三十五話 俺が/私が
更新が四時間遅れてしまいました。
楽しみにして頂いた読者様、大変申し訳ございません。
〈後書きに重要なお知らせがあります!〉
見事に晴れた、空の下。リョウは手すりに前に寄りかかり、青い青い空を見上げていた。繁華街のにぎわっている声が、少しうるさかった。
あの後……サクラを見つけた後、リョウは呪術符を貼り、サクラをあまり揺さぶらないように、城壁をこえて診療所まで走った。みるみる冷たくなって、人間の体温でなくなっていくサクラに、リョウはあせった。いや、あせったどころではない。顔が涙や汗でぐちゃぐちゃだった。
夜なので、診療所は閉まっていたが、リョウの必死のノックと呼び声で、医師はなんとかドアを開けてくれた。医師が持つ医療技術で、サクラは何とか一命を取り留めたが、目を覚まさないまま二日経ってしまった。
本当はサクラの隣に居たかったが、涙が溢れ出てきて、自制を保てなくなるため、気持ちを落ち着けるために、こうやって外に出てきた。空は、サクラの容体とは反対に、呆れるほどに晴れ渡っていた。
「………………」
リョウは、力強く握りしめた拳に目を移し、歯を食いしばった。
……今の自分には、仲間がいないと何もできない。それが、悔しい。
実は、自分で即座に判断して、サクラを診療所まで運んだのではない。ナビどらごんが出てきて、「スバル! 目を覚ますナビ!」と頬に喝を入れられてから我に帰り、運んだ、いや、運べた。
ナビどらごんが出てきてくれなかったら、間違いなく、サクラは死んでいた。
やはり、仲間がいないと何もできない。助かる人を、助けることさえできない。ただ、失うことに怯えているだけ。何もできない哀れな自分。
昔は、昔はどうだっただろうか。仲間が居なくても、人を護ったり、人を助けたり、そんなことができただろうか。
……いや、できなかった。いつも仲間が、リョウより先に行動したり、リョウを助けたりした。自分から、人を助けることは、一切できなかった。
今回や、過去の仲間の死は、その罰だ。そのように感じる。自分一人の力では何もできない。と怖気ついているから、神様は罰を与えているのだ。
「クソ!」
リョウは、自分の無力さに、悔しさを覚えて、思わず手すりに拳を叩きつけた。目には涙がにじんで、一滴顎へ流れていった。
「俺が、臆病だから……」
怒りで声が震えてしまう。
「俺が、弱虫だから……」
手すりから手を離し、早歩きをし始める。向かうは、診療所。
「俺に、力が無いから!」
大粒の涙が、頬を伝って止まらなくなった時、リョウは無我夢中で走り出した。
繁華街の人混みを、縫うようにして駆け抜ける。
「おい! あぶねぇじゃねぇか!」
肩がぶつかっても、構わず走り続ける。ぶつかった人には悪いが、リョウにとってそんなことはどうでもよかった。
「サクラ!」
診療所の入り口を、壊れそうな程に勢いよく開けて、中に駆け込む。診療所のマナーなどもどうでもよく、「静かにしてください!」という声も、今は耳には届かない。
サクラの部屋を、入り口と同じように開ける。
「スバル! 静かにするナビ!」
ベッドの上に、サクラはいた。人形のような、華奢な身体には、包帯が幾重にも巻かれて、とても痛々しかった。
「絶対安静するように言われてるナビ!
