつ、狭い部屋の中で、物を壊さないように細心の注意を払いつつ、剣を振るっていた。
剣は長剣だが、エンチャントの効果で、羽根と同じくらい軽い。退院後のリハビリとしては、ちょうどいいものだ。
しばらく剣を振るっていると、ユニコーンが言っていた通り、刀身の周りに、淡い輝きを放った、黄色い雷がコーティングされた。これで、電磁砲や、流星を使用できるだろう。
とはいえ、ダンジョン内は狭い洞窟だ。何れかの技を使用するとしたら、電磁砲のみになるだろう。しかし、電磁砲は、流星とは違い、飛び道具を使った遠距離攻撃で、それに加え攻撃範囲が広いので、サクラより前衛の仲間に当たってしまう可能性がある。何れにせよ、使用は難しいだろう。となれば、なるべく能力を使わずに、己のパワーのみで敵を倒す事が、妥当な手段になるだろう。
「難しいなぁ」
能力は高いのだが、個々の技に、どうも協調性が足りないようだ。
「おまけにいちいち電力を溜めなきゃいけないし……」
『……何か、私の悪口のように聞こえて、良い気持ちがしないのだが……』
「はっきり言って使えないような……」
グサッ
『やめて、サクラたん。精神的に持ちそうにない』
「あっ、ごめん」
サクラも流石に、ユニコーンがキャラ崩壊するほど傷ついたなら、自分の能力と同時にユニコーンの能力であるものに、ケチをつけるのはやめにしたほうが良いと悟った。
◆
しばらく剣を振っていると、出発の時がいよいよ迫ってきた。サクラは剣を鞘に戻し、それを背中に背負う。部屋を出て集合場所であるギルドへと足を運んだ。そこには、サクラ以外のパーティメンバーが、ヌーバを除いて全員集まっていた。皆、鎧やロープなどで、装備を固めていたが、サクラだけは普段着、つまり布装備だ。
「……やっと来たかと思ったが……なんだ? その装備は」
インダルが腕を組んで片目でサクラを睨む。相当気に入らない様子だ。他のメンバーも、反応は様々だが、その服装が当たり前のように見る者はいない。
「装備はあります。……じゃあ、ここで私の能力、解説しても良いですか?」
「えー? 何それ何それー! 君雷属性だよねー? だよねー?」
「……チー、うるさい」
サクラが雷属性だということは、もうすでに公開しているが、実際雷属性ではない。無属性だ。しかし彼らはサクラが無属性である事を知らない。
「ユニコーン」
心の中で唱える。すると、サクラの足から、純白の鎧がみるみる纏われていく。それを、パーティのメンバーは興味深そうに見ていた。
「そなたは雷属性ではなかったのか?」
サクラの変身を見ても、少しも動揺した素振りを見せないインダル。彼が問う。
「少し、特殊な雷属性なんです。電気が溜まりにくいっていうか、なんていうか……」
「…………まぁいい、時間も無し、行くぞ」
サクラが返答に困っていると、インダルは溜息を一つ吐いて切り出した。
インダルは、性格的にシビアなところもあるが、基本的には心が広い男だ。だが、こういうタイプの人は怒るとかなり怖い。
ギルドの受け付け嬢に、ダンジョンへ出発すると、言い渡す。あとは、インダルの仲間が構築した、魔法陣のある場所へと向かうだけだ。魔法陣のある場所は、正面門が掘られた城壁の、丁度上にあるらしい。
一行は、早速そこへ出発した。
◆
壁の上へ来るなり、サクラは驚いたように口を開けた。リョウの召喚術により、魔法陣は何度も見ているが、これは、馬が四頭ほど入れる大きさであり、しかも、円で囲まれた文字などが、とても細かい。こんな魔法陣を見るのは初めてだった。
「ヌーバ、起動を頼む」
「あんよ」
サクラ達がここに来るまでに、魔法陣を構築していたヌーバが、持っていた杖で、カツン、と、地面を叩く。
すると、魔法陣はエメラルド色に輝き出し、風を巻き起こし、光を一直線に、天空に放った。
どうやらこれで、転移可能になったらしい。
「わりげど、三日程度じゃ一方通行の魔法陣しがつぐれながったべさ。ゆるしてけろ」
ヌーバが、手を合わせて謝る。「十分だ、よくやった」と、インダルが制すと、魔法陣の一歩手前まで歩み寄り、そこで振り返り、右手を挙げた。
「これより、『エムズ・ワールド』の攻略を始める! 皆、武器を持て!」
インダルが叫んだおかげで、パーティの皆に喝が入ったのだろう。それぞれが愛用する武器を利き手に持ち、それを勢いよく天空に突き出し、雄叫びをあげた。
「いくぞ!」
インダルも自らの薙刀を掲げ、迷いなく魔法陣へと飛び込んでいった。
魔法陣に入ったメンバーは、次々と虚空に消えていく。
サクラも己の剣を掲げ、魔法陣へと飛び込んでいった。
彼女は、これから待ち受ける迷宮で、数々の経験を積み、勇敢な冒険者となっていくのだ。
今回は短いですが、冬休みも終わるので、ガンガン更新できると思います。




