三十六話 希望と厳しさ
更新が遅れてしまって、申し訳ございません。
リョウがサクラの部屋を後にしたのは、日が沈んだたった今。ベッドの上で、ドアの向こうへと消えていくリョウに、手を振った。
ドアが閉まると、サクラは起こしていた上半身を、ベッドに預け、天井を見上げた。
…………………………刹那、沸騰。
赤くなった顔を、隠そうと両手で覆っても、その隠す手も赤いものだから意味がない。ベッドの上で脚をバタバタさせ、興奮を身体で表している。人に見られたら赤面ものだが、幸いにも、ここは個室だ。
サクラは、リョウと抱きしめあったことが、未だに信じられない。だが、顔を赤らめるほどに思い出される、肌から伝わってくる、自分の鼓動と重なる心音。その音は、みるみる彼女の身体に入り込んできて、優しく包み込むように温めてくれる。身体を合わせるだけで、これまで味わったことのない一体感を覚えた。
リョウが帰った今でも、あの温もりは、身体から離れられないでいる。
これからは、今まで通りに、彼に接することができるだろうか。震える唇、思考を停止させる感情、リンゴのように赤い肌は、その疑問を全面から否定していた。
そんな、乙女チックな彼女の頭の中に……
『クソぅ、リョウめぇ、今度会ったら目を抉って、腸をほじくり出して、頭をかち割って、蜂の巣にしてやる……。そして、それからは、我とサクラのハッピーな時間だァッ。あぁ、我のかわよいさくらたんを汚した罰はでかいぞ、リョウ。今すぐつらだせ、クソ、こんなことなら契約の品をチ××にしておくんだった。クッソ、クッソぉ』
ムードをぶち壊す、ユニコーンの声が響いてきた。
『おい、今すぐ我の名に振ってあるルビを消せぇっ! あとあの「ロリコーン」とかいうタグはなんだぁっ! 消せぇ! 今すぐ消せぇ! 誰もあんなタグ検索しねぇよ! クソ! リョウもろとも谷……』
「辞めて! メタい! メタすぎるから辞めて! ……何で急に出てくるの」
『…………は、す、すまん、我としたことが、出ちゃってたか』
「でちゃってた? 本性?」
『あぁ、ついつい本性が……って、違う! あれは我の本性ではない!』
サクラは世にも珍しいユニコーンの取り乱しに、苦笑いしつつも、突然彼女の脳内に出てきた理由を問う。
『……とても良い報せがある』
「とても良い報せ?」
首を傾げたサクラに、一秒程の間を置いてから、ユニコーンはその良い報せというものを言った。
『ナイトウルフとの戦闘を終えたとき、サクラの剣が微かに光っていた。これは、つまり電気が溜まっている事を示す』
「え?」
耳を疑うのは言うまでもない。雲が無いと、『落雷』が使えない、つまり『充電』が使えないサクラにとっては、本当にとても良い報せだ。これなら、やっとダンジョン攻略の戦力になれる。
だが、同時にこんな疑問も浮かんできた。
「……でも、どうして電気が溜まってたの?」
別に、それが重要な疑問というものではない。むしろ、電気が溜まる理由が分かっていても、分からなくても、都合のいいことには変わりないのだから、その疑問が晴れなくてもいい。だが、やっぱり気になることだ。
『どうして……か。……少し話が飛ぶのだが、良いか?』
サクラはこくりと頷いた。
『我の雷の能力は、我がもともと持っているわけではない』
「えっ? そうなの?」
『ああ、この能力は、我主、スバルもといリョウに与えられたものなのだ。だからこの能力は、「付与魔法」に分類される』
「付与魔法……」
サクラは、知識は薄いのだが、持っている付与魔法の知識を並べる。
付与魔法。それは、使用者のマナを使い、特定の能力上昇効果を、味方に与えるというものだ。攻撃力を与えたり、俊敏性を与えるだとか。
この魔法をうまく使えば、相手が水属性なのに、自分が火属性で、相性が合わない時、付与魔法の力で、『雷の攻撃』を、火属性の者に与えて、戦闘の常識を覆す事だって不可能ではない。
ユニコーンの場合は、もともとユニコーンは属性を持っていないため、正真正銘の無属性だ。そのユニコーンに『雷の攻撃』を与えることによって、(聞こえは悪いが)エセ雷属性になっているのである。
しかし、付与魔法は、あくまで『魔法』であって、属性を与えるなんていうことはできない。あくまでエセなのだ。