いくら感情が荒ぶったって、今は抑えるナビ!」
「あぁ、抑える。抑えるけど、これだけは、言わせてくれ」
サクラの前に立ち塞がるナビどらごんを、手で退ける。ナビどらごんは反抗しようとするが、今のリョウを、誰も止めることはできないだろう。
サクラの前でしゃがみ、包帯が巻かれた手を両手で握り、つむったままの目を捉えて言った。
「……ごめんな、サクラ。……こんな、臆病で、弱虫で、ガキみたいな俺を、旅の仲間なんかにさせて、ごめんな。……そうだよな。お荷物だよな。こんなやつ、仲間になる資格ないよな。人一人も護れない、臆病なやつなんて、いらないよな。…………本当に、ごめんな」
リョウは、強く強く、サクラの手を握りしめた。その手に、涙が何滴もこぼれ落ちていった。
「……サクラ、お願いだ。見せてくれ。……もう一度だけ、お前の、笑顔を。……美しくて、眩しくて、天使みたいな、お前の笑顔を。もう一度だけ。……そしたら俺、消えるよ。……消える。こんな俺の、我儘に、答えて、くれないか……? お願いだ、 起きてくれぇ」
肩を何度も何度も上下に震わせ、泣き喚くリョウ。
今のリョウでは、サクラに劣る。こんな奴に、戦闘術や生活の術なんて教えられたって、屈辱でしかない。だから……消える。
でも、リョウは、最後にもう一度だけ、サクラに生きて笑っている姿を見させてもらいたかった。だから、我儘を言った。
臆病で、弱虫で、無力な、リョウの、我儘。
涙が一滴、手の上にこぼれ落ちた。
その涙は、強い想いがこもった一滴は………………奇跡を、呼んだ。
サクラのまぶたが、ゆっくりと開き、その瞳を、リョウに見せてくれた。
リョウは、なんとも言えない気持ちになった。神様は、俺の我儘に応えてくれたのか。臆病で弱虫で、無力な俺に。
「リョ……ウ?」
サクラの声が聴けた時、リョウは涙がさらに溢れ出た。抑えきれない感情が、涙となって頬を伝った。
「サクラ!」
サクラの身体を、力強く抱きしめた。ただただ、こうしたかった。サクラの容態は、気にも留めなかった。
リョウの行動に、サクラは戸惑いを隠せずに、目を点にして顔を赤くする。
(え? え? ちょ、リョウ?)
「サクラァ! サクラァァッ!」
サクラは助けを求めるように、ナビどらごんを見るが、親指を立ててニヤリと笑い、そのままドアを開けて出て行ってしまった。サクラにしては、「ええええええええええええっ!?」という行動だ。
「……ちょ、リョウ……苦しい……」
「……あ、す、すまんっ!」
とりあえず、絶対に解放されるであろう言葉を言って、リョウの拘束から解放される。
そして、サクラは状況を整理する。
(おきました。抱きしめられました。…………っ!!??!??!!?!?)
だめだ。頭はあてにならない。いくらなんでも興奮しすぎだ。理性が崩壊している。
(今、私、どんな顔してるんだろう……唇が震えて、顔が真っ赤……かな)
数秒たってやっと、冷静に頭を整理できた。
顔を赤らめながら、リョウを見ると、うつむきながら言った。
「ごめんな……俺に力がないばっかりに…………起きてくれて……本当に、よかった……」
その言葉を聞いて、サクラは思い出した。
夜の狩りに行って、ナイトウルフを数匹倒したあと、突然、ゴーレムが現れて、サクラは殴られて、血を吐いて気を失った……。
「私……生きてる?」
本人からでもわかる。あの吐血の量は、死を意味していた。しかし、サクラは生きている。一体なぜ……?
だが、そんな疑問も、辺りを見てすぐに分かった。ここはおそらく、ナルーガ王国の診療所だ。リョウに、ここまで運んでもらったのだ。
「……本当に、ごめんな」
「い、いや、勝手に外に出たのは、私の方だし……」
「いや、俺がもっと早く気付けば、こんな事にはならなかった……ごめんな」
「……もういいよ」それよりも、「謝るのは……私の方だよ」
サクラは、リョウを護ると言った矢先に、ゴーレムに殺されかけた。この程度の力じゃ、リョウを護ることはできない。……力がないのは、私の方だ。
「私、リョウを護るって、言ったばっかりなのに、こんなにされちゃって、……ごめんね、またリョウに心配かけちゃって」
リョウは静かに俯いた。
彼は、仲間を殺され、その上裏切り者に仕立て上げられて、ただでさえ、心がズタボロだ。サクラはそれに、追い打ちをかけてしまった。
「ごめんなさい。ちゃんと反省する。もうこんなことしない。私、リョウをもう傷つけたりしない。……次こそは、護」
「……何謝ってんだよ」
「え……」
(俺は、なんてこと、言ってんだっ!)
リョウは突然、自分の顔面を思いっきり殴った。自分を痛めつけるためにやったのに、全く痛みを感じなかった。弱い証拠だ。
「強くなるのは……俺の方だ」
(こんな、優しくて、危ない子から離れてはいけない!)
