三話 イリシアネの破滅 前編
投稿が遅れて申し訳ありません。
これは、スバル一行がイリシアネの街まで来る少し前のこと。
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空は雲一つ無く晴れ渡り、今日も太陽が、イリシアネの街を、ギラギラと照りつけている。
ここ、イリシアネの街にてよろず屋を営んでいる中年の男がいる。
名はラクデーン。
14歳になったばかりの娘を持つ、シングルファザーだ。
彼の妻は娘を産んだ際に死んでしまっている。
ので、男手一つで娘を育てできた男だ。
「今日は網のトラップが半額だよぉ〜!
さぁ、買った買ったぁ〜!」
今日もラクデーンの威勢のいい声で呼び込みをする。
明日も娘に食べさせるためだ。
娘の為だったら、ビッグビーという大きな蜂のハチミツだって、体を張って取りに行く。
たまに大怪我をするので、「今日もハチミツ採ってきたぞー!」と娘に言えば、「お父さん、あまり無理しないでね」
などと、妻と夫みたいな会話を毎日のようにしている。
「網のトラップが、半額!?」
「よろず屋へ行くぜー!」
「ほら、早くしないと売り切れるわよ!」
ラクデーンの呼び込みに反応した冒険者達数名が、一斉によろず屋へ駆け込む。
網のトラップは、魔物が捕獲できるが故に、1000エルと値段も高い。ので、これが半額になると500エルになるため、冒険者達は叫んで喜んで買いに行く。
だが、これがラクデーンの狙いだ。
安い商品ではなく、高い商品を半額にすることで、冒険者達は高いから買わないと諦めていた商品を買うようになる。
そして、半額も本日中なので、予備に沢山買っておこうとかなりお金を使う。
そうすると、通常価格の日に15個程度売れて、15000エル儲かった。
半額の日には、買う冒険者は増え、さらに、1人二個、あるいは三個買うとしたら、役30000エル程度売れるということだ。
ラクデーンはこれに掛けて半額にしている。
ラクデーンの掛けは大当たりで、見事に通常価格の売り上げより多く儲かった。
まぁ、たまに掛けが外れるときがあるが………
しかし今日もラクデーンの思惑通りだった。
冒険者達は一斉に網のトラップが入っている箱に手を伸ばし、どんどん取り、じゃんじゃん買う。
数分後、網のトラップの今日の分の在庫がなくなってしまった。
在庫は無くなったが、稼いだエルは、36000エルとかなり高額な値段稼いだ。
「ふぅ〜」
ラクデーンは、客足が途絶えて数秒後、
大きなため息をついた。
冒険者達の殺到に、ラクデーンは毎回疲れさせられる。
だが、これだけ儲かったのだから、この疲れはそれ相応の事だろう。
時刻はまだ11時程度。
昼食にはまだ1時間もある。
なのにもうすでにくたびれている。
ラクデーンは、呼び込みをする気力を無くしてしまった。
ので、あとは、薬草などを買いに来る客を待つ事ぐらいしかできない。
ラクデーンは客が来るのをじっと待っていた。
待っているうちに、うつらうつらと首が揺れ、寝てしまった。
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一方、ラクデーンの半額セールが終わった頃、村の東では冒険者たちによるダンジョン攻略が行われていた。
このダンジョンの名は、「緑の洞窟」
と呼ばれる。
この緑の洞窟は、地下型ダンジョンだ。
層に隠されし階段を見つけ、下って下って最深部を目指す。
最深部は、B99Fと、広さはそこそこのダンジョンだ。
B1FからB9Fまでは、比較的弱い、スライム系やワーム系や、バタフリー系の魔物が出てくるが、B10Fからは魔物の強さが徐々に強くなってくる。
ので、冒険者達の考えは一度、B9Fあたりで鍛錬を積んでからB10Fに降りていく、という寸法だ。
そして、B99階まで辿り着いたものは、ダンジョンの中でも最高級に強い魔物と戦う。
無論。負けたら死ぬので、どれくらい鍛錬を積んだかどうかが重要になってくる。
今日も、B99Fまでたどり着いたパーティがいた。
「ナリーシャ!ケイト!左右から同時に叩け!ガメロとアリルは二人の回復と援護を頼む!」
「「「「了解!」」」」
まるで人食いバナのような魔物と戦っているパーティ。
ナリーシャと呼ばれる女が、長剣を振るっている。