『ああ、付与魔法はあくまで魔法。だから、剣士が使う属性とは違って、その剣自体が属性を帯びているわけではない。だから、サクラの場合は電気を掻き集めなければならないのだ』
ナイトウルフとの戦闘に赴く前から、密かに思っていた疑問も、晴らすことができた。だが、まだ全ての疑問が解決したわけではない。
だが、ユニコーンは、問い直すことをしなくても、続けて話してくれた。
『それで、話を戻すと、付与魔法は、魔法なんだから、当然、魔法と同じ効能を持っている。つまりは、大気中からマナを集めて使用する魔法と、我の力は全く同じというわけだ』
「なるほど! じゃあ電気が溜まっていたのは、大気中からマナを集めていたからなんだね!」
サクラは手を叩いて納得する。
面倒な動作が必要な付与魔法だが、うまく使いこなせれば、雷属性の剣士同等の力を発揮できるだろう。
ある程度話が終わったところで、トントンと、木製のドアを指で叩く音が、個室の中に響いた。それと同時に、男の声も響いた。
「え、だ、誰ですか?」
「インダルだ。インダル・ボアホス。重傷を負ったと聞いた。中へ入ってもよろしいか?」
「えぇ、ど、どうぞ」
突然の事に慌てながらも、上半身を起こしながら、入るように促すサクラ。ギィと、少しばかり古いドアが音を立てる。入ってきたインダルは、背中に背負った薙刀が似合う格好をしていた。
薙刀を壁に立てかけ、ベッドの近くの木製の丸椅子に腰掛けた。
「容体はどうなのだ?」
「いや、治癒魔法もあるし、大したことは無いんですけど、今はベッドから離れられません」
腕を組みながら、「そうか」と言ってため息を吐くインダル。そんな彼を見て、サクラは唾を飲み込んだ。
なんというか、彼がその場にいるだけで、覇気が、彼女の全身を貫いていくようだ。やはり、ランク100越えは伊達ではない。
「出発は明日の夕方の予定だが、回復は間に合いそうか? ……やはり今回は九人で……」
「あ、いやいや、大丈夫です! 明日のお昼までにはなんとか全回復するので」
「しかし、身体は鈍っておらぬか?」
そういえば、そうだと、サクラは今やっと気がついた。属性による攻撃手段も見つかったところだし、回復しきれば、ダンジョンには行けるだろうと思っていたが、いくら行けたとしても、戦闘に身体を慣らすまでには時間がかかる。やはり、戦力にはなれないのだろうか……。
だが、ここで諦めては、リョウがランク上げの為にくれた、折角のチャンスが無駄になってしまう。
「いや、大丈夫です。何とかします!」
強い意志を持った目で、拳を握りながら、サクラはインダルの目を見捉えて言った。チャンスは、どんなピンチに陥っても、絶対にものにしなければならないのだ。
「…………何とかする……か」
そんな彼女の目を見ても、インダルは不動だった。腕を組んで、冷静な表情をしていた。流石侍と言ったところだろうか。
「……まぁ良い。お主がそう言うなら、某もそれに応えてやろう」
しばらく考えた後、目を瞑って、その言葉を口にした。
「は」
「ただし! だ」
サクラが、威勢良く返事をしようとした時、それを遮って、インダルはサクラを鋭い目で睨んだ。
ただでさえ覇気が凄い彼に、睨まれたとなると、サクラも流石に戦慄せざるを得なかった。
「某は大口叩いて失敗する輩は何度も見てきた。……お主もそんなことを言うくらいじゃ。当然、足は当然引っ張らないだろう、のう?」
「……は、はい! もちろんです!」
「ならば、よかろう」
そう言って、インダルは立ち上がり、薙刀を背負いながら、「今はこうやって寝ておるが、戦場では活躍を期待しているぞ」と、再度鋭い目で睨んだ。
サクラは、その目に圧倒され、息が詰まって押しつぶされそうだった。インダルが出て行き、ドアを閉めた時なんかは、ためていた二酸化炭素を一気に吐き出すかのようだった。
とにかく、威圧感がとてつもない男だ。こんな男がいる班で、うまくやれるのかと、不安になるサクラ。
そんな中、サクラはふと、気になった事があった。
「あの目には、一体どのくらいの経験が詰まっているんだろう」
あの男が、あれほどクールになる理由は、過去に何かがあったからだろう。
いよいよ2015年も終わりが近づいてきましたね。今年は四十話くらい書けましたので、来年はハードルを上げて二百話くらい書きたいなと思っております。
それではみなさんよい年末を。そして、2016年もよろしくお願いします。