「俺は元勇者だぞ! 女の子一人護れない勇者なんて、死んじまえ!」
また、思いっきり、顔面を殴った。衝撃で横に倒れる事ができた。
そんなリョウの奇行を、サクラはきょとんとした目で見ていた。
リョウはゆっくりと立ち上がり、しゃがんでサクラに視線を合わせた。
「悪い、俺はどうかしてた。消えるだなんて都合のいい冗談を言っていた。悪い」
リョウはもう、泣いてはいなかった。
やっと、やっと決意を固める事ができたのだ。こんな傷を負ってまで、まだ自分のことを護りたいだなんて言う、危なっかしい女の子は、放ってはいけない。
失うのが怖いから消える? 消えたら、会えなくなるから、失うのと同じだ。
「俺、ランクを100にする」
「え!? ……それじゃあ、リスクが……」
「関係ない、バレたら全員ぶっ飛ばせばいい」
「そんな無茶な……」
「お前が俺を護るなら俺がお前を守ればいい! お前を見てて気づいた。怖気付いてちゃダメなんだっ!」
「っ……」
サクラは、ぶっちゃけてしまえば、リョウの事は人想いだが、ネガティヴ思考だ、と思っていたが、拳を固く握って話すリョウの目を見て、圧倒された。気迫が強く、頼り甲斐のある目だ。
だが、サクラの護るという思いは変わらない。むしろ、危なっかしく見えて、より護りたくなった。
「私だって、リョウのこと、護るもん」
「いーや、俺が護る」
「私が護る!」
「俺が護る!
「私が!」
「俺が!」
どんどん顔を近づけて、睨み合う二人。数秒睨み合った後、よくよく思えばバカらしくなってきて、二人同時に吹き出した。
先に笑いを抑えたのはリョウ。サクラの、満面の笑顔に、微笑みが溢れる。リョウの我儘は、たった今、叶った。
「……なぁ、サクラ」
「……何?」
「もう一回、抱きしめていいか?」
「っ!?」
その言葉を聞いた瞬間、サクラの顔は、一気に赤くなった。あんな恥ずかしい事を、また? と思うと、何やら嬉しいような嫌なような複雑な気持ちになった。何故か心臓の鼓動も速い。
リョウは、抱きしめるということを、なんとも思っていないのだろうか。友情を深めるためなのか。それとも、恋愛感情なのか、サクラにはわからなかった。
だが、迷うところだが、取り敢えず……
「……うん」
と、囁くように言った。恥ずかしくて死んでしまいそうだった。
リョウは、ゆっくりと寄り添い、サクラの華奢な身体に手をまわし、目を閉じる。
リョウの温もりが、サクラの身体全体に染み渡り、ほっこりとした気持ちになる。サクラも、やや躊躇いがちだが、やっとの事で、リョウの身体に手を回す事ができた。
サクラは、……まるで二人の体温を交換するような感じになった。気持ちがいい。恥ずかしいが、それよりも、気持ちが良くて、眠ってしまいそうだった。
そのまましばらく、二人は温め合っていた。
「ん? なんだこれ」
先に目を開いたリョウは、サクラの頭の中心に、親指程度の大きさの白い突起物がある事に気づいた。その突起物は、少し丸っこい。
興味本位で、その突起物を、人差し指で、優しく撫でてみた。
「そろそろ終わったナビ〜?」
と、そこでナビどらごんがドアを開けて入ってくる。そして……
「……んっ、あっ」
撫でられた感触に、顔を赤くして、色っぽく声を出すサクラ。それを聞いたナビどらごんは、さながら噴火のように大量の鼻血を吹き出した。何故か、幸せそうな表情をしていた。
……その後、ナビどらごんは、多量出血でこの世から旅立った……。(という話は無い)
この作品を、一話から書き直したいと思います。
序盤の説明が曖昧だし、何より(今も文章力には絶対の自信が持てませんが)文章力がありません。
これでは、伝えたい事も伝えられません。
ので、書き直します。
ストーリーは一部しか変わりませんが、設定が大幅に変わる可能性があります。(あくまで可能性です。)
書き直しが終わりましたら、『修正版』を1週に三回投稿します。(活動報告でお知らせしますす)ちなみに、修正版をすべて投稿しましたら、続きの執筆をそちらに移させていただきます。続きが読みたい方は修正版をご覧ください。
尚、この話の続きの更新は、予定通り来週日曜日に更新しますので、ご心配なく。
では、これからも、『ただの召喚士(本人自称)』をよろしくお願いします。