ケイトと呼ばれる男が短剣を投げたり突き刺したりしている。
ガメロ、アリルと呼ばれる男女が回復呪文の詠唱を唱え、ナリーシャ、ケイトの傷を癒している。
そして、彼ら彼女らに指示を出している男がこのパーティの参謀。イスタだ。
「くらえ!『完全切断』ッ!」
アリルが人食いバナのような魔物に斬撃を入れる。その斬撃は、脚のようなツルを斬り裂き、行動不能にする。
その隙にケイトが短剣に毒を塗り、投げる。
ケイトの短剣は、矢が放たれる様に、まっすぐと突き進んで、人食いバナの茎につき刺さった。
そこから、赤紫色の毒が、緑色の葉緑体を赤紫に染めていく。
やがて、人食いバナは全身が赤紫色に染まり、力なくしおれていった。
「よっしゃぁ!」
ケイトが人食いバナが完全に動かなくなったのを確認し、両手を握りしめ、歓喜の声をあげた。
「喜ぶのはまだ早いわよ。この死骸をギルドに持って行って、お金をもらわないと…じゅるり…」
「ナリーシャはほんと金が好きだなぁ」
ナリーシャは、ヨダレを垂らし、それをガメロが、少々引いた感じで見ている。
「さて、ギルドへ急ぐぞ」
人食いバナとの戦闘時、参謀役を勤めていたイスタと呼ばれる根暗の男は、杖で魔法陣を描き、人食いバナの死骸を魔法陣の中に入れる。
そして、パーティは来た道を戻る。階段を登りながら、彼等は話す。
「これで、我らのパーティの未踏査ダンジョンは9つに減ったな。さて、参謀。次はどうする?」
「そうだな。次はここから最も近い「オーリア火山」にでもいってみるか」
「分かったぜ」
ケイトはイスタをのぞいたパーティ全員に次の行き先を知らせる。と、イスタの後ろから話し声が聞こえてくる。
冒険を楽しむ、冒険者の日常。
辛いこともあれば、楽しいこともある。
今日は彼らにとって一番辛い日になるだろう。
そんな未来が待っていることなんて、パーティ全員が知るわけがなかった。
☆☆☆
緑の洞窟をぬけた、イスタ率いるパーティは、イリシアネの街に向かって歩を進める。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……
「雷がなってるな」
空の異変にいち早く気づいたイスタは呟いた。
「早く宿に行きましょう」
「なんだ?ナリーシャ。雷が怖いのか?」
「そ、そんなわけ、な、ないじゃない!」
そんなやり取りを前で聞きながら、イスタはひとり妙な感じがしていた。
ーー雷雲にしてはやけに深い紫色だ。なんだ?この雲は…
刹那、赤黒い稲妻が耳がおかしくなりそうなほどうるさい雷鳴を響かせ、パーティの背後に落ちてきた。
ザシュッ………
「きゃぁ!?」
「うわぁっ、あぶねぇあぶねぇ」
ケイトとナリーシャがある不穏な音に気がつかなかったため、落ちてきたモノを見て、初めて悲鳴をあげた。
そのモノとは、
ガメロの…いや、ガメロだったものの頭部だった。
「なにやってんだ!下がれ!」
イスタがナリーシャ達に呼びかける。咄嗟にイスタの背後に飛ぶ。
「な、な、なんで?」
突如落ちてきたものに疑問を浮かべるが、正面を見て、すぐに分かった。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ザシュッ………
アリルの首を斬り飛ばした瞬間を見たナリーシャは、またもや悲鳴をあげた。
ナリーシャは腰を抜かした。
ケイト、イスタが、それぞれ武器を構える。
「おい!イスタ!あいつはなんなんだ!?」
「わからない。あんな魔物初めて見た…」
魔物は、カマを持っていて、8頭身ほどの全身が黒く、ツノが渦のように生えて、目は赤くてつっている。
コウモリのようなとても大きな翼を持ち、羽ばたいている。
持っているカマには、赤い鮮血がこびりついている。
「びっくりしてる場合じゃねぇだろ!早く指示を出せよ!」
「………そうだな。お前は短剣を投げろ!投げるだけだからな!」
「分かった!」
「早く立て!ナリーシャ!」
「……むり…むり…」
「なに言ってんだ!お前はこのパーティの中で一番の負けず嫌いだろ!そこで腰を抜かしているようじゃケイトには勝てねぇぞ!」
「……うるさい!私はケイトには絶対に負けない!」
「ナリーシャは、相手の動きを止めろ!」
「うおおおおっ!」
ナリーシャは、超速力で魔物に向かっていく。対する魔物はケイトの短剣投擲に応戦している。
ーーチャンス…!
ナリーシャは、ニヤリと笑みを浮かべ、魔物にジャンプ斬りをする。
が、魔物はナリーシャを片手で止めていた。
しかし、触れてはいなかった。よく見るとナリーシャは、薄紫色の何かで覆われている。
「呪文!?」
イスタが声をあげる。
魔物は、止めていた手を握り、人差し指で右をさした。すると、指がさす方向と同じ方向へ吹き飛ばされた。
ナリーシャ地面を跳ね、数回転がり、うつ伏せの状態で止まった。
「う…動けない…」
吹き飛ばされたが、薄紫色のモヤモヤしたものは、ナリーシャの全身にまとわりついていて、ナリーシャにものすごい重力がかかって動けないでいる。
「『封印の解放(キュアー ザ マジック)』ッ!」
それを見たイスタは、咄嗟に呪いを振り払う魔法を、ナリーシャにかけて、薄紫のなにかを取り除いた。
それを見た魔物は、標的をイスタに変える。
「な!?こいつ…剣が効かない…」
ケイトはイスタに向かって走る魔物に、精密に狙いを定め、短剣を放つが、魔物に刺さっている、にも関わらず、血液一滴すら出てこない。
「クソッタレ!」
イスタは、魔物に炎の魔法を放つが、効かない。魔法を放つうちに、イスタはどんどん力が尽きていく。
やがて、魔法が出なくなる。
その隙を狙って、魔物がカマを振る。
「させるか!」
ケイトがイスタを守るべく、短剣だけでカマを受け止める。
「ぐぁぁぁぁぁぁっ!」
ケイトの腕の骨が、魔物の凄まじい力が、短剣から伝わって、どんどん砕け、しまいに身体ごと右手が吹き飛ばされる。
「そこ!」
ナリーシャは、いつの間にか背後に回っており、ジャンプ斬りを首に向けて放った。
「とったっ!」
ナリーシャは、首に斬りつけようとしたが、
魔物に生えていたツノが背後に伸び、ナリーシャを貫いた。
「ナリーシャ!」
ナリーシャの背中から鮮血が勢いよく吹き出した。
ナリーシャは、自分を呼ぶ声が聞こえた気がしたが、血を吐いて、その呼びかけに応答することができなかった。
「くっそぉぉぉぉっ!」
ケイトは怒号をあげ、短剣を魔物に投げたが、ツノはグニャグニャと動き、ナリーシャを盾にして短剣を防いだ。
「なんだと…」
もう片方のツノが一瞬にしてケイトを貫いた。
「グガァッ……」
ケイトは血を吐きながら絶命した。
「………もう……俺だけか?」
イスタは目の前で仲間が殺されていく光景を、ただ呆然と見ていた。
魔物がイスタに向かって、ゆっくりと動き出した。
「………ああ?……なんなんだよ?」
イスタは気が狂ったのか、それとも疲れたのか、迫り来る魔物と戦おうとしなかった。
所詮イスタは、参謀。
仲間に指示を出して、アシストする魔法使い。
仲間がいなければ、戦えない。
「お前はぁッ…一体ィ…なんなんだよぉッ!」
ザシュッ
勢いよく振られたカマが、イスタの身体を斬り刻み、そこに血の雨が降った。
この時既に、イリシアネの街の破滅は始まっていた。
説明
エル:お金の事




